第十話 薬草
商人と別れた翌日。
セイルは道端にしゃがみ込んでいた。
薬草を摘んでいる。
一本。
また一本。
さらに一本。
「またか」
後ろからアッシュの声がした。
「まただ」
セイルは答える。
「そんなにあるのか?」
「ある」
「何で見つかるんだ」
「生えてるから」
「それは見れば分かる」
「じゃあ何で分からないんだ」
「分からん」
アッシュは頭を掻いた。
セイルにも分からなかった。
村では珍しくもない薬草だった。
だが商人は言っていた。
王都にも買う者がいる。
なら拾っておいて損はない。
それだけだった。
昼過ぎ。
二人は木陰で休憩していた。
干し肉を齧る。
硬い。
昨日も食べた。
今日も硬い。
「なあ」
アッシュが口を開く。
「そんなに金いるか?」
「いる」
即答だった。
「村長から食料は貰ってない」
「うん」
「宿代もいる」
「うん」
「装備も欲しい」
「うん」
「王都は高いらしい」
「うん」
アッシュは空を見上げた。
「面倒だな」
「面倒だな」
そこは意見が一致した。
しばらく沈黙。
風が吹く。
木々が揺れる。
「でもさ」
アッシュが言った。
「早く行きたいんだよな」
「分かる」
「ティアもいるし」
「うん」
「王都も見たいし」
「うん」
「強い奴もいそうだし」
それが一番大きそうだった。
セイルは少しだけ笑う。
「でも金はいる」
「分かってる」
「じゃあ採るしかない」
「分かってる」
アッシュは不満そうだった。
だが反論はしない。
それも分かっているからだ。
二人は再び歩き始めた。
薬草を探しながら。
しばらくして。
セイルが足を止める。
「どうした?」
「木」
「木?」
セイルは前方を指差した。
街道脇の木。
その枝。
「何かいる」
アッシュが目を細める。
見えない。
「どこだ」
「右」
「右?」
「もう少し上」
アッシュは剣の柄に手を掛けた。
その瞬間だった。
枝から何かが飛び出した。
灰色の影。
猫ほどの大きさ。
鋭い爪。
「うおっ!?」
爪ネズミだった。
アッシュが反射的に身を引く。
爪が鼻先を掠めた。
そのまま剣を振る。
一撃。
爪ネズミは地面に叩き落とされた。
痙攣。
沈黙。
終わりだった。
「危なっ」
アッシュが息を吐く。
「爪ネズミか」
セイルは死体を見る。
村の近くにもいる魔物だった。
ただし。
「一人だったら怪我してたな」
アッシュが言う。
「多分」
「よく気付けたな」
「見えたから」
「便利だな」
便利だった。
だからこそ。
自分一人では何もできないのが少し悔しい。
その後も数匹見かけた。
だが二人なら問題にならない。
セイルが見つける。
アッシュが倒す。
それだけだった。
夕方。
成果を確認する。
薬草の束が思ったより増えていた。
「結構あるな」
アッシュが言う。
「あるな」
「これ全部売れるのか?」
「分からない」
「またそれか」
セイルは肩を竦めた。
商人が言っただけだ。
値段までは知らない。
だが。
金になる可能性はある。
それだけで十分だった。
翌朝。
二人は再び街道を歩いていた。
そして。
薬草を摘んでいた。
「急ぎたいんじゃなかったのか」
セイルが言う。
アッシュは無言で薬草を引き抜く。
しかも速い。
かなり速い。
「急ぎたいぞ」
「じゃあ何で採ってる」
「金がいるんだろ」
「いるな」
「ティアに会う前に野垂れ死には嫌だからな」
そう言いながらまた一本摘む。
さらに一本。
さらに一本。
セイルはそんなアッシュを見た。
少しだけ。
口元を緩める。
文句は多い。
せっかちだ。
落ち着きもない。
だが。
決めたことはちゃんとやる。
そういう男だった。
「何だよ」
アッシュが言う。
「別に」
二人は再び歩き出す。
王都はまだ遠い。
だが。
少しずつ近付いていた。




