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第四十二話 守るための形


翌日。


王都郊外の訓練場。


アッシュは訓練場へ着くなり言った。


「今日はランス無しか?」


「研究だからね」


レナが答える。


「昨日も研究だっただろ」


「昨日はランスの日」


「今日は?」


「防御の日」


アッシュは露骨に嫌そうな顔をした。


エルザが頷く。


「防御です」


「やっぱり」


アッシュは空を見上げた。


「攻撃の方が楽しいのに」


「死なない方が大事です」


エルザは即答した。


反論できなかった。


レナは砂鉄袋を開く。


黒い砂が地面へ広がる。


昨日より慣れている。


集める。


伸ばす。


動かす。


そこまでは問題なかった。


「まずは広げてみてください」


エルザが言う。


レナは頷いた。


砂鉄を広げる。


薄く。


さらに薄く。


大きく。


すると。


途中で崩れた。


砂鉄が地面へ落ちる。


「駄目だ」


レナが肩を竦めた。


「広げるほど薄くなるね」


セイルが言う。


「強度も落ちていると思います」


エルザが頷く。


「その通りです」


「では必要最低限の厚みを探しましょう」


研究が始まった。


---


何度も試した。


広げる。


崩れる。


広げる。


崩れる。


アッシュは途中で飽きていた。


「地味だな」


「研究だからね」


レナが言う。


「地味だ」


「研究だから」


「地味だ」


「うるさい」


セイルは少し笑った。


---


しばらくして。


レナが砂鉄を薄い幕状に広げた。


人一人を覆える程度。


「これくらい?」


「試しましょう」


エルザが言う。


アッシュが石を拾う。


「投げるぞ」


「どうぞ」


レナが構えた。


石が飛ぶ。


砂鉄の幕へ当たる。


弾かれる。


全員が少し驚いた。


「おお」


アッシュが言う。


「止まったな」


レナも目を丸くした。


「本当だ」


もう一個。


止まる。


もう一個。


止まる。


「できた」


レナが笑った。


嬉しそうだった。


エルザが記録する。


「防御用途として有効です」


「名前は?」


アッシュが聞く。


レナは少し考える。


砂鉄の幕を見る。


「マント?」


「そのまんまだな」


昨日も聞いた言葉だった。


---


次は強度確認だった。


アッシュが木剣を構える。


「本気でいいか?」


「駄目」


「半分」


「三割」


「少なすぎるだろ」


結局。


五割になった。


アッシュが振る。


バシン。


砂鉄の幕が揺れる。


もう一撃。


今度は破れた。


「壊れた」


アッシュが言う。


「壊したんでしょ!」


「壊れた」


「壊したの!」


エルザが淡々と書き込む。


「一点突破に弱いようですね」


「そっち?」


レナは納得していなかった。


---


今度は逆を試すことになった。


広げない。


集める。


圧縮する。


砂鉄が集まる。


盾の形になる。


大盾ほどの大きさだった。


「なるほど」


セイルが言う。


「今度は強度優先ですね」


「そうです」


エルザが頷く。


「範囲と強度の交換です」


アッシュが木剣を構える。


「いくぞ」


一撃。


耐える。


二撃。


耐える。


三撃。


そこで崩れた。


「硬ぇな」


アッシュが素直に言った。


レナも少し嬉しそうだった。


「でしょ」


「これは普通に面倒だ」


「褒めてる?」


「褒めてる」


レナは笑った。


エルザは満足そうだった。


「方向性は見えましたね」


---


昼休憩。


四人は木陰へ座る。


アッシュは肉串を食べていた。


今日も三本目だった。


「あと二日か」


アッシュが言う。


手紙のことだった。


ティアとの約束。


セイルも頷く。


「そうだな」


レナは少し考えた。


結婚。


昨日の冗談を思い出す。


聖女。


ティア。


ふと考える。


ティアちゃんは。


結婚したいのかな。


言葉には出さなかった。


ただ少し気になった。


聖女として生きる未来。


普通の女の子として生きる未来。


どちらを望んでいるのだろう。


分からなかった。


---


午後も研究は続いた。


マント。


シールド。


切り替える。


維持する。


崩れる。


また作る。


繰り返しだった。


だが確実に上達していた。


アッシュも途中から真面目になる。


「普通に強いな」


レナは少し驚いた。


「褒めてる?」


「褒めてる」


二度目だった。


レナは少しだけ嬉しくなる。


---


夕方。


解散した。


帰り道。


レナは一人で歩いていた。


王都の空は赤かった。


ティアを思い出す。


聖女。


素朴な美人。


村娘らしい変装。


おとなしい性格。


笑うと目を引く可愛さ。


先日会ったティアは。


笑っていた。


食べていた。


普通な女の子だった。


ティアちゃんは。


どんな未来が欲しいんだろう。


少し考える。


だが答えは出ない。


レナは空を見上げた。


私はまだ。


ティアちゃんのことを。


何も知らない。



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