第三十八話 自由と幸せ
焚き火のそば。
食蟻喰の肉はほとんどなくなっていた。
アッシュは満足そうに座っている。
レナも機嫌が良さそうだった。
「セイルは?」
「はい?」
「何で強くなりたいの?」
セイルは少しだけ考えた。
「知りたいからです」
「何を?」
「色々です」
レナが笑う。
「雑だね」
「雑だな」
アッシュも頷いた。
セイルは少し困った顔をする。
「人も、魔法も、強さも」
それから少し言葉を探す。
「知らないまま嫌いになりたくないので」
レナが瞬きをする。
セイルは続けた。
「あと」
「知らないまま好きになるのも失礼かなって」
アッシュが眉を寄せる。
「好きなら好きでいいじゃねぇか」
「そういうものか?」
「そういうもんだろ」
アッシュは当然のように言った。
「面倒くせぇな」
セイルは否定しなかった。
「そうかもね」
レナは少しきょとんとしていた。
アッシュの言うことも分かる。
セイルの言うことも分かる。
でも。
どちらも自分とは少し違う気がした。
「ちゃんと知ってから判断したいんです」
セイルは言った。
「だから強くなりたい」
「見るだけじゃ足りないから」
レナは少し黙った。
それから笑う。
「セイルらしいね」
「そうですか」
「うん」
セイルらしい。
本当にそう思った。
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帰り道。
三人は王都へ向かって歩いていた。
アッシュは今日の戦闘の話をしている。
「やっぱ強くなってるよな、俺」
「うん」
レナが頷く。
「前より動き良かったよ」
「だろ!」
分かりやすく喜ぶ。
セイルも頷いた。
「実際、速くなってた」
「だよな」
アッシュは上機嫌だった。
その横で。
セイルがふと口を開く。
「レナさんは」
「ん?」
「何で強くなりたいんですか」
レナは即答した。
「自由になりたいから」
昔から変わらない答えだった。
昔は自由じゃなかった。
着る服も。
話す言葉も。
笑い方も。
気付けば。
大人が喜びそうなものを選んでいた。
だから自由になりたかった。
自分で選んで。
自分で歩いて。
自分で決めたかった。
それが幸せだと思っていた。
セイルは少し考える。
そして聞いた。
「自由だと幸せなんですか?」
レナは足を止めた。
アッシュも振り返る。
「どうした?」
レナは答えない。
自由。
幸せ。
同じだと思っていた。
自由になれば幸せになれる。
ずっとそう思っていた。
でも。
ティアは自由ではなかった。
それでも楽しそうだった。
アッシュは守るために強くなりたいと言った。
セイルは知るために強くなりたいと言った。
エルザは理解するために学んでいる。
みんな、自由とは少し違うものを見ていた。
レナは空を見上げる。
夕日が赤い。
少し考える。
そして笑った。
「……どうなんだろ」
短い沈黙。
「分かんないや」
セイルは少し驚いた顔をした。
アッシュも何も言わなかった。
レナ自身も少し驚いていた。
今まで考えたことがなかった。
自由になった後のことを。
三人はまた歩き出す。
夕日が道を照らしていた。
答えは出なかった。
でも。
何かが少しだけ変わった気がした。




