第14話「認められざる魔女」⑨
語り切って一息つき、再度カップに口を付けるレナ。そんな彼女に、ブリジットはもうひとつ抱いた疑問を投げかけた。
「あの、私お師匠様たちから弟子の階級について聞いた時、特級は魔女候補だって聞いてて。だから魔女になるには特級にならないと駄目だと思っていたんですが、そういう訳ではないんですか?」
「……まあ、そうね。本来は必須条件だけど、そうじゃないと魔女の契約が継承されない、というわけではないから。あくまで魔女たちが後付けで決めた条件なのよ。あなたが知ってそうな所だと……そうね、豊穣の魔女とかは魔女になった時はまだ二級だったわ」
ジェシカ様が? とブリジットは驚きの声を上げてしまう。
世代ごとにいる「三大魔女」と呼ばれる魔女には入らないが、魔女たちの食糧事情を支える立派な魔女。にもかかわらず、本人は底抜けに明るく、本来は相容れないはずのユリウスとすら仲良くなってしまう人物。
そんな彼女が、実は魔女になった時特級の条件を満たしていなかった。その衝撃にブリジットが目を見開いている中、レナは説明を続ける。
「あの子のお師匠様が体調を崩したころ、あの子の姉弟子だった一番弟子の人が亡くなったのは知っている?」
「あ、はい。それで、一番魔力の高いジェシカ様が継いだって。……あ、そっか。本来は継ぐ予定じゃなかったから……」
ブリジットが気付いた様子を見せると、レナはこくりと頷いた。
「基本的に特級が継ぐことになっているけど、事情によっては特級より下の階級の弟子が継ぐこともある。そういうのを嫌がる魔女様もいるけど、直弟子が継ぐのが伝統だし魔女の総意思だからね。強くは出られないのよ。……まあ、たまに辻継承する方もいるんだけど」
魔女の中には、弟子を持たない者がどの世代も一定数いる。
そしてそろそろ魔女を譲るか、という時期になると、特級、あるいは単純に自分が気に入った相手に継承させる者が、これまたどの世代にも存在した。
そんな彼女たちの行動を、魔女たちは呆れを込めて、弟子たちは期待を込めて「辻継承」と呼んでいる。
「……それはまた、凄いことを……」
変身の魔女辺りも、弟子がいなかったらやっていそうだな、とブリジットは引きつった笑みを浮かべた。
「まあとにかく、特級になる前に魔女を継いだ場合、特級になるまでは弟子を取ることが禁じられるの。ジェシカも去年の……暮れくらいだったかしら。それくらいに特級に上がったから、今は弟子を取れるようになっているわ。……そして、2人しか魔女様に認められていない上に、魔女としての知識の足りていないルネッタはその権利が未だにない、というわけね」
また疲れたようにレナが息を吐きだす。ブリジットが「2人?」とついオウム返しにしてしまうと、軽く笑って肩を竦めた。
「聞いたら納得すると思うけど、蔦の魔女様と魔道具の魔女さんよ。ロザリア様は『きっと立派な魔女になれるわ』という期待、マヤさんは『私も別に魔法得意じゃないし』という同族意識、という感じだったわ」
すでに見知った魔女たちの名前を挙げられ、ブリジットはレナの予想通り納得してしまう。なるほどあの2人なら言いそうな発言だ。
「でも正直、あの子が変わることってないと思うのよね。ここまで頑張ってあの子のこと育てようとしてきたけど、反発してばっかりで全然こっちの言うことなんて聞きやしない。……疲れちゃったわ……」
ソファの背もたれに寄りかかり、レナは言葉通り疲れた目で天井を見つめた。そんな彼女を見つめ、ブリジットはとあることが気になってしまう。
(……もしかしてレナさんって……)
一瞬言葉にするのを躊躇ったが、このまま放置していい話ではないだろう。そう考え、ブリジットは気になったことを音にしようと唇を開いた。
だが、疑問が形になるより先に、二人は同時に目を見開きばっと立ち上がる。
「レナさん、今」
「ええ、異常な量の魔力が動いた……!」
言下駆け出すレナ。ブリジットも解呪の魔鎚を手に、すぐにそれに続いた。




