第三十五話 自由な人
翌日。
セイル、アッシュ、レナの三人は教会へ向かっていた。
アッシュは朝から機嫌が良い。
「久しぶりだな」
「そうだな」
セイルも頷く。
手紙のやり取りはあった。
だが実際に会うのは久しぶりだった。
レナが二人を見る。
「そんなに楽しみ?」
「当たり前だろ」
アッシュは即答した。
「良い奴なんだ」
「優しいしな」
セイルも言う。
レナは笑った。
「参考にならないね」
確かにそうだった。
だが二人とも本気でそう思っている。
やがて教会が見えてきた。
王都中央教会。
相変わらず人が多い。
信徒。
神官。
騎士。
様々な人が出入りしている。
そして。
入口近くで手を振る少女がいた。
栗色の髪。
簡素な服装。
村娘のような格好。
だが二人にとっては見慣れた顔だった。
「おーい!」
アッシュが手を振る。
少女の顔が明るくなる。
「アッシュ!」
駆け寄ってきた。
「元気だったか?」
「うん!」
嬉しそうだった。
それからティアの視線がセイルへ向く。
「セイルも久しぶり」
「ああ」
自然と笑顔になる。
安心した。
聖女になっても。
ティアはティアだった。
そして。
ティアの視線がもう一人へ向く。
金髪のショートヘア。
自分より少し年上だろうか。
綺麗な人だった。
「初めまして」
レナが笑う。
「レナだよ」
ティアは少し慌てて頭を下げた。
「は、初めまして」
少しだけ気になる。
でも何が気になるのかは分からなかった。
レナもティアを見ていた。
思ったより普通だった。
もっと近寄り難い人かと思っていた。
聖女。
国の重要人物。
そんな肩書きを持っているのに。
笑顔はどこにでもいる女の子だった。
「よろしくね」
「うん!」
ティアも笑った。
その笑顔は自然だった。
アッシュが周囲を見回す。
「そういや大丈夫なのか?」
「何が?」
「聖女が普通に歩いてて」
「ああ」
ティアは少し苦笑した。
「今日は変装してるから」
普段の聖女服ではない。
村にいた頃を思い出すような服装だった。
「それに」
ティアが周囲を見る。
「護衛もいるよ」
アッシュも周囲を見る。
「どこだ?」
「分からん」
本当に分からないらしい。
セイルも周囲を見た。
少し離れた場所。
果物を選んでいる男。
本を立ち読みしている女性。
荷馬車の近くで休んでいる男。
そして。
向かいの店先で談笑している二人組。
「六人かな」
セイルが言った。
そして取り出しかけた木箱を仕舞う。
ティアが目を丸くする。
「正解」
アッシュが振り返った。
「何で分かるんだよ」
「何となく」
「絶対何となくじゃねぇだろ」
ティアが笑った。
「分からないようにしてくれてるからね」
そのまま四人は街へ向かう。
屋台を見たり。
服屋を覗いたり。
他愛もない話をしたり。
アッシュとティアは村の話で盛り上がる。
セイルも時々加わる。
レナはそれを聞いていた。
三人だけが知っている話がある。
三人だけが共有している時間がある。
別に寂しいわけではない。
だが少しだけ不思議だった。
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昼。
四人は店で軽く食事を取ることになった。
アッシュが焼き串を買いに行く。
セイルは近くの本屋が気になるらしい。
気付けば。
レナとティアだけになっていた。
少しだけ沈黙。
だが気まずくはない。
先に口を開いたのはティアだった。
「レナさんって楽しそうだね」
レナが瞬きをする。
「そうかな?」
「うん」
ティアは頷く。
「自由って感じ」
レナは少し考えた。
自由。
確かに自由だった。
依頼も選べる。
どこへ行くかも選べる。
誰と過ごすかも選べる。
それは当たり前だと思っていた。
「ティアちゃんは?」
ティアは少し考える。
そして笑った。
「私はあんまり自由じゃないかな」
冗談っぽく言った。
だが少しだけ本音も混ざっていた。
レナは初めて気付く。
聖女は凄い。
羨ましい立場にも見える。
だが。
好きな時に街を歩けるわけじゃない。
会いたい人に会えるわけでもない。
周りにはいつも人がいる。
それは少し窮屈そうだった。
やがてアッシュが戻ってくる。
セイルも本を抱えて戻ってきた。
四人はまた歩き出す。
時間はあっという間だった。
帰る時間になる。
ティアが手を振る。
「今日はありがとう」
「またな」
アッシュが答える。
セイルも頷く。
「また来る」
「うん」
ティアは嬉しそうだった。
レナも手を振る。
「またね」
「またね」
ティアも笑う。
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帰り道。
レナは少し空を見上げた。
ティアは良い子だった。
また話してみたいと思う。
でも少しだけ不思議だった。
自由ではないはずなのに。
ティアは楽しそうだった。




