第17話 「ファーラちゃんの解決編」⑤
魔道具の標に従い大きな魔力の元に走るファーラとレナ。共に身体強化の薬を飲んでいるとはいえ、余裕はファーラの方があった。
「あなた元々そんなに体力あった?」
隣を軽やかに走るファーラに一瞬視線を向けてレナが問う。それに、ファーラは「やってしまった」という顔をしながら答えた。
「これ薬の作用だけじゃないです。僕もさっき走ってて気付いたんですけど、多分お父さんが移動前にかけてくれた魔法って身体強化だったみたいです。あ~~、終わった後の揺り返しが怖いですぅ……」
身体強化は文字通り身体の能力が強化されるため、使えると非常に便利な魔法で、その魔法を込めた魔法薬は非常に人気な魔道具だ。
だが、これにもデメリットは存在する。過剰に使用すると、後程揺り返しで体にダメージが入るのだ。具体的に言うと、強烈な筋肉痛が。
度を越すと筋肉痛どころではないダメージが入るのだが、ファーラは脳内の計算で自身に返るのが強めの筋肉痛レベルの話だろうと予測した。
ファーラが使った魔法薬はそれほど強いものではなく、デメリットを理解している父が過剰な魔法を使うとは思わない、というのがその理由に当たる。
事実、ニーロはデメリットを見越して、娘と弟子にかけた身体強化の魔法を緩めにしていた。
しかし、二重掛けした以上ダメージは必至。
未来に来る逃れられない恐怖を抱いていると、探知の魔道具の表示を確認したレナが「えっ」と大きな声を出す。
どうしたのか、と問うより早く、レナが状況を説明し始めた。
「ついさっき、大きい魔力のすぐ隣に大きめな魔力がひとつ増えたのよ。それで、さっきより小さくなった魔力とぶつかったと思ったら、増えた方が追いかけていた方に吸収された。動きからして、多分増えて消えたの、ルネッタのゴーレムだと思うわ」
「ですね。具体的に何かは分かりませんが、キャシーさんが用意した”何か”は魔力吸収の性能があるみたいです。虫脚の魔道具といい、魔力補充に抜け目ない辺り、逆に流石って感じですよ」
褒めているようで、その表情は憎々しげだ。舌打ちが飛び出さなかったことが不思議になるほどに。
「っ、ファーラもっと急ぎましょう! 追いかけていた奴がルネッタ達とぶつかった!」
切羽詰まった声でレナが叫ぶ。ざわりと全身の毛が逆立つような感覚に、ファーラは返事よりも先に駆け出した。レナもすぐさまそれを追う。
もう少しで合流出来る。早く、早く。
急く心臓を無理やり抑え、ファーラとレナは無言で、しかし全力で駆けた。
その時だ。
目的地から、異様な轟音が、異様な轟風に乗って訪れる。
ファーラは咄嗟に足を止めて腕で顔を庇った。風が弱まるとすぐさまそれをどかし目的地に視線を向ける。すると、丁度そのタイミングで何かが空を吹き飛んでいった。
「あれ……ルネッタのゴーレムですか? さっきルネッタが稼働したやつですかね? レナさん、魔力は」
口早に問いかけながら同じく足を止めていたレナを見上げる。
しかし、レナの視線は目的地に向いたまま見開かれ、驚愕に包まれた様子で固まっていた。
その反応に、まさか、とファーラはレナの前に浮かんでいる魔道具に視線を向ける。目的地に残っている魔力反応は2つ。大きい魔力と小さ目の魔力。
そして、大きい魔力は、円形が異様に波打っていた。
「まさか、ルネッタが魔力を……!?」
ファーラも同じように驚愕を浮かべ声を漏らすと、ハッとしたレナは勢いよくファーラを振り向く。
「そうよね!? 今の風に含まれていた魔力、ルネッタっぽいと思ったの。やっぱりルネッタよね!? あの子、あの子ようやく、魔力を――!」
いつも冷静な双眸にうっすらと涙が浮かんだ。その顔は是非ルネッタに見せてやりたいが、今はまだそれどころではない。
「レナさん、とりあえず行きましょう。僕はちょっと隠れるので、知らない顔してブリジットさんたちに合流してください」
パン、と両手を叩き合わせレナの正気を戻すと、ファーラはポシェットから布状の魔道具を取り出した。これは『隠れ身の布』という魔道具で、ハイド・アンド・シークのように姿を消してくれる。
