第五十五話 託す
圧縮。
セイルの視界が変わる。
風。
魔力。
見えなかったものが、見える。
風針鼠が魔法を放つ。
その直後。
ほんの僅かに呼吸が乱れた。
魔力が切れる。
隙。
だが、別の一匹がすぐに魔法を放つ。
三匹で弱点を補っていた。
自分には見える。
躱せる。
隙も作れる。
「アッシュ!」
セイルは叫んだ。
「交代だ!」
「はぁ!?」
アッシュが目を見開く。
だがセイルはもう走り出していた。
風針鼠たちの中央へ飛び出す。
「一撃を頼む!」
目に見えない風針が飛ぶ。
セイルは体を傾ける。
もう一発。
足をずらす。
さらに横。
屈む。
速くはない。
それでも当たらない。
アッシュは一瞬、セイルの正気を疑った。
俺が何とか……
違う。
セイルに一撃を託された。
なら。
敵を倒すには何が必要だ。
考えろ。
距離。
近付ければ斬れる。
だが届かない。
全速力。
足りない。
木を使う。
違う。
それでも届かない。
アッシュは周りを見る。
レナ。
砂鉄。
反発。
「レナ!」
アッシュが叫ぶ。
「俺を飛ばせ!」
「え?」
「盾で殴ってくれ!」
レナは一瞬、アッシュの正気を疑った。
だが。
アッシュの目は真剣だった。
「待って」
レナは息を吸う。
反発。
エルザの言葉が浮かぶ。
ジャンプの補助くらいなら出来るかもしれませんね。
補助。
反発も合わせれば。
もっと飛ぶ。
アッシュの両足。
この広さ。
板。
作る。
反発。
足りない。
箱。
これをもう一つ。
二つの箱を向かい合わせる。
砂鉄が震える。
反発しようとする力を抑え込む。
最大出力。
精密操作。
レナの顔が歪む。
歯を食いしばる。
「……いける」
レナは叫んだ。
「アッシュ!」
「乗って!」
アッシュが走る。
風針が飛ぶ。
セイルが投げた石が、風針鼠の前を掠める。
一匹が跳ぶ。
魔法が途切れる。
アッシュが箱へ飛び乗る。
レナが叫ぶ。
「合図を!」
セイルは風針を躱す。
一匹。
二匹。
三匹。
見えている。
魔力の切れ目。
手の中の石。
アッシュ。
レナ。
風針鼠。
「……今だ!」
投石が放たれた。




