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第二十八話 流れ


翌日。


バドウィン魔法屋。


「今日は操作です」


エルザが言った。


アッシュが嫌そうな顔をする。


「まだ基礎か」


「まだ基礎です」


即答だった。


「魔法とは才能ではなく技術です」


「聞いた」


「なら覚えてください」


「厳しいな」


レナが笑う。


「エルザだからね」


エルザは無視した。


慣れているらしい。


「操作とは魔力を動かす技術です」


紙へ図を書く。


心。


体。


排出点。


昨日見た図だった。


「ただし」


エルザが続ける。


「本質は魔力ではありません」


アッシュが首を傾げる。


「魔力じゃねぇのか」


「心です」


エルザは言った。


「心が乱れれば魔力も乱れます」


「感情に流されるほど制御は難しくなります」


レナが頷く。


「だから感情的な魔法使いは事故るんだよ」


「お前感情的だろ」


アッシュが言う。


「私は才能で誤魔化してる」


「自慢になっていません」


エルザが言った。


レナは笑った。


「知ってる」


---


実技が始まった。


魔力を感じる。


心から体へ。


そして指定された場所へ流す。


それだけ。


言葉にすると簡単だった。


アッシュは意外と上手かった。


何度か失敗した後、すぐに感覚を掴む。


「こうか?」


手へ魔力を集める。


エルザが頷いた。


「問題ありません」


「よし」


アッシュは満足そうだった。


単純だった。


だが強みでもある。


余計なことを考えない。


セイルはそう思った。


---


次は自分だった。


目を閉じる。


心を落ち着かせる。


魔力を探す。


流す。


だが途中で散る。


もう一度。


散る。


また散る。


「駄目です」


エルザが即答した。


「考え過ぎです」


セイルは少し考えた。


何が悪いのか。


どこで散ったのか。


何故散ったのか。


「だからです」


エルザが言う。


読まれた気がした。


---


レナが横から覗き込む。


「難しい?」


「難しい」


「そんなに?」


「そんなに」


レナは少し考える。


「私は流したい場所を決めて終わりだけど」


「それで出来るのか」


「出来るよ」


理解できなかった。


レナも理解できないらしい。


「セイルってさ」


レナが言う。


「人を見る時もそんな感じなの?」


セイルは少し考えた。


橋。


ティア。


ダグ。


オズワルド。


思い返す。


「そうかもしれない」


レナは苦笑した。


「疲れそう」


否定できなかった。


---


少し休憩になった。


レナが椅子へ座る。


「私はさ」


不意に言った。


「楽しそうかどうかで決めるよ」


セイルは首を傾げた。


「何を?」


「色々」


レナは笑う。


「依頼とか」


「遊びとか」


「人付き合いとか」


「楽しそうならやる」


「つまらなそうならやらない」


単純だった。


セイルには理解できない。


だが。


レナは本当に楽しそうだった。


「それで困らないのか」


「困るよ」


即答だった。


「でも楽しいからいいかなって」


理解できない。


本当に理解できない。


エルザなら怒りそうな考え方だった。


それでも。


間違っているとも思わなかった。


---


午後。


もう一度挑戦する。


今度は考えることを減らした。


心。


魔力。


目。


それだけ。


流す。


静かに。


ゆっくり。


今度は散らなかった。


「出来ました」


エルザが言う。


セイルは目を開けた。


確かに感覚があった。


魔力が目へ集まっている。


そんな感覚。


「やはり目ですね」


エルザは興味深そうだった。


「スキルとの関連性も濃い」


セイルは少し嬉しかった。


自分にも適性がある。


それが少しだけ分かった。


---


帰り道。


王都の空は赤く染まっていた。


アッシュは前を歩く。


「次はもっと派手なやつだよな」


「多分」


レナが笑う。


「アッシュはそればっかり」


「強い方がいいだろ」


「それはそう」


二人は楽しそうだった。


セイルは少し後ろを歩く。


その時。


レナが振り返った。


「でもさ」


「何ですか」


「考えるのも悪くないと思うよ」


意外だった。


レナは考えない人だと思っていた。


「何故ですか」


レナは少し笑う。


「私は考えないから」


「だから面白い」


セイルは少し黙った。


理解できない。


それでも。


嫌ではなかった。



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