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第五十一話 走り出す


同日。


セイルは早めに起床する。


アッシュはいなかった。


もう起きているらしい。


剣でも振っているのだろう。


セイルは身支度を整えながら考える。


オオカム戦で見えた現在地。


騎士団入隊試験という目標。


そこから逆算して見えたもの。


体力不足は想像以上に深刻だった。


オオカムを掘り出すだけで精一杯だった。


体力試験もある。


だから走ることにした。


約二週間。


大した変化は無いかもしれない。


だが、それはやらない理由にはならなかった。


---


セイルは王都を走り出す。


冷たい朝の空気が肺へ入る。


まだ人通りは少ない。


石畳を踏む音だけが規則的に響く。


オオカム戦では、


相手も仲間も見えていた。


ゴブリンの動き。


連携。


弱点。


全部見えていた。


見えていたのに、見なかった。


掘ることを優先した。


依頼は成功した。


あの判断は間違っていない。


それでも。


違和感が残る。


助けたかった。


でも助けなかった。


見えていたのに。


何が正解だったのだろう。


答えは出ない。


セイルは走り続ける。


---


訓練場が見えてきた。


案の定、


アッシュは木剣を振っていた。


いつもより激しい。


何かと戦っているような。


いや。


実戦よりも鬼気迫って見えた。


木剣が空を裂く。


汗が飛ぶ。


呼吸は荒い。


それでも止まらない。


強さ。


セイルは一人の男を思い浮かべる。


副騎士団長ガレス。


圧倒的だった。


迷いが無かった。


そして目の前のアッシュを見る。


同じ強さを目指しているはずなのに、


何かが違う。


ガレスの強さと、


アッシュの強さは。


同じ強さには見えなかった。


違和感だけが残る。


セイルは足を止めない。


---


魔法屋の裏手を通る。


レナがいた。


砂鉄を操っている。


黒い線が空中へ浮かぶ。


オオカム戦の時より、


維持時間は短い。


だが、


何故か強固に見えた。


圧縮か。


セイルは以前の講義を思い出す。


相反する心。


圧縮。


レナは心を見つけたのだろうか。


それとも、


才能だけで辿り着いたのだろうか。


分からない。


分からないが。


どちらにしても違和感が残る。


現実はもっと曖昧なのかもしれない。


セイルは走り続ける。


---


後ろから足音が聞こえた。


速い。


振り返る。


一人の少年が追い抜いていく。


その横顔に見覚えがあった。


騎士団本部で見た少年。


補修だらけの訓練着。


どこにでもいそうな少年。


だが、


歩き方が綺麗で印象に残っていた。


直立した上体。


上下運動が少ない。


歩幅はやや短い。


無駄が無い。


歩き方が綺麗な少年は、


走り方も綺麗だった。


あっという間に距離が離れていく。


自分には無いものを持っている。


そう感じた。


セイルは少年の走り方を真似してみる。


ぎこちない。


だが少しだけ楽だった。


---


朝日が王都を照らし出す。


セイルは、太陽が広げた世界を見ながら走る。


すでに体は悲鳴をあげていた。


だが。


少し遠い仲間の未来を見ているセイルは、


足を止めることはなかった。



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