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第五十四話 風針鼠


騎士団試験まで十一日。


三人は冒険者ギルドの依頼掲示板を眺めていた。


前線へ行く。


そのためには強くならなければならない。


強くなる。


そのために強敵をねじ伏せる。


その戦いで強くなる。


更に強い敵をねじ伏せる。


誰も口にはしなかった。


だが。


それが三人の共通認識だった。


薬草採取。


荷物運搬。


低危険度討伐。


アッシュは首を振る。


「こんなんじゃ強くなれないだろ」


レナも黙って頷く。


セイルも反対はしなかった。


やがて一枚の依頼書が目に留まる。


風針鼠討伐。


報酬は高い。


推奨ランクはD。


受付へ向かう。


依頼書を見るなり、受付嬢の表情が少しだけ真面目になった。


「こちらは風針鼠の討伐ですね」


三人は頷く。


「Fランクの冒険者には、魔法を使う魔物討伐は任せていません」


アッシュが少し驚く。


「そんなに違うのか?」


「はい」


受付嬢は頷いた。


「小さな魔法でも危険度は一気に上がります」


少し間を置く。


「皆さんはEランクに上がったばかりですが……それでも受注されますか?」


三人は顔を見合わせる。


答えは決まっていた。


「お願いします」


受付嬢は小さく息を吐く。


「分かりました」


「危ないと思ったら、迷わず撤退してください」


三人は依頼書を受け取り、森へ向かった。


---


森へ入る。


湿った土。


風に揺れる枝。


鳥の鳴き声。


セイルはすぐに足を止めた。


「どうした?」


アッシュが聞く。


セイルは地面を見ていた。


小さな穴。


一つではない。


無数にある。


「足跡じゃない」


しゃがみ込む。


穴は一直線ではない。


飛び飛びに続いている。


「……魔法か?」


セイルは穴を追う。


少し先。


木の根元。


小さな影が動いた。


風針鼠だった。


灰色の体。


針のような体毛。


丸い耳。


体は小さい。


一匹だけなら、それほど強そうには見えない。


だが。


木の上。


茂み。


岩陰。


次々と姿を現す。


三体の群れだった。


アッシュが剣を抜く。


その瞬間。


何かが頬を掠めた。


「っ!」


目に見えない攻撃。


風針。


風針鼠の魔法だった。


「魔法か!」


アッシュが駆け出す。


近付けば斬れる。


一匹へ向かう。


だが。


横から風針。


僅かな音を頼りに剣で払う。


その間に。


風針鼠は距離を取る。


再び踏み込む。


別方向。


また風針。


木の上。


地面。


茂み。


次々と攻撃が飛ぶ。


一体が魔法を止める。


しかし。


すぐ別の一体が魔法を放つ。


途切れない。


見事な連携だった。


アッシュの腕に小さな傷が増える。


「くそっ!」


レナも前へ出る。


風針の射程外。


ランスを作る。


放つ。


避けられる。


「速い……!」


もう少し近付く。


もう一度ランス。


その瞬間。


風針。


見えない。


反応が遅れる。


砂鉄のマントが風針を受け止める。


だが。


作りかけのランスは崩れた。


攻撃しようとすると攻撃される。


絶妙な距離感だった。


防ぐことは出来る。


だが。


攻められない。


セイルは二人を見る。


アッシュ。


近付けば倒せる。


レナ。


防御は問題ない。


だが。


こちらの攻撃は一度も当たらない。


アッシュに小さな傷が増える。


レナの魔力は減り続ける。


セイルは焦っていた。


打つ手がない。


撤退。


その二文字が頭をよぎる。


だが。


違和感。


相手の連携がうますぎる。


強い魔物なら、ここまで連携に頼らない気がする。


……何かある。


セイルは静かに風針鼠へ視線を向ける。


小さく息を吸った。


「……圧縮」



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