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第三十一話 初依頼


翌日。


バドウィン魔法屋。


いつものように店へ入る。


レナが手を振った。


「おはよ」


「おう」


アッシュが返事をする。


セイルも軽く頭を下げた。


そして。


少しだけ言いにくそうに口を開く。


「あの」


エルザが顔を上げる。


「何ですか」


「そろそろ宿代が無くなりそうで」


沈黙した。


アッシュが振り返る。


「言うなよ!」


「事実だ」


「そうだけど!」


レナが吹き出した。


「何それ」


「笑い事じゃありません」


「ごめんごめん」


全然反省していなかった。


エルザは冷静だった。


「では働いてください」


正論だった。


アッシュが頷く。


「正論だな」


「正論ですね」


セイルも頷く。


レナが何かを思い出したように手を叩く。


「あ」


「じゃあ明日じゃなくて今日行く?」


「何をですか」


「依頼」


レナは当然のように言った。


「冒険者の」


結局。


講義は午前で終わった。


午後は依頼。


そういうことになった。


「よし」


アッシュは嬉しそうだった。


「やっと冒険者らしくなってきたな」


「今までも冒険者だったでしょ」


レナが言う。


「勉強ばっかだった」


「必要だからね」


「知ってる」


知っているらしい。


納得しているかは別だった。


---


王都冒険者ギルド。


宿場町のギルドよりずっと大きい。


人も多い。


依頼掲示板も広い。


アッシュは目を輝かせていた。


「すげぇ」


「田舎者丸出し」


「うるせぇ」


レナは慣れた様子だった。


セイルは掲示板を見る。


依頼が多い。


薬草採取。


荷運び。


護衛。


調査。


討伐。


想像以上だった。


「王都は人が多いからね」


レナが言う。


「依頼も多い」


「どれ受けるんだ?」


アッシュが聞く。


「初心者向け」


即答だった。


「強いやつじゃなくて?」


「死ぬよ?」


レナも即答だった。


結局選ばれたのは薬草採取だった。


アッシュが露骨に嫌そうな顔をする。


「地味だな」


「新人だから」


「魔物は?」


「出るかもしれない」


「よし」


単純だった。


受付を済ませる。


依頼書を受け取る。


王都から少し離れた森。


採取対象は青葉草。


回復薬の材料らしい。


「簡単なのか」


セイルが聞く。


「簡単だよ」


レナは言う。


そして少しだけ笑う。


「だから危ないの」


意味が分からなかった。


---


王都の外へ出る。


街道を歩く。


風が気持ち良かった。


アッシュは機嫌が良い。


レナも楽しそうだった。


「依頼好きなんですか」


セイルが聞く。


「好きだよ」


レナは頷く。


「何でですか」


少し考える。


そして笑う。


「自由だから」


セイルは首を傾げた。


「自由?」


「うん」


レナは空を見る。


「どこへ行くか」


「何をするか」


「誰と行くか」


「自分で決められる」


少しだけ。


ほんの少しだけ。


昨日見た違和感を思い出した。


「だから好き」


レナはそう言った。


それ以上は語らない。


いつもの笑顔だった。


---


森へ着く。


薬草採取を始める。


セイルは得意だ。


「これですね」


「早っ」


レナが驚く。


「何で分かるの」


「葉の形です」


「いや、それは分かるけど」


アッシュは苦戦していた。


「全部同じに見える」


「ちゃんと見ろ」


「見てる」


見えていなかった。


その時だった。


後ろから声が聞こえる。


「おっ」


三人が振り返る。


森の入り口。


大柄な男が立っていた。


革鎧。


大剣。


傷だらけの顔。


いかにもベテラン冒険者だった。


男は三人を見る。


そして笑った。


「新入りか?」


レナの表情が少し変わる。


知り合いらしかった。


セイルはその変化に気付いた。


だが理由は分からない。


男はゆっくり近付いてくる。


「珍しいな」


「お前が新人連れてるなんて」


レナは苦笑した。


「色々あってね」


男の視線がセイルとアッシュへ向く。


品定めするような目だった。


そして。


「へぇ」


少しだけ面白そうに笑った。



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