第五十九話 楽しそうだった
朝。
セイルは王都の外周を走っていた。
一定の呼吸。
一定の速度。
足音だけが静かに響く。
昨日の風針鼠戦を思い出す。
役割。
アッシュは倒した。
レナは守った。
自分は見た。
あの戦いは、一人では勝てなかった。
役割があったから勝てた。
走りながら考える。
まだ答えにはならない。
それでも。
頭から離れなかった。
---
訓練場の横を通る。
木剣を振るアッシュが見えた。
今日はやけに動きが遅い。
……いや。
構えを確認している?
そう思った瞬間だった。
一瞬だけ。
姿が消えたように見えた。
目で追えている。
それなのに。
動き出しだけが見えない。
セイルは少し目を細めた。
楽しそうだった。
何かを掴んだんだろう。
声は掛けない。
セイルはまた走り出した。
---
魔法屋の裏庭。
レナが砂鉄を整形している。
「ボックス」
反発。
発射。
失敗。
また整形。
また試す。
「違うなぁ」
また整形。
楽しそうだった。
セイルは革袋へ視線を落とす。
風針鼠の針。
いくつか売らずに取っておいた。
渡そうか。
少し考える。
やめた。
今は邪魔したくなかった。
声は掛けない。
セイルはまた走り出した。
---
街角でルークと会った。
「お、朝から走ってるな」
「うん」
「試験まであと少しだな」
「そうだね」
「無理すんなよ」
ルークは軽く手を振る。
セイルも手を上げた。
それだけだった。
---
強い敵を倒せば強くなれる。
ずっと、そんなものだと思っていた。
でも。
風針鼠は強くなかった。
それでも苦戦した。
勝てたのは、一人が強かったからじゃない。
……強くなるって、そういうことじゃないのかもしれない。




