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第18話 「許されざる〝魔女〟」②



 ――そう、思った瞬間だ。


「ふっざけんじゃねーですよバカ女! ルネッタが向いてないってのは、そっちのバカが拗ねて魔女の勉強何にもしないで肩書にだけ頼ってたからですよ! 魔力が動かせないなら自分より魔力が大きい生命の魔女グレース様なり追憶の魔女ソフィ様なりに頼めばよかったのに何もしないから! でも、少なくとも、お前みたいに人を傷付けることを何とも思ってない自画自賛自意識過剰のイカレ女より、人のために薬作って役に立ってるルネッタの方が億万倍魔女に向いてんですよ!」


 炎の向こうから聞こえてきた怒声。いつもいつも喧嘩ばかりしているファーラの声。思わず顔を上げたルネッタの頬に、一筋涙が零れる。


 ただの比較かもしれない。


 キャシーよりマシというだけの話かもしれない。


 けれど、億万倍、向いているのだ。キャシーなんかより、ずっと、ずっと。


 涙をゴシゴシと拭い、ルネッタはキッとキャシーを睨み上げる。


「……はーあー? 言うに事欠いてルネッタより下だって言ってるの? 私のことを? ――やっぱりあんた嫌いだわ、ファーラ・リッドソン」


 ゴミを見るような目をしたかと思うと、キャシーは操作の魔杖をあちこちに動かそうとした。


 その時、勢いよく立ち上がったルネッタがその腕に思い切り噛み付く。


「痛っ! 痛い痛い! ちょっと、やめてよルネッタ! やだっ、痛いってば!」


 あまりの痛さに、キャシーは操作の魔杖を取り落とした。しかしそれを保守するよりも、彼女はルネッタを逆側の手で叩くことを優先する。何度も何度も叩かれるが、ルネッタは嚙む力を緩めなかった。


「離して!!」


 キャシーの方もなりふり構わず体当たりの要領でルネッタを地面に押し倒す。ようやく離されるが、その腕には歯形がしっかりと刻まれ、そこからは血がダラダラと流れていた。


 腕の状態を確かめたキャシーは、顔を歪めて押し倒していたルネッタの上に馬乗りになる。


「最低っ! 私から魔女を取っただけじゃなくてこんな傷つけるなんて! すっごく痛かったんだからね! ルネッタの馬鹿! あんたなんていらない子のくせに、私に傷付けるなんて本当に生意気!!」


 何度も何度も、キャシーはルネッタを打ち付ける。頭を顔を、殴られ続けるが、ルネッタは何故か何も反応しない。何かに集中するように、ぶつぶつと何かを言い続けていた。それは、頬が真っ赤になっても、切れた口から血が出ても続く。


 しかしそんな異常な状態に、ルネッタを見下し、ルネッタには何も出来ないと高をくくっていたキャシーは気付かない。それだけ頭に血が上っていた。


 もし彼女が冷静であれば気付いたことだろう。


 ルネッタから立ち上る、膨大な魔力の発露に。


「あんたって本当に、いつもいらないことしかしない! 魔女だって本当は最初から私の――!」


 叫び、殴る最中、ふと近い場所からパキリと何かが壊れる音が聞こえてきた。


 場違いな高い音に、キャシーは思わず動きを止める。音がした方に目を向けた。視線をルネッタの顔から後ろへ後ろへと下げて行けば、音の正体が視界に入る。


 それは、割れた杖。操作の魔杖が、バラバラになっていた。しかも、ただ割れただけではない。その持ち手は、ルネッタの手に握りこまれている。


 そこに至り、ようやくキャシーはルネッタの魔力が動いた形跡に気付いた。ゾッと背筋を冷やし、反射のように立ち上がる。魔杖が割れたのは、ルネッタが規格外の魔力で魔道具を使用したから。


 であれば、対象は――!


「どきなさいキャシーッ!!」


 視線をそちらに向けた瞬間、魔鎚を構えたレナが飛び込んできた。


 咄嗟にポケットから取り出した重力操作の杖をレナに向ける。片足を取られたレナがバランスを崩している間に、キャシーはそこから離れた。


「ルネッタ様!」


「ルネッタよく魔道具動かしたです。褒めてやるから意識ちゃんと保つですよ!」


 それと入れ替わるようにブリジットとファーラが駆けこんでくる。


 炎は、とキャシーが周囲を見回した。あれだけ燃えていたはずなのに、その姿どこにもない。


「お探しの物なら上よ」


 厳しい視線でキャシーを捉えているレナが固い声で告げた。警戒してレナを見たキャシーだが、上、と言われて咄嗟に視線を上げてしまう。


 そして視界に、燃えて穴が開いた枝葉の屋根と、その先の空で渦巻く炎を捉えて舌打ちした。


 ルネッタを殴ることに意識がいっていたせいで、炎が操作され巻き上げられたことに気付かなかったのだ。


 本来であれば魔道具が壊れた時点で落ちて来てもおかしくない。だが、過剰な魔力が込められたので、今も炎は空で渦巻き続けている。


「残念だったわね。あなたが見下し続けていたルネッタが、あなたの企みを阻止したのよ」


 きっぱりと言い切るレナに、キャシーは頬を引きつらせながらも鼻で笑った。


「阻止? 手をひとつ止めただけじゃない。悪いけど私は慎重なの。まだ魔道具いっぱい用意してるから、終わった気になるのは早いんじゃない?」


 言いながら、キャシーはごそりとポケットを漁る。


 だが、ルネッタの治療を始めていたファーラがそちらも見ずにその自信を否定した。


「終わりですよ」


「――は?」


 眉を寄せて聞き返せば、ファーラは見下すように笑ってキャシーを視界に捉える。


「お前本当に周りを過小評価してますね。空間を閉じたとか偉そうに言ってましたけど、笑いを堪えるのに必死でしたよ」


 ゆっくりと、ファーラの指先が空に向かった。


「舐めすぎです。お前が今敵に回したのは」


 言下、空間に見えないヒビが入る。ピシリピシリと甲高い音が鳴ると共にそれは広がり、僅かな間も空けず、ガラスが粉々になったような音を立てて崩壊した。


 その先に現れたラズベリーの色彩に、ブリジットは安堵の声と笑みを零す。


「空間の魔女、ニーロ・リッドソンですよ」



お読みいただきありがとうございました!


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