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第四十話 砂鉄


翌朝。


バドウィン魔法屋。


アッシュは入ってすぐに言った。


「今日も勉強か?」


「今日は外です」


エルザが答える。


その瞬間。


アッシュの顔が明るくなった。


「模擬戦か!?」


「模擬戦もします」


「よし!」


分かりやすかった。


レナが笑う。


「元気だね」


「そりゃそうだろ」


アッシュは拳を握る。


「やっと剣振れるんだぞ」


「昨日も振ってたでしょ」


「あれは訓練だ」


違うらしい。


セイルには違いが分からなかった。


四人は王都の外へ向かった。


少し歩いた先に、冒険者が使う訓練場がある。


地面は固く踏みならされていた。


周囲には木の杭。


古い的。


簡単な柵。


いかにも訓練場という場所だった。


「まずは木剣です」


エルザが言う。


「アッシュとレナ」


「私?」


レナが首を傾げる。


「そうです」


「えー」


嫌そうだった。


アッシュは嬉しそうだった。


「来い」


「何でそんなに偉そうなの」


「勝つからだ」


レナは笑った。


「はいはい」


二人が向かい合う。


アッシュは木剣を構える。


レナも木剣を持った。


合図はエルザだった。


「始め」


アッシュが踏み込む。


速い。


以前より速い。


身体強化が自然になっている。


レナは横へ避ける。


だが間に合わない。


木剣がレナの肩を軽く打つ。


「いたっ」


「よし!」


アッシュが声を上げる。


レナは肩を押さえた。


「ちょっと強くない?」


「弱く打った」


「嘘」


「本当だ」


多分本当だった。


レナは息を吐く。


もう一度構える。


だが結果は同じだった。


木剣では磁力が効かない。


レナは動ける。


だがアッシュの身体能力が高すぎる。


数合の後、アッシュの木剣がレナの手元を弾いた。


木剣が地面へ転がる。


「勝った!」


アッシュが叫ぶ。


本当に嬉しそうだった。


「勝ったぞ!」


「木剣だからね」


レナが言う。


「勝ちは勝ちだ」


「はいはい」


悔しそうではあった。


だが笑っていた。


エルザは淡々と言う。


「では次は鉄剣です」


アッシュの顔が少し曇る。


「嫌な予感しかしねぇ」


「やるよ」


「だよな」


今度は訓練用の鉄剣だった。


刃は潰してある。


だが金属だ。


レナの表情が少し変わる。


アッシュも分かっている。


「ずるくねぇか」


「魔法使いだからね」


レナは笑った。


再戦。


合図と同時にアッシュが踏み込む。


速い。


だが。


剣先がわずかに逸れた。


「うお?」


アッシュの体勢が崩れる。


レナは横へ回る。


手を軽く振る。


アッシュの鉄剣が重くなるように下へ引かれた。


「重っ」


次の瞬間。


逆に横へ弾かれる。


剣筋が乱れる。


その隙にレナの剣がアッシュの胸元へ当たった。


「一本です」


エルザが言う。


「納得いかねぇ」


アッシュは本気で悔しそうだった。


「金属武器ならこうなるよ」


レナは軽く手を振った。


「剣士殺しだな」


「そうかもね」


セイルは見ていた。


レナの魔法。


鉄剣の動き。


アッシュの体勢。


そして。


地面。


レナが強く磁力を使った瞬間。


足元の砂が少し動いた。


本当に少し。


風でもない。


足で蹴ったわけでもない。


黒い粒が、わずかに寄ったように見えた。


「今」


セイルが呟いた。


レナが振り返る。


「何?」


セイルは地面を指差す。


「地面が動きました」


「地面?」


アッシュが見る。


「動いてねぇだろ」


「少しです」


セイルはしゃがみ込む。


黒い粒。


砂に混じっている。


小さくて見落としそうな粒だった。


「これです」


レナが覗き込む。


「ああ」


あっさり言った。


「砂鉄だね」


「知っているんですか」


「知ってるよ」


レナは当然のように言う。


「磁力使った後、靴に付くんだよね」


少し嫌そうだった。


「邪魔なんだ」


セイルは黙った。


邪魔。


それだけなのか。


エルザが近付く。


「興味深いですね」


その声は少しだけ違った。


研究者の声だった。


「レナ」


「嫌な予感」


「集めてください」


「やっぱり」


レナは手を地面へ向ける。


磁力を流す。


すると。


黒い粒が少しずつ集まり始めた。


砂の中から。


土の隙間から。


細い線のように。


「え」


レナが驚いた。


思ったより動いた。


黒い粒が集まり、小さな山になる。


アッシュが目を丸くする。


「おお」


セイルも見ていた。


やはり動いている。


さっきの違和感は間違いではなかった。


「こんなに反応するの?」


レナが言う。


エルザが腕を組む。


「貴女の磁力変換効率なら当然かもしれません」


「でも」


レナは砂鉄の山を見る。


「今まで邪魔だと思ってた」


「用途を知らなければ邪魔でしょう」


エルザが言う。


「知れば素材です」


セイルはその言葉に少し反応した。


邪魔なもの。


見えていたもの。


でも意味を知らなかったもの。


それが使えるかもしれない。


レナが指先を動かす。


砂鉄がゆっくり伸びる。


細い線になる。


さらに曲がる。


蛇のように地面を這う。


「おお!」


アッシュが声を上げた。


「格好良いな!」


「確かに」


レナも笑った。


最初はぎこちなかった。


だが少しずつ動きが滑らかになる。


砂鉄は小さな輪を作り、ほどけ、また集まる。


レナの金髪が風に揺れる。


その顔はいつもより少し楽しそうだった。


「面白いね、これ」


セイルも少し笑った。


「はい」


エルザは既に紙を取り出していた。


「検証が必要ですね」


「出た」


レナが苦笑する。


「素材の採取量」


「操作範囲」


「魔力消費」


「形状維持」


エルザは次々と書き込む。


アッシュは途中から聞いていなかった。


「で、強いのか?」


それだけだった。


レナは砂鉄を見て笑う。


「多分」


そう答えて、指を動かす。


黒い砂がまた小さく揺れた。


昨日までは、ただ靴に付く邪魔な砂だった。


今は違う。


少しだけ。


新しいものに見えた。



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