第14話「認められざる魔女」⑩
少しの間駆けて玄関に辿り着くと、慎重に戸を開ける。すぐには見つけられなかった異常は、しかし外に出た瞬間ブリジットたちの視界に入った。
「ゴーレムが停止している……?」
「レナさん、あっちのゴーレムも止まってます! その向こうのも」
彼女たちの視界に入ったのは、その場で片膝をつく形で座り込んで丸まっているゴーレムたち。ブリジットが示した方向では、少し離れた位置、もっと離れた位置で同じような姿勢でゴーレムが停止している。
「これは一体……」
きょろきょろしながらブリジットが呟くと、顎に手を当てたレナが考え込むように答えを返した。
「このゴーレムたちはルネッタの魔力で動いている。けど、数が多いから一体ずつ入れるのは非効率だ、ってことで、少し離れた小屋に魔力供給用の魔道具があるの。もし全部のゴーレムが停止しているなら、そこで何かがあったのかもしれないわ」
少し考えてから、レナはブリジットを振り向く。
「私はその小屋に行ってくるから、ブリジットはここにいなさい。ニーロ様が残した魔法とファーラが持っている魔道具があれば、もしこれがシーラさんの襲撃でもギリギリ耐えられるでしょう。連絡用の魔道具もファーラが持ってるでしょうからそれで」
「待ってください、危ないのは皆さん同じじゃないですか! レナさん一人で行動するのは……!」
駆け出そうとするレナをブリジットは咄嗟に前に出て止めた。レナは少し迷ってから、言いづらそうにブリジットを見つめる。
「大丈夫。……正直、相手がシーラさんだった場合、今この空間で一番危ないのは多分あなたよ、ブリジット」
ほぼ断言に近いその発言に、ブリジットは「え?」と言葉を取りこぼした。
「一番大丈夫なのは、多分ファーラとルネッタ。あの子たちは、シーラさんの唯一の弟子の子と仲が良かったから、シーラさんもあの子たちのことは可愛がっていた。キャシーは……同じ相手が嫌いで、話が合っていたから、多分大丈夫。それと、私は次期魔女同士だった頃親しくしていた方だから」
分かったでしょう? と目で問われる。一瞬反論しそうになったブリジットは、次の言葉が見つけられず結局複雑な表情で黙ってしまった。
それを見て、レナは「行ってくるわ」と駆け出す。
その背を悔しげに見送ってから、邸宅に入ろうとしたブリジット。
しかしその足は急に止まった。背筋がざわりと泡立つ感覚に。
「魔力……! また動いた――でも何、この、魔力に交じった気持ち悪い感覚……感情……?」
異様な感覚がした方向を見やりながら、ブリジットはぞわぞわとする感覚に総身を泡立てる。
そして不意に思い出す、ロザリアが以前してくれた話。
それはニーロが魔女を継いだ直後、魔女の空間を組み直した時のこと。空間の変異に内包された強い感情を、「守らなければ」という苛烈なほど優しく悲壮な決意を、魔力を持つ者は皆が感じ取ったという。
あの後改めて教えてもらっていた。魔力には感情が乗ることがある、と。その感情が強ければ強いほど、なお強く。
ブリジットは感じ取った。
経験がある、この感情。
この魔力乗っている感情は――悪意だ。
気付いた瞬間、ブリジットは解呪の魔鎚を握りしめ、顔の前にその手を持ってくる。
(怖い。凄く。でも――)
目を瞑り、魔鎚を握りしめた拳に額をぶつけた。
ブリジットは気付いてしまっていた。
この魔力を感じた方角は、目に映るゴーレムたちが向いている方角。皆が同じ方向を向いているのは、魔力切れを感知したゴーレムたちが、それを対策するために魔力源を探して動こうとしたからではないだろうか。
そうなのであれば、きっと彼らが向く方向に、ルネッタがいる。
(レナさんは大丈夫だって言った。でも、本当に? 今のシーラ様は、きっとレナさんが知っていた頃のシーラ様じゃない)
ならば、ルネッタたちを害することもないとは言い切れない。そしてルネッタたちがシーラに襲われているのだとすれば、それはブリジットがここにいるからだ。
(私のせいで、ルネッタ様が、誰かが傷付けられてしまうなんて、耐えられない。それが分かっているのに震えて怯えているだけなんて、自分が許せない)
拳を顔から離すと、ブリジットは決意に燃えた双眸で駆け出した。
目指す先は、ゴーレムたちが傅くその先。彼らの主たる、幼き魔女のいるはずの場所。
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