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第四十九話 現在地


三人は冒険者ギルドへ来ていた。


セイルが抱えた苗箱を受付へ置く。


受付嬢が中を確認した。


そして少し目を見開く。


「実付きの個体ですね」


苗箱の中にはオオカムが収まっている。


桃色の実が揺れていた。


根も傷付いていない。


状態は良好だった。


受付嬢は頷く。


「確認します」


奥へ運ばれる。


三人は待合席へ座った。


アッシュは椅子へ背中を預ける。


「終わったな」


「まだ確認中だよ」


レナが言う。


「根が駄目でしたーとか言われたらどうする?」


「泣くな」


アッシュが即答した。


レナが吹き出す。


セイルも少し笑った。


昨日ほど重い空気ではなかった。


しばらくして受付嬢が戻ってきた。


「依頼達成です」


三人は顔を上げる。


「お疲れ様でした」


受付嬢は続けた。


「実付きのオオカムは珍しいんです」


「珍しいのか?」


アッシュが聞く。


「はい」


受付嬢は頷く。


「実を付けた個体は魔力を蓄えています」


「杖の素材として高く評価されます」


レナが少し興味を示した。


「そんなに?」


「はい」


「状態も良好でした」


受付嬢は書類を確認する。


そして微笑んだ。


「それと」


「皆さんにお知らせがあります」


三人は顔を見合わせる。


受付嬢が小さな箱を取り出した。


中には三枚のカードが入っていた。


見慣れた木札ではない。


薄く光沢のある素材で作られている。


冒険者名とランクが刻まれていた。


「おめでとうございます」


受付嬢が言う。


「Eランク昇格です」


一瞬。


三人とも言葉が出なかった。


アッシュが最初に反応する。


「本当か?」


「はい」


受付嬢は笑う。


「Eランクより正式なギルドカードが発行されます」


木札を渡す。


代わりにカードを渡される。


「まだ一人前とは言えません」


「ですが」


受付嬢は三人を見る。


「冒険者として認められた証です」


セイルはカードを見る。


Eランク。


まだ低い。


前線へは遠い。


Dランクには程遠い。


それでも。


認められた。


その言葉が少しだけ心に残った。


「ありがとうございました」


---


ギルドを出る。


向かう先は決まっていた。


バドウィン魔法屋。


扉を開く。


レナが先に入った。


「ただいまー」


いつもの調子だった。


セイルもアッシュも特に反応しない。


カウンターの奥にいたエルザだけが、一瞬だけ目を細めた。


だが何も言わなかった。


「依頼は終わったようですね」


「終わった」


アッシュがカードを見せる。


「Eランクだ」


少しだけ誇らしそうだった。


エルザはカードを見る。


そして頷く。


「可能性は見つかったようですね」


昨日。


三人は前線派遣の話を聞き、立ち止まっていた。


今日は違う。


少なくとも前へ進んでいる。


エルザは椅子へ腰掛けた。


「では確認しましょう」


三人も席へ着く。


エルザは何も言わずに話を聞く。


三人の言葉が無くなるのを確認する。


「まず目標です」


エルザは指を一本立てた。


「騎士団試験」


「二週間後」


次にもう一本。


「冒険者」


「ランクD」


三人が頷く。


ここまでは分かっている。


「次に現状です」


エルザは続ける。


「冒険者ランクD」


レナが苦笑した。


「普通なら数年だっけ」


「その通りです」


エルザは頷く。


アッシュが頭を掻く。


「やっぱ無茶だな」


「そうですね」


エルザはあっさり認めた。


「ですが」


そこで言葉を続ける。


「ランクアップには例外も多いです」


三人が顔を上げる。


「優秀な冒険者」


「大規模討伐」


「推薦」


「様々な要素があります」


「ですから」


エルザは言う。


「依頼は受け続けるべきでしょう」


Dランクを諦める理由にはならない。


そういう意味だった。


セイルは少し安心した。


完全な絶望ではない。


可能性はある。


エルザは机を軽く叩く。


「そして」


「最も重要なのは現在地です」


三人が静かになる。


「目標と期限は分かりました」


「なら次は現在地です」


エルザは淡々と言った。


「現在地が分かれば、やるべきことも見えてきます」


アッシュが少し笑う。


「先生みたいだな」


「魔法屋です」


エルザは即答した。


レナが吹き出した。


少しだけ空気が和らぐ。


「では前回の依頼を振り返りましょう」


最初にアッシュを見る。


「アッシュ」


「おう」


「強いです」


即答だった。


アッシュは少し嬉しそうだった。


「ですが」


案の定続きが来る。


「守る対象ができると攻め切れません」


アッシュの表情が固まる。


思い当たる節しかなかった。


エルザは続ける。


「倒すことと守ること」


「その違いを知ることが課題です」


アッシュは小さく頷いた。


次はレナだった。


「防御能力は十分でしょう」


レナが少し胸を張る。


「ですが継戦能力不足です」


すぐに肩が落ちた。


「魔力切れが早い」


「うぐっ」


否定できない。


完全にその通りだった。


最後にセイル。


「セイル」


「はい」


「見え過ぎています」


セイルは少し驚いた。


エルザは続ける。


「戦況」


「敵の動き」


「仲間の状態」


「全部見ていたのでしょう」


図星だった。


「はい」


小さく答える。


「助けたかったですか?」


セイルは少し考えた。


そして頷く。


「助けたかったです」


「指示もしたかったです」


エルザは頷く。


「ですが」


「今回は正解です」


セイルが顔を上げる。


「役割を放棄しなかった」


「それが最優先でした」


昨日。


掘ることだけを考えた。


見えていても。


助けたくても。


任せた。


エルザはそれを評価したのだった。


しばらく沈黙が流れる。


そしてアッシュが言った。


「セイルは体力だな」


「まあな」


セイルも否定しない。


レナが続ける。


「アッシュは考えること」


「うるせぇ」


即答だった。


「でも当たってるよ」


セイルが言う。


アッシュは顔をしかめた。


レナが笑う。


今度はセイルがレナを見る。


「レナは魔力量かな」


「それは私も思った」


こちらも即答だった。


三人が顔を見合わせる。


少しだけ笑う。


昨日までなら、こんな話はできなかった。


エルザは三人を見る。


そして頷いた。


「では決まりですね」


体力。


模擬戦。


魔法修行。


依頼。


やるべきことは見えた。


騎士団試験まで二週間。


前線派遣まで三十九日。


決して長くはない。


だが。


昨日までとは違った。


可能性はある。


そして今は、


何をするべきかも分かっている。


ならば後は簡単だった。


やるだけだ。



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