第16話 「目覚めの一歩」⑥
「ファーラちゃん!」
「あんたどっから!?」
突如現れたファーラにブリジットは嬉しそうに、ルネッタは驚いて声を上げる。
「レナさんと一緒にずっといましたよ。……ちょーっと確認することがあったので姿消してましたけどね」
そう言ってファーラが片手を軽く上げ、もう片手を同じくらいに上げてフルフルと振った。
振られた方の片手にあるのは、赤黒く染まった細長いクリスタル。形状は綺麗なのだが、色味があまりに毒々しい。
あれは一体何だろう、と疑問に思う。一方で、ブリジットはファーラの逆の手にある魔道具を見て、先程のレナの言葉の違和感に納得を示した。
軽く上げられた方の片手には、不思議な模様の大きな布。彼女が姿を表した瞬間可視性を取り戻したので、姿を消す魔道具だとブリジットはすぐに察する。
『こっちに来る前までは視界に入ってたわね。ちょっと調べてもらうことがあるから、今は姿を消してるの。その内戻るわ』
(今思えば、そのものずばりな話しかしてないや。……いや、今はそれより)
ブリジットは今度こそルネッタの肩を抱いて、幼き魔女をキャシーから大きく遠ざける。
現れる直前のファーラの発言。そもそも姿を消していた理由。
それらを鑑み、ブリジットはファーラとレナが確実今回の騒動へのキャシーの関与を疑っており、それを確信していると判断した。
抵抗するかと思ったルネッタは、存外素直に引き下がってブリジットの後ろによろめきながら入る。
ブリジットと違い、彼女は知っているのだ。ファーラが持っているクリスタルが”どのような”魔道具か。
そしてそれは、キャシーも同様だった。ファーラの手にある物を見て、動揺が隠しきれず表情を引きつらせている。
「おや、流石にこれが何の魔道具かお気付きですね。まあ、あなたが一番警戒しなくちゃいけない奴ですしね?」
ファーラにしては雑に、手を回して布を遠心力で丸めると、ポシェットにぼすりとしまい入れた。残されたのは、もう片手のクリスタル。
「ブリジットさん、これは嘘探知の魔道具です。対象をクリスタルに映すと、それ以降の発言に嘘があるかないかを判断します。本人が事実だと思っていることは嘘と認定しませんが、嘘と思っている場合はこのように赤く赤く染まっていきます」
この場で唯一魔道具の正体を知らないブリジットに、ファーラはキャシーから目をそらさないまま説明する。
それにブリジットが言葉を無くすと、ほぼ同時にルネッタがブリジットの服を強く握りしめた。嘘、やだ、何で。そんな小さな小さな声が聞こえてくる。
首だけで振り向けば、キャシーから目をそらさない――いや、そらせないルネッタが、目を見開き青い顔で頬を震わせていた。
その痛ましい様子に、ブリジットは歯を食いしばり、キッとキャシーを睨みつける。
あらゆる視線に晒されながら、キャシーはまた首を振った。
「ち、違う、違うわよ。何か誤解してるわ。だ、だってそれ、ちょっとした齟齬だって拾っちゃう魔道具じゃない。――わ、分かった、正直に言うわ! あのゴーレム、ちょっと面白いかなって思って残しちゃったの。だから」
キャシーは強張りそうになる表情を何とか抑えているが、浮かべた笑みのひきつりは隠しきれていない。
「やだなぁキャシーさん。僕がこれを使ったのはあくまで駄目押し用。それ以外何の確証もなく、こんなこと始めてると思ってるですか?」
キャシーと真逆に、ファーラはにっこりと余裕の笑みを浮かべた。
「ちゃーんと全部確認してきましたよ。それを、一から、ここで、ぜーんぶ話してあげるって言ってるんですよ。ああ、反論はしてくれていいですよ? 残さず潰してあげますから」
人差し指をちょいちょいと動かす挑発的な動作に、キャシーはついに隠しきれずに頬を引きつらせる。
「……何であいつあんな楽しそうなのよ」
震えた涙の滲んだ声で、しかし先程よりも少しばかり正気の戻った声で、ルネッタがブリジットの背後で呟いた。ちらりとそちらに視線を向けてから、ブリジットは再度相対する2人を視界に映す。
「――楽しんでるわけじゃないと思います。むしろ……怒ってるような……」
ブリジットの予測にルネッタが「え?」と声を漏らす前で、ファーラはポシェットから10センチほどの高さの円柱を取り出した。
手のひらに乗せると、円柱の中央から立体的な菱形のキラキラとした石が浮かび上がる。
「そ、れ――っ!」
「おや、ご存じですか? ――ええ、ご予想の通りでしょうね。これは投影用の魔道具。背面にセットした記録用の魔道具の映像を空間に投影するものです。では、お見せしましょうか」
言下、ファーラが魔道具を操作しようとした。
キャシーが咄嗟にそれを止めようと手を伸ばすが、それはファーラとの間に身を滑り込ませたレナによって阻まれる。――いや、正確には、彼女が発動した光の盾によって。
レナが手にしているのは反射の光盾と呼ばれる魔道具で、中央の持ち手部分だけは実体があり、発動すると同心円状に光の盾が展開される代物だ。
物理も魔法も跳ね返すというそれに勢いのままぶつかれば、キャシーは間違いなく吹っ飛んでいただろう。
急遽止まった反動を受けつつ、何とか足を地面に縫い付けたキャシー。苦々しい顔をする彼女を、光の盾越しにレナの冷たく――しかし怒りに燃えた双眸が睨みつけていた。
薬草の魔女の姉弟子たちが相対する中、ファーラの手の中で魔道具が発動した。
光が空間に投影される下で、ファーラは挑むような笑顔を向ける。
「さて。魔女の魔法、魔女の道具を甘く見たツケを払う時間です。ファーラちゃんの解決編、始めましょうか、キャシーさん?」
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