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第三章 第二十一話 再会


ティアがこちらを見た。


少しだけ目を見開く。


そして、笑った。


その笑顔はさっき見た聖女の笑顔ではなかった。


村で何度も見た、ティアの笑顔だった。


ティアは人垣の方へ歩き出す。


礼拝堂がざわついた。


聖女が自分から動いたからだ。


神官達も困惑している。


それでもティアは止まらない。


まっすぐこちらへ向かってくる。


そして。


「セイル! アッシュ!」


声が響いた。


セイルは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。


その声だった。


二週間も経っていないはずだった。


それでも、ずいぶん久しぶりに感じた。


聞きたかった声だった。


「ティア!」


アッシュが嬉しそうに手を振る。


ティアも手を振り返した。


礼拝堂のあちこちから視線が集まる。


当然だ。


聖女が冒険者風の若者二人へ駆け寄っているのだから。


「聖女様」


神官の一人が慌てて近付いてきた。


「面会室をご用意いたしますので」


ティアは少し申し訳なさそうに笑った。


「ごめんね。少しだけ待ってて」


「おう」


アッシュが頷く。


ティアは神官達に囲まれながら一度奥へ下がった。


その後、案内された面会室で再び顔を合わせることになった。


---


部屋へ入った瞬間だった。


「スッゲー綺麗だったぞ!」


アッシュが言った。


ティアが固まる。


セイルも固まった。


「え?」


「いやマジで!」


アッシュは本気だった。


「最初ティアって分からなかったもん!」


「そ、そうかな……」


ティアの頬が少し赤くなる。


どうやら聖女として褒められるのと、幼馴染に褒められるのは違うらしい。


アッシュは止まらない。


「白い服も似合ってたし!」


「もう、やめてよ」


ティアは困ったように笑った。


だが少し嬉しそうでもあった。


そして。


ちらりとセイルを見る。


セイルはその視線に気付いた。


何を求められているのかも、なんとなく分かった。


「セイルは?」


「ん?」


「何かないの?」


アッシュがニヤニヤしながら聞く。


セイルは少し考えた。


礼拝堂。


差し込む光。


向き直ったティア。


跳ねた心臓。


全部思い出す。


だが。


上手く言葉にならない。


「光が当たってたからな」


数秒沈黙した。


「そういう話じゃねぇ!」


アッシュが即座に突っ込む。


「いや、本当に」


「そうじゃなくて!」


ティアは思わず吹き出した。


「ふふっ」


少しだけ肩を震わせて笑う。


期待していた答えではなかった。


少しだけ。


本当に少しだけ。


拗ねた気持ちもあった。


けれど。


セイルらしい。


そう思うと納得してしまう。


「久しぶりだな」


ようやくセイルが言った。


「うん」


ティアが頷く。


「久しぶり」


その言葉だけで十分だった。


三人は旅の話をした。


冒険者登録。


爪ネズミ。


岩甲亀。


兎角鹿。


アッシュが楽しそうに話し続ける。


ティアも楽しそうに聞いていた。


「ティアはどうなんだ?」


アッシュが聞く。


「聖女って大変か?」


ティアは少し考えた。


そして微笑む。


「うん」


短く頷く。


「大変だけど」


そこで一度言葉を切った。


「頑張ろうと思う」


セイルはティアを見る。


村を出る前。


不安を隠しきれていなかったティア。


今のティアは少し違った。


不安が無いわけじゃない。


それでも前を向いている。


そんな顔だった。


「それにね」


ティアが続ける。


「最近は魔法の練習も始めたの」


「魔法?」


「うん。まだ全然だけど」


楽しそうだった。


無理をしているようには見えない。


忙しいのだろう。


大変なのだろう。


それでも。


少なくとも今は。


ティア自身が選んで進んでいるように見えた。


---


その時だった。


扉がノックされる。


「失礼します」


若い男が入ってきた。


白を基調とした法衣。


控えめだが上質な刺繍。


整った顔立ち。


柔らかな物腰。


村で見た時と同じ、穏やかな雰囲気だった。


ティアが立ち上がる。


「オズワルドさん」


男は二人を見ると、小さく笑った。


「お久しぶりです。王都へ来られたのですね」


「おう!」


アッシュが元気よく答える。


「覚えててくれたのか」


「もちろんです」


男は丁寧に一礼した。


「改めまして、オズワルドです」


礼儀正しく、嫌味もない。


むしろ好印象だった。


セイルもそう思った。


オズワルドはティアへ視線を向ける。


その一瞬だけ。


ほんの少しだけ、表情が柔らかくなった気がした。


気のせいかもしれない。


だが。


アッシュを見る時とも。


自分を見る時とも違った。


理由は分からない。


それでもセイルは覚えていた。


ほんの小さな違和感だった。



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