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第17話 「ファーラちゃんの解決編」③



 あちらもファーラを認識した。ファーラもレナの方に駆けていくと、二人は早々に合流を果たす。


「レナさん、ブリジットさんは」

「ファーラ、ブリジットは」


 互いに互いを視界に入れた瞬間から気になっていたことを尋ねて、声が重なった。


 一瞬の沈黙。ファーラは両手で頭を抱えて天を仰ぐ。


「もぉ~~~、ブリジットさんこういう時すぐ飛び出すぅぅ!」


「大人しい子だと思ってたけど、あの子結構無鉄砲なの?」


 少々戸惑った様子でレナが問いかけた。普段はもう少しオブラートに言葉を包める人物なのだが、今は状況が状況なので慌てているのだろう。ファーラは特に指摘することなく顔の位置を戻す。


「基本は大人しくて聞き分けの良い方です。ただ、多分ブリジットさんの中で基準があって、その基準から外れた状況や行動が許せないんだと思います。今回は多分、ルネッタが危ない状況にいるのが見過ごせなかったんだと思います。幼馴染の皆さんも『正義感が強いけど向こう見ずなところがある』と仰ってました」


 そんな幼馴染たちの評価には、ファーラも納得している。


 以前、ブリジットの脱出に幼馴染たちの尽力があったと分かったことがあった。そして、そんな彼らがユリウスはじめとした執行人たちに魔女の逃亡幇助罪で捕まっている、と。


 変身の魔女イシュルカの知らせでその事実を知ったブリジットは、ニーロはじめ数人の魔女たちや弟子たちの協力を得て彼らを助け出した。


 その時、幼馴染のひとりであるシンディが別の執行人に斬られかけていたのだが、ブリジットはその場面になんと徒手のまま飛び出そうとしたのだ。


 慌ててファーラが飛び出す直前のブリジットに解呪の魔鎚を渡して事なきを得たが、あの時は肝が冷えた。


 その当時を思い起こすと、魔鎚をブリジットに渡したのは正しい判断だったことだろう。飛び出すことが確定しているのであれば、武器はないよりある方がいい。


「ブリジットはルネッタがどこにいるか分かってるの? 何か魔道具でも持ってるの?」


 訝しんで問うレナに、頭から手をどかしたファーラは冷静を取り戻した視線を向けた。


「慌てる気持ちも分かりますが、落ち着いて周りを見てくださいレナさん。いつものあなたならもう気付いてるですよ」


 明確な答えではないが、レナは素直に周囲を見回す。視界にある異常は、距離を空けて跪きながら停止するゴーレムたちのみ。


 だが、それこそが答えだ。


「全部のゴーレムが同じ方向を向いてる――そうか、魔力切れを起こしたから魔力源に向かおうとしてたのね」


 はっとした様子を見せるレナに頷いてから、ファーラはもうひとつ気になっていたことを尋ねた。


「魔力炉の様子はどうでしたか?」


 レナが帰ってきたのは魔力炉がある小屋の方向。間違いなくそれを確認してきたはずだ、と確信し問いかける。それに、レナはハッとしたように自分が急いでいたことを思い出した。


「魔力炉の魔力が空っぽになっていたのよ。裏の方に見慣れない魔道具もついてて、ルネッタが何かしたのかと……探そうと思ったけど、うちに人探しの魔道具はないから、あなたが持ってないかと思って急いで戻ってきたの」


「持ってますが、まずは魔力炉に向かいます。その見慣れない魔道具が放置していいものなのか気になりますし、何よりキャシーさんの行動の証拠を取っておかないと、ブリジットさんとルネッタと合流した時ごたつきそうなので」


 言下、ファーラは「え」と声を取りこぼすレナに気付かずポシェットを漁る。取り出したのは、上部に丸い宝石がはめ込まれた大きめのマーカーピン。


「戻り時間を短縮するために、ここに移動用マーカーを設置しましょう。レナさん、魔力注いでもらえますか? 本当は小屋にも飛びたいところですが、魔力炉が空っぽだと道しるべがつけられませんから、そちらは走っていきましょう。身体強化用の薬もあるのでそれを」


「ちょっ、ちょっと待ってファーラ!」


 どんどん話を進めるファーラの両肩を、レナが勢い良く掴んだ。


 勢い分の痛みはあったが、傷付ける意図は感じなかったので、ファーラは特に手を払うことなくレナを見上げる。


 目が合ったのは、動揺が隠せない揺れる双眸。


「キャ、キャシー、なの……? シーラさんの襲撃とか、ルネッタのイタズラ、じゃなくて……? あ、あなたが、おなかを壊したの、も……?」


 シーラが犯人であったのなら、これはブリジットを狙った犯行にこの空間が巻き込まれただけ。ルネッタが犯人なのであれば、これらの一連の流れはレナにとっていつもより度を越した「イタズラ」程度でしかなかったのだろう。


 だが、犯人がキャシーであったのならば話は変わってくる。


 信じたくない、嘘だと言ってほしい。双眸からそんな願いが見て取れた。だが、ファーラは残酷なまでに正直に頷く。


「キャシーさんです。ここに来る前にキッチンで茶葉を下剤に変えている姿をリメンバー・イベントで再現しましたし、応接室で部屋を出る直前に笑っていたのも確認しました。……小屋で何をしていたかも再現して記録します。見たくないのであればここにいてください。すみませんが、今は問答の時間が惜しいです」


 真剣に見上げていると、レナは顔を歪めてぐしゃりと手で髪を乱した。しかし、迷ったのは僅かな間だけ。


「……行くわ。キャシーが犯人なら、狙いはルネッタだわ。……あの子――私には言わなかったけど、ルネッタが魔女なの、気に食わなかったみたいだから。……だから甘やかしてたのよ。駄目な魔女のままなら、他の魔女様たちが強制的に取り上げるでしょって。あの子と仲がいい子たちと話してるの、聞いたことあるの」


 苦しげに吐露するレナ。そんな彼女を見て、先程の自分の認識が少し間違っていたことに気付く。


(キャシーさんを信じてたから信じがたい、というより、本当に奪いにかかってきたことが信じられない、という感じですかね。――レナさんの性格じゃ、随分苦しんだことでしょうね)


 レナは冷静な行動に見た目のクールさも相まって、非常に淡白な人間に誤解されがちだ。だが、本来の彼女は非常に愛情深い。厳しいことも事実だが、その厳しさもベースにあるのは相手への心配である。


 そんな彼女が、同期が妹弟子に抱いている悪意を知って心穏やかにいられたとはとても思えない。


 かといって、表面上仲良くやっている姉妹弟子たちの関係を波立たせることは出来ず、今に至ってしまったのではないか、とファーラは予測する。


(もしかして、レナさんがルネッタに厳しかったのは、キャシーさんの考えを改めさせるためもあったのかもしれませんね)


 気になる所だが、今は言及する時ではない。


「では、行動しましょう。とりあえずこちらに魔力を。そしたらこの薬を飲んでください」


 指示を出しながら、ファーラは取り出した魔法薬を仰いだ。レナは深い呼吸をするとすぐさまマーカーピンに魔力を注ぐ。そして、ファーラが差し出していた魔法薬を同じように仰いだ。


 二人はすぐさま駆け出し、小屋へと向かう。強化された足は、疲労を感じるより先に目的地にファーラ達を連れてきた。



お読みいただきありがとうございました!


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