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第五十三話 役割


翌朝。


今日は依頼の日だった。


それでもセイルは王都を走っていた。


アッシュは宿にいなかった。


おそらく剣を振っている。


昨日の模擬戦が頭から離れない。


レナを圧倒するアッシュ。


しかし自分が後ろにいると動きが悪くなる。


守ること。


倒すこと。


同じ相手だった。


同じ実力だった。


なのに戦い方は変わった。


目的が変わったからだ。


そこまでは分かる。


だが。


その先が分からない。


何故か妙に引っ掛かっていた。


その時。


後ろから足音が聞こえた。


振り返る。


昨日の少年だった。


「おはよう」


セイルは声を掛ける。


「あ、おはよう」


少年は少し笑った。


「君、昨日も走ってただろ?」


「ああ」


「昨日見てから走り方を参考にしてた」


少年は苦笑する。


「そんな大層なもんじゃないよ」


「ずっと続けてるだけさ」


少し間を置く。


「あ、俺はルーク」


「セイル」


二人は並んで走り始めた。


「今度の騎士団試験を受けるんだ」


「セイルも?」


「ああ」


「体力が全然足りないけどな」


ルークは少し笑う。


「分かる」


「俺も受けるよ」


ルークは少し前を見ながら言った。


「騎士は夢なんだ」


「夢か」


セイルはアッシュを思い出した。


「俺の仲間もそうだ」


「《上級剣士》を貰った時、すげぇ喜んでた」


ルークが目を丸くする。


「《上級剣士》か」


「凄いな」


少し羨ましそうに笑う。


「俺は地味なスキルだから」


「地味なのか?」


セイルは純粋に疑問だった。


ルークは少し笑う。


「俺のスキルは《持久力》」


「強くはないけどさ」


「伝令とか補給とか」


「役に立つ仕事はあると思うんだ」


「そうか」


セイルは少し考える。


「でも何で騎士なんだ?」


ルークは前を見る。


王都の中心。


騎士団本部の方向だった。


「《持久力》って動かなきゃ意味がないだろ?」


「どうせ努力するなら」


「夢に向かった方がいいじゃないか」


少し照れくさそうに笑う。


「俺は努力の才能を貰ったと思ってる」


セイルは少し感心した。


ルークは迷っていない。


夢がある。


だから努力する。


だから走る。


その順番が自然だった。


昨日のアッシュとは少し違う気がした。


オオカム採取を思い出す。


アッシュは戦った。


レナは守った。


自分は掘った。


《上級剣士》。


磁力魔法。


《よく見える》。


役割は違った。


だが。


本当にそうだっただろうか。


自分は《よく見える》だったから掘ったのか。


アッシュは《上級剣士》だったから戦ったのか。


レナは磁力魔法だったから守ったのか。


違う気がした。


スキル。


目標。


役割。


夢。


何かが足りない。


何かが見えていない。


だが。


それが何なのかは分からなかった。


---


やがてルークが少しずつ前へ出る。


やはり走るのは速い。


「またな」


セイルはその背中に声を掛ける。


「おう」


騎士を目指す少年は真っ直ぐ進んでいく。



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