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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
魔女との出会い編
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第1話 「弟子 はじめました」①



 ご馳走の準備をする、と張り切ったファーラがどこかに出かけてから十数分。ブリジットは師となったニーロの最初の命を忠実に守っていた。そう、「リビングで待っていろ」という命を。


(ニーロさん……じゃない、お師匠様まだかな)


 壁に寄せられた大きな振り子時計にちらりと視線をやって、ブリジットは内心でひとりごちる。まずやることがある、と言っていた。そのために必要な道具を持ってくる、と。すぐに戻ってくるとも言っていたので言いつけを守り素直に待っていたが、もしかしてこれは手伝いをする気遣いが出来るかのテストなのだろうか。ブリジットがそわそわし出した頃、ようやくニーロが戻ってくる。


「すまない、待たせた。長いこと使っていなかったから倉庫の奥に入り込んでいた」


 肩に乗った埃を払って、ニーロは持って来た物を机の上、ブリジットの前に置いた。土台はブリジットの拳ひとつ分ほどの高さの円柱。その上に六角柱の透明の水晶が伸び、根元付近から左右に広がるようにさらにもう二本の水晶がついている。左右の水晶は六角柱を半分に切ったような形をしており、上面が平たくなっていた。


「お師匠様、これは――?」


 美しいインテリア、と言ってしまえばそれでも信じられるような代物。だが、そんな物をわざわざ持ってくることはしないだろう。何かしら魔法に関係のある道具なのだろうと予測を立てていると、正面に座ったニーロはブリジットの疑問に答える形で説明を始める。


「これは魔力を測る魔道具だ。魔道具、というのは、既製品や魔女が作った道具に魔法を込めたもののことを言う。魔力を必要としないものもあれば、必要とするものもある。この先お前も使っていくことになるから、後でファーラに色々と教えてもらいなさい」


 返事をしながらブリジットは自然と頬を緩めた。弟子になるにあたり二人称が「君」から「お前」に変わったのだが、ブリジットは嫌がるどころか師からの親しみを感じてむしろ嬉しくなっている。そんな弟子の心情が分からないニーロは、「不思議な体験を出来るのが楽しいのだろう」と斜め方向の予想を立てていた。


「この魔道具の使い方はこうだ」


 言下ニーロの両手が左右に伸びている水晶に乗せられる。直後、中央の水晶が明るい青色に染まった。一瞬の変化にブリジットは目を見開き感嘆の声をもらす。


「使用者の魔力量に応じてこの中央の水晶の色が変わる仕組みだ。最上位が紫で、藍、青、緑、黄、橙、赤と続く。また、光が明るいほど魔力が強いことになる。私は上の下という程度だな。さあ、やってみなさい」


 ニーロの手がどくと、数秒でまた水晶は透明に戻った。促されたブリジットはこくりと頷くと、そっと左右の水晶に手のひらを乗せる。何かしなくてはいけないのだろうか、と思った直後、中央の水晶の色が変わる。黄色っぽい緑で、明るさはやや明るめだろうか。ちらりとニーロに視線を向けると、ニーロは顎に手を当てふむと唸っていた。


「中の中、と言ったところか。魔力を使わずに過ごしてこれならば伸びしろは十分だな。十年もすれば私を超すかもしれんな」


 ふっと楽しげに微笑み満足げに呟くニーロ。ここに来てから数えるほどしか見ていない笑顔を見てほっとする一方で、ブリジットはある疑問を抱く。


「あの、お師匠様。魔力って増減するものなんですか?」


「うん? ああ、そうだな。使うことで少しずつ上がっていくし、使わなければ下がるが、最初期の魔力量より減ることはない。私も最初は今のお前より少ない魔力だったが、魔法を使う機会が多かったので今くらいになった」


 もう手を下ろしていい、と指先で指示されたので手をどかした。緑に染まった水晶は再び透明に戻る。


「あの、質問ばかりで申し訳ありません。魔女をやっていくには、やっぱり魔力が多い方がいいんでしょうか?」


 初歩的な質問だろう。だが、ファーラと違ってブリジットは本当に何も魔女のことを知らないのだ。知らないこと、分からないことは積極的に訊いて学びなさい。かつて父に教えられたことを守るのは癪に障るが、内容自体に間違いがないのならば素直に実行すべきだろう。


 そんなブリジットの割り切りはこの師には合っていたようで、「学ぶ姿勢があるのはいいことだ」と口元を緩ませる。


「少ないよりは多い方がいいだろう。魔力が強い方が魔法や魔道具の効果は上がるし、魔法の強度も上がる。それに、魔女や弟子の中には魔力至上主義の者もいるから、そういう面々と諍いを起こさないためにもなるべく上げておいた方がいい」


 ある程度魔力がある相手には絡んでこないから、と付け足したニーロ。その顔に目に見えるほどの疲れを感じ取り、ブリジットはたらりと冷や汗を流した。


(お師匠様も苦労してるんだな……)


 一週間ほどの付き合いだが、ニーロがこうもあからさまに表情を変えるところは見たことがない。魔力至上主義者というのは、相当面倒な者たちなのだろう。


「さて、ではどうやって魔力を上げるか、だが、地道だがやはり魔力を使っていくしかない。とはいえ、魔女でないなら魔法は使えない。その場合、どうするべきだと思う?」


 まるで授業のような問いかけ。いや、まるでではなく授業なのだ。気付いたブリジットは世間話とは受け止めず真剣に考え始める。


 魔力は使うほど強くなる。しかし魔法は魔女にしか使えない。それなら、魔法を使えない者が魔力を消費する他の方法があるはず――。


 と、そこまで考えてからブリジットは自然と下がっていた視線を上げて思わず手を上げた。


「はい! 魔力が必要な魔道具を使う、です」


 勢いよく答えれば、ニーロは正解と頷く。


「その通り。ではこれをやろう。魔力使用の練習用魔道具だ」


 渡されたのは先の道具と同じように円柱に水晶が乗っている道具。だがこちらの水晶は丸く、ブリジットでも簡単に持ち運びが出来そうなほど小さい。


「手に乗せても指先で触れるだけでも構わないが、とにかく道具に手を接触させる必要がある。ブリジット、片手でそれに触れて、もう片方の手をこちらに」


 魔力を測る魔道具を脇に寄せ、ニーロがすっと手を伸ばしてくる。ブリジットはすぐに左手で魔道具に触れ、右手をニーロの差し出された手に乗せた。


「はじめてだからな、まずは体験して感覚を掴んでおくといい」


 言うが早いか、ニーロの指先からブリジットの指先に何かが入ってくる。それは体を通り抜け、ブリジットの中の何かを揺らして左手の先へと向かった。


 直後、丸い水晶の中でいくつもの小さな光が踊る。昼の明るさの中でも輝いて見えるそれに見入っていると、触れていた手が放された。途端に水晶の光は全て消え失せる。――否、小さな小さな光がひとつだけ、水晶の下の方で揺らめいていた。だが、それも僅かな間で消え去ってしまう。


「魔力を込めると水晶の光が灯る仕組みだ。今は私が魔力を流し、お前の魔力を動かし、それで光が発生した。今のはただ魔力を流しただけだから乱雑に灯っただけだが、慣れると光を自在に操れるようになる」


 今の所それが一番の目標だな、と続けられ、ブリジットは師と魔道具を交互に見やった。


「……あの、一度やってみてもいいですか?」



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