第二十三話 バドウィン魔法屋
バドウィン魔法屋。
看板を見上げながら、アッシュが眉をひそめた。
「普通だな」
「普通だな」
セイルも同意した。
ダグは変な店だと言っていた。
だからもっと変な店を想像していた。
だが実際は違う。
王都の通りにある、ごく普通の店だった。
「入るか」
アッシュが扉を押す。
小さな鐘が鳴った。
店の中には棚が並んでいた。
本。
薬品。
魔石。
見たことのない道具。
そして紙束。
思ったより雑然としている。
「いらっしゃい」
声がした。
カウンターの奥から女性が顔を出す。
金髪のショートヘア。
年上だろうか。
明るい笑顔だった。
「お客さん?」
「そうだけど」
アッシュが答える。
女性は二人を見る。
剣。
荷物。
日焼け。
少し考えてから言った。
「冒険者?」
「おう」
「初心者?」
「おう」
「なるほど」
何か納得したようだった。
「魔法の相談?」
セイルは頷く。
「スキルのことを少し」
「へぇ」
女性は興味深そうに見る。
「面白そう」
アッシュが首を傾げた。
「面白そう?」
「うん」
即答だった。
「難しい相談より好き」
そんなことを言いながら近付いてくる。
距離が近い。
アッシュが少し後ろへ下がった。
女性は気付いていない。
「レナ」
別の声がした。
店の奥からだった。
女性が振り返る。
「あ」
ため息が聞こえた。
現れたのはもう一人の女性だった。
長い黒髪。
落ち着いた雰囲気。
女性を象徴する大きな双丘。
こちらは店員というより教師に近い印象を受ける。
「また勝手に説明しようとしているのですか」
「まだ説明してないよ」
「これからする予定だったのでしょう」
「うん」
即答だった。
黒髪の女性はもう一度ため息をついた。
「店長です」
女性は二人を見る。
「エルザ・バドウィン」
セイルは軽く頭を下げた。
アッシュも慌てて続く。
「で、こっちはレナ」
「よろしく」
レナが手を振る。
随分雰囲気の違う二人だった。
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「あ、ダグさんに紹介されて来ました」
その瞬間だった。
「ダグ?」
エルザが呟く。
本当に小さな声だった。
「知っているのですか」
セイルが聞く。
「ええ」
エルザはあっさり頷く。
「昔からの知り合いです」
それ以上は言わなかった。
レナも何も言わない。
少しだけ気になったが、聞くほどではない気がした。
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事情を説明する。
村。
神授の儀。
《よく見える》。
旅。
そしてダグのこと。
エルザは話を聞き終えると腕を組んだ。
「なるほど」
そしてセイルを見る。
「面白いですね」
「そうですか」
「ええ」
即答だった。
「《よく見える》自体は珍しくありません」
セイルは少しだけ落胆した。
だがエルザは続ける。
「ですが」
その視線が細くなる。
「貴方は少しおかしい」
アッシュが吹き出した。
「いきなり失礼だな」
「事実です」
エルザは真顔だった。
「普通なら岩甲亀の異変には気付けません」
「気付いたのは俺じゃなくて」
「気付き方の話です」
エルザは言った。
「違和感を積み重ねて結論へ到達している」
セイルは少し黙った。
そこまで考えたことはなかった。
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「だから言ったじゃん」
レナが横から言う。
「面白そうって」
「貴女は何でも面白そうで片付けます」
「実際面白そうじゃん」
「説明になっていません」
「分かるよ?」
「分かりません」
二人のやり取りにアッシュが笑った。
「仲悪いな」
「仲良いよ?」
レナが言う。
「良くありません」
エルザが言う。
息はぴったりだった。
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しばらく話した後。
エルザが紙を取り出した。
「魔法の基礎講座があります」
「講座?」
アッシュが嫌そうな顔をする。
「勉強か」
「勉強です」
エルザは即答した。
「魔力開門」
「魔力操作」
「魔力増幅」
「魔力圧縮」
「最低限ここまでは必要です」
アッシュの顔がさらに曇る。
レナが吹き出した。
「顔に出すぎ」
「だって勉強だぞ」
「魔法も勉強だよ」
「剣で何とかならねぇか」
「なりません」
エルザが切り捨てた。
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料金を聞く。
アッシュが固まった。
「高ぇ」
「安いよ」
レナが言う。
「安いですね」
エルザも言う。
「お前ら絶対金銭感覚おかしいだろ」
アッシュが真顔だった。
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セイルは少し考えた。
ダグ。
違和感。
スキル。
知りたいことは多い。
王都へ来た理由の一つでもある。
「受けます」
アッシュが振り返る。
「受けるのか?」
「受ける」
迷いはなかった。
レナが笑う。
「よし」
なぜか嬉しそうだった。
「じゃあ明日からね」
アッシュが嫌そうな顔をする。
「今から帰りてぇ」
「まだ始まってもないよ?」
レナは笑う。
その横でエルザが紙を片付けていた。
セイルは店内を見回す。
本。
道具。
魔法。
知らないことばかりだった。
王都へ来てから初めて。
少しだけ楽しみだと思った。




