第三十三話 灰斑狼
今日も。
セイル、アッシュ、レナの三人は冒険者ギルドへ来ていた。
掲示板の前は相変わらず人が多い。
依頼を探す冒険者。
報告へ来た冒険者。
受付嬢へ文句を言う冒険者。
王都のギルドは今日も騒がしかった。
「さて」
レナが掲示板を見る。
「今日はどうしよっか」
アッシュが腕を組む。
「それなりに稼ぎたいな」
「そうだね」
セイルも頷く。
宿代。
食費。
装備の修理。
王都は金がかかる。
それなりに稼げれば、明日からは魔法修行へ集中できるだろう。
開門。
操作。
増幅。
圧縮。
覚えることはまだ多い。
だからこそ依頼を受ける日は稼いでおきたかった。
「じゃあこれ」
レナが一枚の依頼書を取る。
アッシュが覗き込む。
「討伐か」
少し嬉しそうだった。
薬草採取より戦闘の方が好きらしい。
「灰斑狼討伐」
レナが依頼書を見ながら説明する。
「灰色の毛並みに黒い斑がある狼型魔物」
「強いのか?」
「単体は弱い」
アッシュが不満そうな顔をする。
だがレナは続けた。
「群れになると面倒」
「何でだ?」
「役割分担するから」
アッシュが首を傾げる。
レナは指を立てた。
「群れが大きくなると、一番強い個体がリーダーになる」
もう一本指を立てる。
「黒い個体は奇襲役」
「狼のくせに賢いな」
「だから討伐依頼になるんだよ」
レナは苦笑した。
「弱い魔物ほど油断すると危ないからね」
その言葉に。
セイルは少しだけダグを思い出した。
受付を済ませる。
依頼書を受け取る。
三人は王都を出た。
森まではそれほど遠くない。
街道を歩きながら、アッシュが伸びをする。
「やっぱ外はいいな」
「昨日も外だったでしょ」
「勉強よりいい」
「それは分かる」
レナが笑う。
今日は機嫌が良さそうだった。
昨日。
バッシュと会った。
少しだけ様子が違った。
だが今日は違う。
明るい。
自然だ。
セイルは歩きながら考える。
分からなかった。
昨日何を思ったのか。
何が変わったのか。
結局聞けていない。
森へ到着する。
木々の間を進む。
しばらくして。
アッシュが声を上げた。
「いたぞ」
灰斑狼だった。
灰色の毛。
黒い斑。
三匹。
依頼書の絵と一致している。
「少ないな」
レナが呟く。
アッシュは気にしない。
剣を抜く。
「十分だろ」
そのまま突撃した。
灰斑狼も飛び出す。
一匹。
二匹。
三匹。
だが。
アッシュの剣が先だった。
一匹目が倒れる。
二匹目が吹き飛ぶ。
最後の一匹は逃げようとしたところをセイルの投石で怯み、アッシュが仕留めた。
終わりだった。
「弱いじゃねぇか」
アッシュが笑う。
レナは眉をひそめる。
「少ない」
「だから何だよ」
「群れなのに」
セイルも周囲を見る。
確かに少ない。
依頼書には十匹以上の群れと書かれていた。
三匹では少ない。
「移動したのかも」
セイルが言う。
「かもしれない」
レナは頷いた。
三人は足跡を追う。
湿った地面には痕跡が残っていた。
しばらく進む。
そして見つけた。
今度は五匹。
先ほどより多い。
だがまだ足りない。
「行くぞ」
アッシュが前へ出る。
今度は狼も逃げなかった。
同時に飛び出す。
左右から。
挟み込むように。
その瞬間。
レナが手を上げた。
腰のナイフが浮く。
金属音。
ナイフが飛ぶ。
一匹の肩へ突き刺さる。
灰斑狼が体勢を崩す。
そこへアッシュの剣。
一撃だった。
別の個体がレナへ飛び掛かる。
レナが横へ避ける。
アッシュが斬る。
さらにもう一匹。
今度はセイルが気付く。
レナの動きが良い。
無駄が少ない。
魔法の反応も早い。
狼が飛ぶ。
レナが動く。
アッシュが倒す。
連携が綺麗だった。
戦闘はすぐ終わった。
「強ぇな!?」
アッシュが素直に驚く。
レナが笑った。
「今さら?」
「いや戦うとこ初めて見た!」
「そうだっけ」
「そうだよ!」
アッシュは本気だった。
確かにそうだった。
今までは魔法の話ばかり。
まともにレナの戦闘を見るのは初めてだった。
「魔法使いだと思ってた」
「魔法使いだよ」
「思ったより前に出るな」
「出ないと死ぬからね」
レナは当然のように言った。
その後も探索は続く。
さらに数匹討伐する。
そして。
セイルは確信した。
レナの調子が良い。
魔法の反応。
動き。
判断。
全部が少しずつ良い。
その時だった。
違和感。
セイルが上を見る。
枝。
葉。
影。
黒い。
「上!」
叫ぶ。
次の瞬間。
黒い灰斑狼が飛び出した。
アッシュが反応する。
剣を振る。
レナのナイフが飛ぶ。
狼が落ちる。
地面を転がる。
動かない。
黒い個体だった。
奇襲役。
レナの説明通りだった。
残っていた灰斑狼達は逃げていく。
森が静かになる。
討伐終了だった。
「今日調子良いんだよね」
戦闘後。
レナが首を傾げる。
アッシュが笑う。
「いいじゃねぇか」
「そうなんだけど」
レナも笑う。
だが少し不思議そうだった。
「何でだろ」
理由は分からないらしい。
帰り道。
アッシュは機嫌が良かった。
「思ったより危なかったな」
「だから言ったでしょ」
「でも弱かった」
「弱かったね」
レナが苦笑する。
セイルは森を見ながら歩く。
ダグの言葉を思い出していた。
ドラゴンに殺される初心者は少ねぇ。
爪ネズミに殺される初心者は多い。
あの時は爪ネズミだった。
今日は灰斑狼だった。
強敵ではない。
だが。
油断すれば死ぬ。
きっとダグはそういう事を言っていたのだろう。
王都へ戻る。
そして魔法屋。
討伐結果を報告する。
エルザが話を聞く。
討伐数。
戦闘時間。
魔力使用量。
淡々と確認していた。
だが。
「おかしいですね」
レナが首を傾げる。
「何が?」
エルザは答えない。
レナを見る。
何か計算しているようだった。
「エルザ?」
「いえ」
エルザは首を振った。
「何でもありません」
そう言うが。
何でもない顔ではなかった。
セイルはその様子を見ていた。
最近調子が良い。
レナ自身もそう言った。
そして。
エルザだけは違うものを見ている。
そんな気がした。
夕方の光が店へ差し込む。
レナは何も知らずに笑っていた。
その笑顔を見ながら。
セイルは少しだけ気になった。
最近のレナに。
何が起きているのだろうか。




