第三十四話 最近の私
翌朝。
バドウィン魔法屋。
店へ入ると、レナが棚を拭いていた。
金髪のショートヘアが揺れる。
振り返る。
「おはよ」
「おう」
アッシュが返事をする。
セイルも軽く頭を下げた。
その時だった。
「そうだ」
セイルが思い出したように言う。
鞄から封筒を取り出す。
教会の紋章。
アッシュがすぐに反応した。
「ティアか?」
「うん」
セイルは封を開く。
昨夜届いていた手紙だった。
内容は短い。
仕事が一段落したこと。
明日なら時間が取れること。
久しぶりに会いたいこと。
そんな内容だった。
読み終える。
アッシュが聞く。
「何て?」
「明日なら会えるそうです」
「よし!」
分かりやすく喜んだ。
レナが興味深そうに聞く。
「ティアちゃんって聖女様なんだよね」
「そうです」
「村の幼馴染だ」
アッシュが補足する。
レナは少し驚いていた。
「へぇ」
セイルは何となく言った。
「レナさんも来ますか」
レナが目を瞬かせる。
「私も?」
「はい」
アッシュも頷く。
「仲間だろ」
レナは少しだけ黙る。
それから笑った。
「じゃあ行こうかな」
自然な返事だった。
だが。
少しだけ嬉しそうだった。
「では講義を始めます」
エルザが言う。
机の上には紙が並んでいた。
今日は本が少ない。
「今日は測定です」
アッシュが露骨に安心した。
「勉強じゃないのか」
「データは嘘をつきません」
エルザは真顔だった。
「勉強より厳しいですよ」
「やっぱ帰る」
「却下です」
即答だった。
レナが笑う。
店の奥へ移動する。
そこには石の台があった。
中央には大きな水晶。
人の背丈ほどもある。
アッシュが近付く。
「何だこれ」
「測定器です」
エルザが答えた。
「魔力循環と放出量を確認します」
レナが懐かしそうに言う。
「久しぶりに見たな」
「やったことあるんですか」
「何回かね」
セイルとアッシュは初めてだった。
「では準備してください」
エルザが言う。
「上着を脱いでください」
沈黙した。
アッシュが聞き返す。
「脱ぐのか」
「必要です」
エルザは当然のように頷いた。
「厚着は測定誤差になります」
レナが肩を竦める。
「そういうものだよ」
慣れているらしい。
アッシュは渋々上着を脱ぐ。
セイルも従う。
そしてレナ。
慣れた様子で上着を脱いだ。
冒険者らしく引き締まった体。
健康的だった。
セイルは一瞬だけ視線に困る。
慌てて水晶を見る。
レナが気付いた。
「何?」
「いえ」
アッシュが吹き出した。
「分かりやすっ」
「うるさい」
レナも笑う。
エルザだけは無反応だった。
「終わりましたか」
研究者の顔だった。
「測定します」
最初はアッシュだ。
石台へ上がる。
目を閉じる。
魔力を循環させる。
水晶が光る。
だが。
光は弱い。
アッシュが顔をしかめた。
「駄目じゃねぇか」
「正常です」
エルザが即答する。
「貴方はフルリテンションです」
「前にも聞いたな」
「放出量が少ない代わりに体内循環効率が高い」
「身体強化向きです」
アッシュはすぐ復活した。
「つまり強い」
「強いです」
「よし」
単純だった。
次はセイル。
石台へ上がる。
魔力を循環させる。
水晶が光る。
全体の反応は弱い。
アッシュが笑った。
「俺より下だ」
だが。
途中で変化が起きる。
水晶の一部だけが強く輝いた。
エルザが近付く。
「やはり」
「何ですか」
「目です」
即答だった。
「目からの排出効率が高い」
レナも頷く。
「そんな気はしてた」
セイル自身はよく分からない。
だが二人は納得しているらしかった。
最後はレナだった。
石台へ上がる。
目を閉じる。
魔力を循環させる。
水晶が明るく光った。
アッシュが感心したように言う。
「やっぱすげぇな」
レナが笑う。
「ありがと」
エルザが記録を確認する。
そして。
少しだけ動きを止めた。
前回の記録。
今回の記録。
見比べる。
もう一度確認する。
レナが首を傾げた。
「どうしたの?」
「上がっていますね」
「何が?」
「出力です」
レナが瞬きをする。
「え?」
エルザは紙を見せる。
「前回より向上しています」
間違いないらしい。
レナは本気で驚いていた。
「何で?」
「知らねぇよ」
アッシュが笑う。
「強くなってるなら良いじゃねぇか」
「まぁそうなんだけど」
レナは首を傾げる。
理由が分からなかった。
昼。
休憩時間。
レナは窓際へ座っていた。
外を見る。
王都の人通り。
荷馬車。
商人。
子供達。
平和だった。
最近を思い返す。
依頼。
魔法。
バッシュ。
セイル。
アッシュ。
色々あった。
何かが変わっている気がする。
だが。
何が変わったのかは分からない。
「調子はどうですか」
エルザが隣へ来た。
「良いよ」
即答だった。
「理由は」
レナは考える。
少しだけ。
だが答えは出ない。
「分かんない」
正直に言った。
エルザもそれ以上は聞かなかった。
「そうですか」
短いやり取りだった。
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夕方。
空が赤く染まっていた。
レナは一人で歩く。
最近。
アッシュは相変わらず騒がしい。
セイルは難しいことばかり考えている。
エルザは厳しい。
でも。
明日もまた魔法屋へ行って。
みんなで依頼へ行く。
そんな毎日は。
結構好きだった。




