第二十二話 王都の現実
面会室を出る前に、オズワルドが言った。
「毎日は難しいですが」
三人が見る。
「週に一度ほどであれば、お会いする時間を作れると思います」
ティアの顔が明るくなった。
「本当ですか?」
「ええ」
オズワルドは穏やかに頷く。
「もちろん、聖女様の予定次第ですが」
「はい」
ティアは嬉しそうに頷いた。
アッシュも笑う。
「じゃあまた来る」
「うん」
ティアが答える。
「待ってる」
セイルも頷いた。
短い約束だった。
それでも、少し安心した。
ティアは遠くなった。
けれど、完全に届かない場所へ行ったわけではない。
そう思えた。
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翌日。
セイルとアッシュは教会の前でオズワルドと合流した。
ティアはいない。
今日は勉強があるらしい。
アッシュは分かりやすく残念そうな顔をした。
「聖女様も忙しいのです」
オズワルドが言う。
「分かってるよ」
アッシュは口を尖らせた。
オズワルドは少しだけ笑った。
「では、王都をご案内しましょう」
王都は広かった。
昨日も見たはずだった。
だが、歩いてみると改めて広い。
大通り。
商店。
馬車。
武器屋。
宿。
酒場。
路地。
人の流れが絶えない。
アッシュは何度も足を止めた。
「武器屋多いな」
「冒険者も騎士も多いですから」
「騎士も?」
「ええ」
オズワルドは通りの先を見る。
「王都には騎士団があります」
その言葉にアッシュの目が少し変わった。
「騎士団……」
分かりやすかった。
セイルはその横顔を見る。
アッシュは王都を見ている。
だが本当は、王都の先にある何かを見ているのかもしれない。
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しばらく歩くと、広い建物の前に出た。
冒険者ギルドだった。
宿場町のギルドより大きい。
出入りする人も多い。
剣を持つ者。
槍を持つ者。
弓を背負う者。
杖を持つ者。
年齢も装備もばらばらだった。
「ここが王都の冒険者ギルドです」
オズワルドが言う。
「でけぇな」
アッシュが見上げる。
「人も多い」
セイルも呟いた。
中へ入る。
声。
足音。
紙をめくる音。
受付のやり取り。
依頼板の前には人だかりができていた。
「すごい数だな」
アッシュが言う。
「依頼も多いのでしょう」
オズワルドは頷く。
「ただし、冒険者も多い」
その言葉で、セイルは依頼板を見る。
低ランク向けの依頼。
荷運び。
清掃。
薬草採取。
小型魔物の駆除。
どれも見覚えがある。
だが、その前にいる冒険者の数が違った。
多い。
多すぎる。
「早い者勝ちですか」
セイルが聞く。
「そうですね」
オズワルドは答える。
「条件の良い依頼はすぐに埋まります」
アッシュが眉を寄せる。
「じゃあ、弱い奴は稼げないのか?」
「弱いというより、ランクが低い者ですね」
オズワルドは言った。
「王都では低ランク冒険者が多い。依頼も多いですが、競争も激しい」
「面倒だな」
「現実です」
その言葉は静かだった。
責めるでもない。
脅すでもない。
ただ事実を置いただけだった。
セイルは依頼板を見る。
宿場町では、依頼を選べた。
ここでは違う。
選ぶ前に、選ばれる立場なのかもしれない。
「ランクを上げれば変わりますか」
「変わります」
オズワルドは頷いた。
「受けられる依頼が増えます。報酬も安定します」
「どのくらいまで?」
「王都で安定して活動するなら、まずはDランクでしょう」
Dランク。
セイルはその言葉を覚えた。
アッシュは腕を組む。
「つまり強くなればいいんだろ」
「それも必要です」
オズワルドは言う。
「ですが、それだけではありません」
アッシュが嫌そうな顔をした。
「また難しい話か」
「王都では、強さにも信用が必要です」
「信用?」
「依頼を果たすこと。約束を守ること。無茶をしすぎないこと。生きて帰ること」
セイルは少し黙った。
ダグの声を思い出した。
死ぬなよ。
強くなる前に死んだら、何にもならねぇ。
違う場所で、違う人から、似たようなことを言われている気がした。
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ギルドを出る。
外の空気は少し冷たかった。
アッシュはしばらく黙っていた。
珍しい。
「どうした」
セイルが聞く。
「いや」
アッシュは少しだけ考えた。
「王都って、すげぇな」
「うん」
「でも、すげぇだけじゃ駄目なんだな」
セイルは頷いた。
それはセイルも感じていた。
王都は広い。
人も多い。
機会も多い。
だが、その分だけ競う相手も多い。
村から来た自分達は、まだ何者でもない。
その事実が、少しだけ重かった。
「それでも」
アッシュが顔を上げた。
「やるしかねぇだろ」
「そうだな」
そこは変わらない。
アッシュはいつも前を見る。
セイルにはそれが少し眩しかった。
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オズワルドは通りの先を見た。
「それと、セイルさん」
「はい」
「魔法やスキルについて知りたいのでしたね」
「はい」
「私も多少は分かりますが、専門ではありません」
オズワルドはそう言って、細い通りを指した。
「この先に、王都でも腕の良い魔法屋があります」
セイルは足を止めた。
聞き覚えがあった。
「もしかして」
アッシュも気付いたらしい。
「バドウィン魔法屋、ですか」
オズワルドは少し意外そうに瞬いた。
「ご存じでしたか」
セイルは頷いた。
「旅の途中で、教えてもらいました」
酒臭い老人の顔が浮かぶ。
「そうでしたか」
オズワルドは微笑んだ。
「では、ちょうど良いですね」
通りの先に、小さな看板が見えた。
派手ではない。
古びてもいない。
ただ、長くそこにあるような店だった。
看板にはこう書かれていた。
バドウィン魔法屋。
セイルはその文字を見上げた。
ダグの言葉が、王都で繋がった気がした。




