第三十七話 守る力
数日後。
王都冒険者ギルド。
今日も三人で依頼を探していた。
アッシュは討伐依頼の掲示板ばかり見ている。
レナは呆れた顔だった。
「相変わらずだね」
「何がだ」
「討伐しか見てない」
「冒険者だからな」
レナは肩を竦める。
セイルは別の掲示板を見ていた。
報酬。
距離。
危険度。
その辺りを確認している。
するとアッシュが一枚の依頼書を剥がした。
「これだな」
レナが覗き込む。
食蟻喰討伐。
王都南部の森。
討伐証明は牙。
「絶対肉目当てでしょ」
「半分な」
否定しなかった。
セイルが聞く。
「どんな魔物ですか」
「アリクイクイ」
レナが答えた。
「アリクイを食べるから食蟻喰」
「そのままだな」
アッシュが言う。
「そのままだよ」
レナは頷く。
「アリを食べるアリクイを食べるから、生態系に良くないらしい」
「らしい?」
「詳しくは知らない」
正直だった。
「でも討伐依頼が出てるってことは、そういうことなんじゃない?」
適当だった。
だが多分間違っていない。
「肉は美味いよ」
「よし」
アッシュが即答した。
やはり半分以上肉だった。
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森へ向かう。
空は晴れていた。
歩きながらセイルは周囲を見る。
木々。
草。
地面。
鳥。
以前と同じ景色だった。
だが少し違う。
目を閉じる。
圧縮。
ほんの少しだけ。
魔力が目へ集まる。
視界が鮮明になる。
葉の揺れ。
土の凹凸。
小さな足跡。
以前より見える。
「調子はどう?」
レナが聞いた。
「見やすいです」
「へぇ」
レナは少し感心した。
「圧縮使ってる?」
「少しだけ」
まだ安定しない。
長くは続かない。
だが確かに変わった。
「成長してるね」
レナが笑う。
少し嬉しかった。
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しばらく進む。
やがてセイルが立ち止まった。
「いました」
アッシュが振り返る。
「どこだ?」
セイルが指差す。
倒木の向こう。
灰褐色の毛。
大型犬ほどの体。
長い鼻。
太い前脚。
鋭い牙。
食蟻喰だった。
地面を掘り返している。
「本当にいた」
レナが呟く。
「何で分かったんだ?」
アッシュが聞く。
「足跡と折れた小枝」
「見えなかったぞ」
「あと多分、木に体を擦ってる」
アッシュは納得していなかった。
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食蟻喰はまだ気付いていない。
アッシュが剣を抜く。
身体強化。
魔力が巡る。
以前より自然だった。
足が軽い。
体も軽い。
「おお」
思わず声が出た。
「何だ?」
レナが聞く。
「軽い」
「今更?」
「違う」
アッシュは笑う。
「前より軽い」
それだけで嬉しかった。
強くなっている。
ちゃんと前に進んでいる。
それが分かった。
食蟻喰がこちらへ気付く。
鼻を鳴らす。
そして突進してきた。
速い。
だが。
アッシュはもっと速かった。
地面を蹴る。
一気に距離を詰める。
剣を振る。
食蟻喰が爪を振り上げる。
その瞬間。
横からナイフが飛んだ。
レナの磁力だった。
わずかに体勢が崩れる。
そこへ。
アッシュの剣が入る。
一撃。
食蟻喰が倒れる。
短い戦闘だった。
「終わったな」
アッシュが剣を納める。
レナが近付く。
「牙を剥ぎ取ろう」
討伐証明だった。
セイルも手伝う。
作業はすぐ終わった。
ついでに肉も回収する。
アッシュが機嫌良さそうだった。
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昼。
川辺で休憩する。
焚き火。
食蟻喰の肉を焼く。
香ばしい匂いが広がった。
アッシュが一口食べる。
目を見開いた。
「うまい」
「でしょ」
レナが笑う。
セイルも食べる。
柔らかい。
予想以上だった。
「本当に美味しいですね」
「だから人気なんだよ」
レナが言う。
「今日は当たりだね」
「最高じゃねぇか」
アッシュは上機嫌だった。
しばらく雑談する。
その時。
レナがふと聞いた。
「アッシュってさ」
「ん?」
「何で強くなりたいの?」
アッシュは少しも迷わなかった。
「守れるから」
即答だった。
レナは少し笑う。
「誰を?」
アッシュは少し考えた。
「ティアと」
「セイルと」
「村のみんなと」
そこで止まる。
さらに少し考える。
「レナも」
「エルザも」
「まぁ、みんなだな」
言った本人は普通だった。
特別なことを言ったつもりもない。
レナは少しだけ目を丸くした。
そして。
満面の笑みになった。
「そっか」
それだけだった。
だが。
レナは凄く嬉しかった。
自分も守る側に入っていた。
それが何故だか嬉しかった。
アッシュは気付いていない。
肉を食べている。
セイルだけが少し不思議そうに見ていた。
少し沈黙が続く。
焚き火が小さく鳴る。
レナはまだ笑っていた。
そして。
ふとセイルを見る。
「セイルは?」
「はい?」
「何で強くなりたいの?」
セイルは少しだけ考えた。
そして口を開く。
「それは――」




