↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/176

第16話 「目覚めの一歩」④


 完全に破損した変身ゴーレムの中に手を差し込みながら、キャシーは酷く不満げに眉を寄せていた。


(ありえないありえないありえない。何よ、何でルネッタが魔道具使うの成功してるのよ。ずっと使えなかったくせに。こんな時に急に成功するなんて、何でそんな物語の主人公みたいなこと、私を差し置いてしてるのよ)


 世界の中心は自分であって然るべきなのに。本気でそう考えながら、キャシーはようやく目的の物を手にしてゴーレムの中から手を引き抜く。


「やっと出せた……とりあえずこの魔石だけ回収しておけば証拠はないわよね。代わりにこれ、っと」


 こっそり二重ポケットにしているスカートのポケットに、複雑に割れている魔石をしまい、代わりに普通のゴーレムに使っている魔石と小さなハンマーを取り出した。無限収納の魔道具を縫い付けているので、何でもすぐに取り出せる。今日のために作っておいた代物だ。


 ハンマーで魔石を割ると、キャシーはそれをゴーレムの中にしまい入れた。これにはルネッタの魔力の痕跡があるので、キャシーの関与は疑われないはずだ。


「さて、そろそろみんなが探しに来るだろうから、元の場所くらいまで移動を――!?」


 振り向いて移動しようとしたキャシーは、しかし真っ直ぐにこちらに向かってきている一同を見つけて絶句する。幸い傾斜があるので向こうからはまだキャシーは見つかっていないようだ。


「あれ、人探しの魔道具……! やだ、あんなものうちになかったじゃない、どこから持ってきたのよレナったら」


 あの魔道具で探されているということは、大きく動いたら怪しまれる。であれば、この付近で隠れるしかない。


 キャシーはすぐさまゴーレムから少し離れた、木々が密集した位置まで移動して身を隠した。


 それからややあって、一同がゴーレムが視界に入るくらいの位置までやってくる。


「こいつさっきの……! だ、大丈夫? 死んでる?」


「死んでるっていう表現が正しいのかは分からないけど、魔力の残滓はもう、少しもないわね。魔力を追加で注がない限りは動かないと思うわ。触るんじゃないわよルネッタ。ブリジットも」


 遠巻きに見ながらも冷静に判断するレナ。魔道具の矢印がそこから左側を指したので、レナの視線が、続けてルネッタとブリジットの視線がそちらに向く。


「キャシー! キャシーいる!? あたし達よ!」


 ルネッタが必死に声をかけた。


 木々の陰で憎々しげな顔をしていたキャシーは、一瞬で表情を作り替え、怯えたような声を出しながらそぅっと陰から顔を出した。


「み、みんなぁ~……? 本当にみんな……?」


 あたかも怯えて隠れていましたよ、というような様子のキャシーに、ルネッタとブリジットは心底ほっとしたような様子で彼女に駆け寄る。


 その彼女たちの背後で、レナはちらりと脇に視線を向け、同じ方向に歩き出した。


「キャシー! 良かった、無事だったのね!」


「ご無事でよかったです。でも……どうしてこんな所に……?」


 同じように近付いてきていたキャシーの正面まで来たルネッタは、大喜びで彼女を見上げる。


 その斜め後ろで足を止めたブリジットは、安堵した表情をした後、純粋に疑問を口にした。隠れていて、とは言ったので、こんなに近くにいるとは思わなかったのだ。


 問われたキャシーは、この短時間で用意した回答を口にする。


「遠回りでも何とかレナたちと合流出来ないかと思って、魔物がいなくなってすぐに走ってきたの。それでここまで来たらすっごい音がして、え、何!? ってなってたら魔物が飛んできたんだもの。びっくりしちゃった……」


 死ぬかと思った、と長いため息を吐くキャシー。


「そうなんですね……。お怪我がなくて本当に良かったです」


 言葉通り嬉しそうに微笑むブリジットに、キャシーは「ありがとう」と優しい笑顔を返す。――その内心に彼女への罵詈雑言を隠しながら。


「それ! それあたしがやったのよ! あたし魔力使えたの! あたしがぶっ飛ばしてやったのよこいつ」


 まだ持ったままの解呪の魔鎚を掲げて満面の笑みを咲かせるルネッタ。褒めて、褒めて、と輝く双眸にありありと浮かんでいた。後ろのブリジットもそれを期待するような表情をしている。


 頬が引きつりそうになるのを必死に耐え、キャシーはぷくりと頬を膨らませた。


「魔力使えたのはおめでとう。でも、私死にかけたんだってば。そんなに喜びながら言うのひどーい」


 キャシーの指先で何度も頬をつつかれ、ルネッタは拍子抜けしてしまう。褒めてくれると思ったのに、と残念に思うが、自分の行動のせいでキャシーが危なかったのは事実、と納得し、魔鎚をぎゅっと抱きしめた。


「ご、ごめんキャシー。あんたがここにいるの知らなかったのよ」


 申し訳なさそうに眉を八の字にするルネッタに、内心で満足感を覚えるキャシー。それでも表情は『優しい姉弟子』を保っている。


「いいよー。必死だったんだもんねー? ――ところで、それって解呪の魔鎚だよね? うちに変身の魔女イシュルカさんって来ないから初めて見たかもー。ちょっと貸して?」


 声音は変わらない。表情も変わらない。だがキャシーの思考だけは、冷たく次の一手を考えていた。


(ルネッタは考えなしだし、レナは頭よさそうに見せてぼんやりしてる。ブリジットは知識が全然足りてないし、この面子なら多分バレないと思うけど――万が一にもバレた時、向こうに攻撃手段を残しておきたくはないのよね)


 手を差し出され、ルネッタはちらりとブリジットを見上げる。これは元々ブリジット――更に元を正せばファーラの魔道具だ。勝手に渡すのは流石のルネッタでも躊躇した。


 そんな彼女に、ブリジットは「大丈夫ですよ」と頷いて見せる。


 それに頷き返し、ルネッタが笑顔で魔鎚をキャシーに差し出した。本当に考えなしね、と内心でほくそ笑みながら、キャシーはそれに手を伸ばす。


 その手が半ばまで伸びた時、それまで黙っていたレナが口を開いた。


「ねえキャシー、あれ、魔物じゃないわよね?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。