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第17話 「ファーラちゃんの解決編」④



 小屋に入ると、ファーラはすぐさま記録用の魔道具を部屋の隅に立たせたレナに持たせ、自身は再現用の魔道具を倍速で起動させる。


 光の粒子が部屋を舞った後、集まって人の形を取った。当然に、その姿はキャシーのそれ。レナが事実を目の当たりにして改めて動揺するが、記録用の魔道具はちゃんとぶらさずに状況を記録している。


『ふふふーん、取り出したるは~特製魔石~』


 少し時間がずれてしまったようで、再現されたのは小屋に入った直後ではなく魔力炉のすぐ脇に立つキャシーだった。倍速にしているため再現される声はやけに早いが、まだ聞き取れる程度だ。


 幻影のキャシーは異様にご機嫌に、ポケットから取り出した大きな魔石を魔力炉に近付ける。


 途端に、魔力炉の魔力が魔石に移動し始めた。魔力の動きが分からないファーラにも分かったのは、魔力炉の光が消えるに従い、キャシーが用意した魔石が輝き始めたから。


「確か、魔道具作成お上手でしたね、キャシーさんは。――本当に、悪辣な性格が優秀さの足を引っ張ってる人ですよ」


 冷めた声と冷めた目。隣に立つレナは記録用の魔道具をずらさないように気を付けながら横目でファーラを見て、力なく「そうね」と返す。


 少しして魔力が完全に移ると、キャシーは魔石を回収し、続けて別の魔道具を取り出した。虫のように細長い脚が何本かついている台座には、何面かにカットされたガラスがついている。


 魔力炉の裏側に回ると、キャシーはしゃがみ込んでそれを魔力炉に取り付けた。


『よし、もし魔力が追加されたらこれで「おかわり」出来るわね、っと。さーて、待っててね私の”魔女”。今正しい場所に戻してあげるからね~』


 ご機嫌なまま、キャシーは小屋から出て行った。その直前に幻影は光の粒子に戻ったので、ファーラはリメンバー・イベントを止める。


「――今の発言的に、魔力炉についているあの魔道具は魔力の移動用とかですかね。僕も見たことないから、多分キャシーさんのオリジナルですかね。本当に無駄な才能です」


 言いながら、ファーラはポシェットから大きな木槌を引き出した。魔道具ではない、ただの木槌だ。


「ファーラ、私が」


「いえ、あれがどういう仕組みで魔力を回収するか分かりませんから、レナさんは触らないでください。それに今――筋力も上がってますから!」


 魔力炉の裏まで来たファーラは木槌を軽々振り上げ、勢いよく振り下ろす。がっしり食い込んでいた脚が数本音を立てて外れ、本体が床に落ちて何度か跳ねた。


 少し離れた床で止まったそれを少しの間警戒して見ていたが、何も起こらないため、ファーラは木槌をポシェットにしまい直す。


「こいつは持ってて危なくないか分からないので置いて行きます。レナさん、記録を止めてください。まずは邸宅に戻ります」


「え、ええ」


 隣を通り過ぎながら硬質な声で指示を出され、レナはすぐさま記録の魔道具を停止させその後に続いた。


 本来であれば年上であり弟子としてのランクも上なレナが指示を出すべきなのだが、レナは今自分が冷静ではない自覚がある。


 そして何より、ファーラ自身が今まさに見せている”特異性”から生まれる信頼から、素直にその指示に従った。


「こちらお願いします」


 差し出されたのは小さなスクロール。その魔道具の存在を知っているレナはすぐさまそれを上下に開く。途端にそれは開いた状態で固定されて、片手で持てる状態になった。開いた中には、1行だけカンマで区切られた数字が書かれている。


「跳ぶわ。掴まって」


 短く告げると、心得ているファーラはレナの腰に掴まった。それを確認してからレナが数字の部分を指先で叩くと、その身は一瞬で掻き消える。


 次に彼女たちが姿を現したのは、先程邸宅前に差したマーカーピンの前。これらは移動用の魔道具であり、ピンを差した場所の座標、あるいはピンを登録した際に決めた名称がスクロール上に記載され、その場所に移動出来るのだ。


「じゃあルネッタたちを探しましょう。こちらを。魔力量で探せば一番大きい反応がルネッタのはずです。あと、これ盾もお渡ししておきますので持っておいてください。腰のそれ無限空間袋ですよね? ()()()()()()の余裕ありますか? なければ腕につけておいてください。……キャシーさんに見咎められると警戒されて面倒ですが」


 次々に出される魔道具。両方を受け取り、レナは冷や汗をかき笑顔を引きつらせる。


「……相変わらずとんでもないことしてるわね。魔力がないのにこんなに無限空間袋を使いこなせる人間は、きっとあなただけよ、知識の弟子(アリクアンド)


 畏怖に近い感心を向けられ、ファーラはにこりと笑った。


 無限空間袋は空間魔法を編み込んだ魔道具で、何でもしまえるし何でも取り出せる。その容量は文字通り「無限」だ。


 だが、この魔道具にはとても大きな欠点があった。


 それは、使用者がしまった物の存在を忘れると、その時点でそれが無限空間の中に消失してしまうことだ。後から思い出しても遅い。消えてしまった物は、魔女の魔法でも取り出せない。


 魔力を持っている場合、使用時に目録(インデックス)が登録されるため、入れた物を忘れてもそれが物を保護してくれる。


 しかしそれも、本人の魔力に応じる程度だ。例えば10個分の目録しか作れない者が11個目を袋に入れた場合、11個目は記載されないため、本人が入れたことを忘れた場合それはその時点で消えてしまう。


 このように、無限空間袋は大変便利な魔道具であると同時に、消失と隣り合わせの大変危険な代物でもある。このため、魔力がある者ですら使用には慎重になり、魔力がない者は短時間の使用を除けばそもそもあまり使いたがらない。


 にもかかわらず、ファーラは大量の物を入れ、その全てを把握している。


 これがどれだけ異常なことか。魔女たちをはじめ、無限空間袋のデメリットを知る者たちは、皆が理解していた。


 ファーラは「覚える」ということ、そして「知識を生かす」ということに関して、紛れもなく天才だ。


 それを魔女たちが認めたからこそ、「知識の弟子」という通称を得、魔力がないにも関わらず一級まで昇りつめたのだ。


「お褒めに預かり光栄ですよ。さ、行きましょう」


 褒められ慣れているせいか状況を鑑みてか、ファーラはさらりと話を流し、足早に歩き出す。


 レナはまだ余裕のある自身の無限空間袋に預かった盾をしまい、探知の魔道具を稼働した。


 魔力量で探知をかければ、大きな魔力と小さめな魔力が、同じく大きめな魔力に追われる形で逃げている。そこから少し離れて、中くらいの魔力がゆっくりと後を追いかけていた。


 切羽詰まった状況になりつつある。察したレナが駆け出し、ファーラもそれに続いた。


(――っと、その前に)


 ポシェットを漁って取り出した物に向け、ファーラは声を投げかける。そしてすぐに、ポケットにしまい入れた。


 全力で駆ける先は、未熟な魔女と大事な大事な父の弟子の元。


お読みいただきありがとうございました!


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