第四十四話 大切な話
約束の日。
セイル達は教会へ向かっていた。
「結局何の話なんだろうな」
アッシュが言う。
「分からないな」
セイルが答える。
レナも少し気になっていた。
大切な話。
それだけ聞かされている。
楽しい話ではない気がした。
根拠はない。
ただ何となく。
そんな気がしていた。
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教会へ着く。
しばらく待つとティアが現れた。
今日も村娘らしい服装だった。
護衛達も少し離れた場所にいる。
前回と同じ。
だが。
セイルは少し違和感を覚えた。
笑っている。
表情も柔らかい。
でも。
どこか力が入っている。
話したいことがある人の顔だった。
「待った?」
ティアが聞く。
「いや」
アッシュが答える。
「今来たところだ」
嘘だった。
十分ほど待っていた。
ティアは少し笑った。
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四人は前回と同じ店へ向かった。
席へ座る。
料理を頼む。
最初は普通だった。
近況報告。
魔法修行。
依頼。
砂鉄。
ランス。
チャクラム。
飛行失敗。
ティアは何度も笑った。
「レナさん浮いたの?」
「ちょっとだけ」
「見たかったな」
「いけると思ったんだけどなぁ」
レナが言う。
アッシュも笑う。
空気は明るかった。
だが。
セイルは気付いていた。
ティアは何度か話しかけて。
何度か止まっている。
言いたいことがある。
でも切り出せない。
そんな様子だった。
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料理が半分ほど無くなった頃だった。
ティアが手を握る。
少しだけ深呼吸した。
そして顔を上げる。
「実はね」
空気が変わる。
アッシュも。
レナも。
自然とティアを見る。
「前線派遣が決まったの」
沈黙。
数秒。
誰も言葉が出なかった。
「前線って……」
アッシュが呟く。
ティアは頷いた。
「うん」
「四十日後」
「王国西部の前線基地へ派遣されることになったの」
レナは理解が追い付かなかった。
前線。
戦争。
聖女。
頭の中で繋がらない。
セイルはティアを見ていた。
怖がっている。
それは分かった。
肩が少し上がっている。
呼吸も浅い。
指先も強く握られている。
でも。
逃げたい顔ではなかった。
「危ないんじゃないのか」
アッシュが言う。
珍しく低い声だった。
ティアは頷く。
「うん」
「危ないと思う」
否定しなかった。
「じゃあ」
アッシュが言いかける。
だがティアは先に続けた。
「最初は嫌だった」
「怖かったし」
「行きたくなかった」
本音だった。
それは全員に伝わった。
「じゃあ何で」
アッシュが聞く。
ティアは少し考えた。
言葉を選ぶように。
ゆっくりと話す。
「王都に来て」
「たくさんの人に会ったの」
「怪我をした人」
「家族を失った人」
「助かった人」
「助けられなかった人」
ティアは少し俯く。
「私が治した人もいた」
「間に合わなかった人もいた」
静かな声だった。
「助けられるなら助けたいって思ったの」
ティアは顔を上げる。
「だから行く」
アッシュは黙った。
反論できなかった。
セイルが聞く。
「ティアは行きたいのか?」
ティアは少しだけ笑った。
困ったような笑顔だった。
「行きたくない」
即答だった。
アッシュが少しだけ安心した顔になる。
だが。
ティアは続ける。
「でも行く」
「私が決めたから」
静かな声だった。
強い声ではない。
けれど迷いは無かった。
レナはティアを見る。
聖女。
教会。
責任。
自由じゃない。
きっと色々なものに縛られている。
それでも。
誰かに決められたようには見えなかった。
自分で選んでいる。
そのことだけは分かった。
少し眩しかった。
少し羨ましかった。
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話はしばらく続いた。
前線のこと。
王都のこと。
村のこと。
だが最初の話以上に大きな話は無かった。
帰る時間になる。
ティアは三人を見る。
少しだけ緊張が抜けた顔だった。
「来てくれてありがとう」
そして笑う。
「話せて良かった」
店を出る。
ティアは護衛と共に教会へ戻る。
三人はその背中を見送った。
アッシュは黙っている。
レナも考え込んでいる。
セイルはティアを見ていた。
怖いはずだ。
本当は行きたくないはずだ。
それでも進む。
その背中は。
前に会った時より少しだけ大きく見えた。
怖くないから進むんじゃない。
怖くても進む。
それも強さなのかもしれなかった。




