第二十七話 適性
翌日。
バドウィン魔法屋へ入ると、レナが手を振った。
「おはよ」
「おう」
アッシュも手を振り返す。
妙に機嫌が良かった。
開門に成功したことだろう。
「見たか」
入るなり言った。
「見た」
セイルは頷く。
「成功したからな」
「したな」
「俺の方が先だったな」
「そうだな」
アッシュは満足そうだった。
レナが呆れた顔をする。
「子供みたい」
「うるせぇ」
「否定しないんだ」
「嬉しいもんは嬉しいだろ」
それはそうだった。
セイルも少しだけ分かる気がした。
「では続きです」
エルザが言う。
今日も机の上には本と紙が並んでいた。
「今日は排出効率を調べます」
「排出?」
アッシュが首を傾げる。
「魔力をどこから出しやすいかです」
エルザは説明した。
「人によって得意な部位が違います」
「手とかか?」
「ええ」
「指」
「目」
「足」
「声」
「様々です」
セイルは少し気になった。
「目もあるんですか」
「理論上はあります」
エルザは頷く。
「実例もあります」
セイルは少しだけ安心した。
自分だけではないらしい。
「まずはセイルからです」
言われた通り椅子へ座る。
目を閉じる。
昨日覚えた感覚を探る。
心の奥。
そこから流れる魔力。
まだ曖昧だが、昨日よりは分かる。
エルザの指が額へ触れた。
眉。
こめかみ。
そして目元。
そこで止まる。
「なるほど」
エルザは頷いた。
「目ですね」
「早いな」
アッシュが言う。
「かなり分かりやすいです」
レナも納得したように頷いた。
「やっぱり」
「分かるのか?」
「見れば何となく」
セイルには分からなかった。
「ハイエミッション型です」
エルザが説明する。
「高排出型」
「目の排出効率が極端に高い体質です」
スキルとの相性も良いらしい。
《よく見える》が目に関係するのは当然だ。
「次です」
エルザがアッシュを見る。
アッシュは胸を張った。
「来い」
「何故そんなに偉そうなのですか」
「強そうだからだ」
レナが吹き出した。
エルザは真面目なまま検査を始める。
腕。
手。
指。
肩。
首。
何も反応が無い。
エルザが首を傾げた。
「おかしいですね」
アッシュの顔が曇る。
「何がおかしいんだ」
「ありません」
「何が?」
「排出点がありません」
沈黙した。
「は?」
アッシュが固まる。
レナが笑いを堪えていた。
「そんなことある?」
「普通はありません」
エルザは真顔だった。
「もう一度確認します」
再検査が始まる。
今度はかなり念入りだった。
腕。
肩。
背中。
胸。
脇腹。
アッシュの顔が少しずつ赤くなる。
レナが気付いた。
「何で顔赤いの」
「赤くねぇ」
赤かった。
「気持ち悪い」
「うるせぇ!」
セイルは少し離れた所から見ていた。
どう見ても緊張していた。
エルザ本人だけ気付いていない。
やがて検査が終わる。
エルザは腕を組んだ。
「なるほど」
「分かったのか?」
「分かりました」
アッシュは身を乗り出す。
「強いか?」
そこが重要だったらしい。
エルザは少し考えた。
「強いです」
アッシュが拳を握る。
「よし!」
レナが笑う。
セイルも少し納得した。
やはり当たりだったらしい。
「ただし」
アッシュが固まる。
嫌な予感がしたのだろう。
「魔法使いとしては不向きです」
「は?」
「局所排出点が存在しません」
「つまり一点へ魔力を放出できない」
「杖との相性も極めて悪いでしょう」
アッシュが机へ突っ伏した。
「終わった」
レナが吹き出す。
「終わってないから」
「終わった」
「だから終わってないって」
エルザは続けた。
「ですが前衛としては最高クラスです」
アッシュが顔を上げる。
「本当か?」
「本当です」
即答だった。
「魔力を体内へ保持しやすい」
「循環効率も高い」
「身体強化との相性は非常に良いでしょう」
紙へ図を書きながら説明する。
「正式には」
「完全均衡型フルリテンションタイプ」
長かった。
アッシュもそう思ったらしい。
「もっと格好良く言えねぇのか」
「フルリテンションで良いでしょう」
「おお」
少し格好良くなった。
「つまり強いんだな」
「強いです」
「魔法は?」
「諦めてください」
「何でだよ!」
レナが笑う。
セイルも少し笑った。
エルザは小さく息を吐く。
そしてセイルを見る。
「貴方も普通ではありませんが」
「アッシュも十分おかしいですね」
セイルは頷いた。
「安心しました」
「何でだよ!」
アッシュの声が店に響く。
レナが笑う。
エルザも少しだけ口元を緩めた。
王都へ来てから。
少しずつだが、居場所が増えている気がした。




