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第18話 「許されざる〝魔女〟」④



「ファーラちゃん、いつの間にお師匠様に連絡を?」


 ニーロはただ戻ってきたわけではなく、こちらの状況を理解したうえで戻ってきていた。その理由は、先に彼が口にした通りファーラが状況を伝えたからだろう。


 その抜け目のなさに感心を抱くブリジットの視線に、ずっと一緒に行動していたはずなのに気付かなかったレナの「そういえば」という視線に、ファーラはにっと歯を見せて笑って見せた。


「屋敷の前からこっちに来る時です。最悪キャシーにルネッタの魔女を取られている可能性がありましたので、その旨を伝えて早く戻ってきてくれるように伝言を残しておきました。ちなみにお父さんの到着が分かったのもこれのおかげです」


 そう言いながらファーラがポケットから取り出したのは、持ち運び用の『伝達の水晶』だ。ニーロのとは違い新しめの物なので、相手の声は使用者にしか聞こえない。


「空間が雑に閉じられていたので上からしか入れなかったのは少し困ったが、間に合って良かった」


 ニーロがファーラからの伝言を聞いたのは、駆り出された先で魔物が無事に駆逐された直後だった。伝言が届いてから若干時間が経っており、肝が冷えたものだ。


 すぐさま移動しようとしたが、空間が閉じられていたため一時見つけられなかった。


 同じ場所にいた魔女たちも気付いて騒いでいたが、そこは『空間の魔女』と呼ばれている身。少し集中すれば魔道具で雑に閉じられた空間などすぐに見つけられる。


「まさかここまで暴挙に出るとは思ってなかったから助かったですよ。ありがとうです、お父さん」


 ファーラがぺこりと頭を下げれば、そういえばお礼がまだだった、とブリジット、レナが追いかけるように頭を下げて礼を述べた。


 自分も言わねば、と思うルネッタだが、数年単位で拗らせた感覚が素直に口を開くことを拒ませる。


 そんな彼女に視線を向けたのはブリジットだ。


「ルネッタ様も、助けていただいてありがとうございます!」


 ニーロにしたのと同じように丁寧に頭を下げるブリジット。顔を上げた彼女の輝く双眸に当てられ、ルネッタは意地を張っている自分が何だか馬鹿らしくなってしまう。


「べっつに。元々うちの問題だし。あたしがお礼言われることじゃないわよ。………………だから、ありがとう、ニーロ・リッドソン」


 顔を歪めて礼を述べるルネッタだが、誰からも返されるのは微笑ましさを堪えきれない笑顔。


 何故なら、彼女の頬は真っ赤に染まっていた。このひねくれた少女が、恥ずかしいのを我慢しながら礼を述べているのだ。周囲の人間からしたら微笑ましさしかない。


「笑ってんじゃないわよ!!」


 それが恥ずかしくて、ルネッタは猫が威嚇するように怒鳴る。それに思わずと言った様子で一同からは笑い声が零れた。騒動が起こってから、初めての笑い声に、ルネッタもつられるように頬を緩める。


「そういえばルネッタ、魔力使えたのね。追い詰められたから咄嗟に出来たのかしら」


 ようやく立ち上がったレナが歩き出した。そちらに目をやったブリジットは、しかしすぐに逸らしてしまう。レナを越えた先で、キャシーが殺さんばかりの目つきで睨んでいた。


 もう何も出来ないと分かっていても、とんでもなく恐ろしい。せめてルネッタの視界に入らないように、と、ブリジットはレナに近付くふりをしてさりげなくルネッタとキャシーの間に入る。


「そうなんですレナさん。私結構意識が朦朧としてたんですけど、魔力だけはちゃんと感じ取れてたんです。私たちが魔物……じゃなくて、あのゴーレムに追い詰められた時、こう、ルネッタ様が魔鎚をぶんぶん振ってたんですけどね、最初は何も出なかったんです。でも、この魔力が動かせれば――って……」


 ニコニコしながら当時の状況を身振りを交えて説明するブリジット。しかし、その言葉が途中で止まった。顔を引きつらせて固まる彼女に疑問の視線が集まる。


 そんな中、最初に「ああ」と声を上げたのはルネッタだ。


「そうね、ブリジットはあの時意識朦朧としてたもんね。いいわ、あたしが教えてあげる。変身ゴーレムに追い詰められた時、あたしもダメかと思ったの。でも、急に足元からこう、体の中をぶわあああって何かに揺らされるような感覚があって、そしたら魔力が使えたの! さっき炎を動かした時もね、その時の感覚必死に思い出してやったのよ!」


 どうよ、と腰に手を当ててルネッタは胸を張る。そんな彼女を、ブリジットは過剰なほど手放しに褒め始めた。本音と、被せるように感じる誤魔化しの気配。


 ブリジットはすでに失敗している。ここにいるのは、察しの良さで言えばトップクラスの3人だということを忘れていた。


「……ブリジットさん、確か応接室でルネッタの魔力動かそうとしてましたよね?」


 とは、再生した応接室での様子を思い出したファーラ。


「あなた、私たちが追いついた時ルネッタの足元に倒れてたわよね?」


 とは、合流当時の様子を思い出しているレナ。


「それにさっき、『動かせれば』と言っていたな?」


 とは、つい先程の発言を逃さず聞いていたニーロ。


 三方から「まさか……」という視線を向けられ、ブリジットは耐えきれず顔を隠す。


「……ご、ごめんなさい……。あの、本当に朦朧としてて、岩みたいに固まってる魔力があったから、これ動かせれば助かるのに、って思っちゃって……すみません、レナさんに怒られてたのに」


「「「体調は!?」」」


 言い訳の言下、隣のレナが肩を掴み、斜め前のファーラが立ち上がり、元の位置のままのニーロが一歩踏み出し同じ疑問を口にした。



お読みいただきありがとうございました!


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