ハイド・アンド・シークとの違いは、魔力の発生も隠すため魔力の知覚では気付かれにくいことだ。探知の魔法や魔道具を使われるとすぐにバレるが、今キャシーがそれを使うとは思えないので、こちらの方が都合がいい。
「隠れるの? 別に一緒に合流しても……」
「①現状ルネッタにキャシーさんが悪意のある人間だと説得する材料が記録しかない。再生しているところを見られたら逃げられる可能性がある。危険思想の人間を放置は出来ない。
②恐らくルネッタがキャシーさんと合流したがる。その際、合流後にキャシーさんが口八丁でルネッタを丸め込んだ場合、ルネッタとの間で面倒なやり取りが発生する可能性がある。
③僕の姿が見えない方がキャシーさんが油断して何かしら口を滑らせる可能性がある。あるいは分かりやすい嘘を平然とついてくる可能性がある。
④以上を踏まえ、嘘探知の魔道具を使用しルネッタにキャシーさんが悪意ある人物だと理解させ遠ざけ、直接的な危害を避ける。以上です。質問があるなら簡潔にお願いします」
これまで以上に口早に説明され、レナは少し圧倒されつつ声を出さずに首を縦に振った。それを確認すると、ファーラは嘘探知の魔道具を取り出しながら隠れ身の布を頭から被る。
その途端にファーラの姿は掻き消えた。
直後、腕を軽く掴まれ走り出される。隠れ身の布は使用者が出す音を全て吸収してしまうので、声をかけても例え走り出しても気付けないのだ。
レナがすぐに応じて走り出すと、ファーラはすぐに手を離した。
そして間もなく、レナと姿を消したファーラはブリジットたちに合流する。
ブリジットはかなりのダメージを負っていたので、体力回復の魔法薬をレナにこっそりと持たせた。
その直後にルネッタが襲われた「魔物」について話した時、ファーラはそれの正体に気付く。
(前に魔道具の魔女様が、ルネッタにイタズラ用のゴーレムを作ったと楽しそうに話してましたね。使った報告がないままレナさんに「ルネッタからの依頼があったら一回私に確認してください」って言われて残念だった、と言ってましたが――そういえば返却があったとは言ってませんでしたね)
見た目は普通のゴーレムだからそのまま使っているのか、と思っていたが、もしかしてキャシーがこの時のために残しておいたのかもしれない。
予想している間にブリジットもゴーレムについて言及した。
流石ブリジットさん、と満足そうにうんうん頷いてから、ファーラはレナの腕を軽く叩いて薬を飲むことを促す。
魔法薬は「薬」という名称は付いているものの、実態は「魔法」だ。薬の効果を妨げるエテの花の花粉を吸いこんでしまったブリジットにも、これはちゃんと効果を見せる。
そしてブリジットが回復したのを確認してから、ファーラの予想通り一同はキャシーの反応を追って移動を始めた。
林に入ると、少しもせずに壊れたゴーレムが見つかる。間違いなく、ルネッタのゴーレムだ。
ファーラが自身の予測が正しいことに確信を持ち始めた時、キャシーが合流した。
ファーラはすぐさま噓探知の魔道具――透明のクリスタルにその姿を映す。
会話が始まれば、クリスタルはどんどんと赤くなっていった。
(よくもまあ、こんなに息を吐くように嘘をつけるものです)
魔道具で隠されるので、ファーラは足音を潜めることなく堂々とキャシーのそばに近付き、その斜め前でしゃがみ込む。
下げた顔には、あざ笑う表情が浮かんでいた。
呆れると同時に、双眸は静かに据わっていく。
(――よくこんな浅慮で――)
自然とクリスタルを握る手の力が強くなった。身体強化を使っているとはいえ、11歳の少女の握力で壊れるほどやわではないため、クリスタルはそのまま赤を重ねていく。
そして、その時は来た。
「――だそうだけど、どう? ファーラ」
問われ、ファーラは布の下で笑う。
目が据わった、決して楽しそうではない笑みを。
(本当はちょっと早いんですが、まあ、ここまで来たらしょうがないですよね。――なんかもう、これ以上笑っていさせたくないですし)
キャシーの驚愕の顔を眺め、ファーラは息を吸い込み、堂々と、口を開いた。
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