表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
53/65

第五十二話 目的


三人は早朝訓練を終えた後。


バドウィン魔法屋。


セイル、アッシュ、レナは、いつものようにエルザから圧縮訓練を受けていた。


疲労感はある。


だが、その瞳は燃えていた。


集中力も高い。


先日とは別人のような三人を見て、エルザは小さく頷く。


「午後からは模擬戦をしましょう」


三人が顔を上げた。


「模擬戦?」


レナが聞き返す。


「はい」


エルザは淡々と答える。


「今の皆さんに必要なのは実戦です」


アッシュは少し口元を緩めた。


セイルも頷く。


レナは少し不安そうだった。


---


午後。


魔法屋の裏にある訓練場。


エルザはレナを見る。


「レナは砂鉄を主体に戦ってください」


「はーい」


レナは軽く手を振る。


アッシュは木剣を構えた。


開始の合図。


アッシュが前へ出る。


速い。


レナは即座に砂鉄マントを展開する。


木剣がぶつかる。


砂鉄が散る。


レナは防御に追われた。


マント。


シールド。


牽制。


防ぐだけで精一杯だった。


ランスを作る余裕が無い。


前衛のいないレナは、一人で時間を稼がなければならない。


だがアッシュは止まらない。


攻撃。


攻撃。


攻撃。


やがてレナの防御が崩れた。


「そこまで」


エルザが言う。


勝者アッシュ。


予想通りの結果だった。


「さすがに無理かぁ」


レナが苦笑する。


「まあな」


アッシュは少し得意気だった。


だがエルザは続ける。


「アッシュ」


「はい」


「あなたは強いです」


アッシュの表情が少し緩む。


「今度はセイル」


「え?」


「そこに立っていてください」


訓練場の端を指差される。


セイルは困惑しながら移動した。


エルザは続ける。


「レナがセイルに攻撃を当てても勝ちです」


アッシュの表情が変わった。


レナも少し驚く。


開始。


アッシュは前へ出る。


だが一歩目で止まった。


セイルから離れられない。


攻めたい。


だが攻めれば隙が生まれる。


その迷いをレナは見逃さない。


砂鉄が集まる。


ランス。


アッシュが踏み込む。


発射。


木剣で弾く。


成功。


その瞬間。


別方向から飛来したナイフがセイルの肩へ当たった。


刃は潰してある。


だが命中だった。


「そこまで」


レナが目を瞬かせる。


アッシュは言葉を失った。


ランスは防いだ。


なのに負けた。


「もう一回だ」


アッシュが言った。


今度は違う。


守るから駄目なんだ。


先にレナを倒せばいい。


開始。


アッシュが一気に距離を詰める。


レナは後退。


防御。


防御。


防御。


ランスを作る余裕すら無い。


押される。


押し込まれる。


アッシュ優勢。


だが。


一瞬だった。


レナが後方へ飛ばしたナイフ。


放物線を描く。


セイルの胸へ命中した。


「そこまで」


沈黙。


アッシュは理解できなかった。


守っても負けた。


攻めても負けた。


エルザが静かに口を開く。


「アッシュ」


「何だよ」


「今の戦いはセイルを守るのが目的でしたか」


「そりゃあ…」


「それともレナを倒すのが目的でしたか」


アッシュは黙る。


訓練場に沈黙が落ちる。


---


セイルはガレスを思い出していた。


短く刈り込んだ黒髪。


日に焼けた肌。


頬に走る古い傷。


鎧の上からでも分かる厚い肩。


アッシュと相対したガレスは構えているのに構えていなかった。


それがどこからでも動けるように見えた。


「アッシュ」


セイルが口を開く。


「何だよ」


セイルは少し考える。


「多分だけど」


「ガレスなら、そこに立ってない」


アッシュが眉をひそめる。


「どういう意味だ」


「上手く言えないんだけど」


セイルは訓練場を見る。


「戦う時って境界線みたいなのがある気がするんだ」


「境界線?」


「範囲かな」


「構えとか武器とか態勢で変わるんだけど」


セイルは少し悩みながら続ける。


「あの時のガレスは」


「どっちにも動けるギリギリに立ってるというか」


「どっちにも動ける立ち方をしてるというか」


「そんな感じ」


沈黙。


アッシュは訓練場を見る。


何となく分かる気がした。


押されたらまずい位置。


攻められる位置。


戦いとは、そういう境界線の押し引きだった。


そして。


その話は、エルザの問いにも繋がっている気がした。


守ること。


倒すこと。


そして目的。


アッシュは木剣を握り直した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