第14話「認められざる魔女」⑦
「まず……そうね、共通認識のためにうちの師匠について教えておくわね。私たちの師匠は、研究の魔女・ミレーヌ様。魔力は多かったしもちろん魔法はちゃんと使えたけど、魔女の身ながら科学分野への興味が非常に強い方だったわ」
レナは懐かしい目をして、お茶を一口含む。気になる心を、茶を冷ます息に変え、ブリジットは静かに続きを待った。
こくりと喉が鳴ると、レナはすぐに続きを話し始めた。
「この空間がこんなに植物が多いのも、半分――よりは少し少ないかしら。それくらいは師匠が植えていたからよ」
ここに来るまでの間に見てきた大量の植物たち。半分以下でも相当な量ではないか、とブリジットは思い出しながら途方もない気持ちになる。
「そんな師匠の所にルネッタが来たのは、あの子が1歳の頃だそうよ。あの子のお爺さんと一緒に、ニーロ様経由でうちの師匠の元に通されたんですって」
「1歳!? ……それに、お爺様と、ですか?」
あまりに年若い時分の出来後の上に、両親ではなく祖父に連れられて、という過去に、ブリジットはつい驚いた声を出してしまった。
もしや両親は魔女狩りに遭って亡くなったのでは、と深刻な顔をしていると、レナは何かを察したらしい。「ちなみに」とすぐに捕捉を口にする。
「お爺さんの話だと、両親は死んでないそうよ。というか、ルネッタのことを殺そうとしたから連れ出してきたんですって」
想像と違う、しかしそれ以上の事態にブリジットは言葉を無くした。思わず消えた表情の奥で思い出すのは、あの日ブリジットに背を向けた父母の姿。
空気が引きつるが、予想はしていたレナは特に気にしない。
レナ自身は、両親が一緒に逃げてくれ、今も別の空間で元気に暮らしている。そのため、家族に見捨てられた者たちの気持ちはきっと一生分かってやれない。
それでも、10年魔女の空間にいる身。傷を負った者たちも、多く見て、関わってきた。
そして、全てではないが、その多くは自身を腫れ物のように扱われることを嫌う。なのでレナは、ブリジットの様子の変化を指摘も慰めもせずに話を続ける。
「信じがたいけど、ルネッタの父親があの子に熱の薬を飲ませたんですって。知り合いから貰ったから、って。『うちの子に飲ませたっていう体験が欲しかっただけだったのに』って、魔力が判明した後言っていたそうよ。……少量だったとは言っていたけど、まだ赤ん坊と言っていい年の子供に、ひどいことするわ」
言いながら、レナの眉がしかめられる。熱の薬を飲んだ当事者として、思うところがあるのだろう。
それはブリジットも同じだ。当時の辛さを思い出し無意識に眉根が寄ってしまった。
「……父親が、ただの興味本位で熱の薬を与えて、魔力が判明したからって、殺そうとした、ってことですか?」
腿の上に置いていた拳に、ブリジットは思わず力を入れてしまう。眉根を寄せた顔を少し下を向けたままの問いかけに、レナは「そうみたいね」としかめたままの眉を揉みながら肯定した。
「薬のせいで大泣きして暴れるルネッタを見て魔力があるって分かって、両親はひどく動揺したそうよ。このままじゃ家族が全員殺されてしまう、って」
身勝手な、と吐き捨てたくなる気持ちをブリジットは必死に堪える。耐えないと、ここでレナに言ってもしょうがない暴言まで言ってしまいそうだったから。
「それで、ルネッタを事故に見せかけて殺そう、って両親が話をまとめようとしていたのをお爺さんが見咎めて、『自分が連れて行って育てる』ってルネッタを連れて町を出たんですって。一生隠れ住む覚悟も決めていたみたいだけど――」
レナが一度言葉を止めて、ブリジットに視線を送る。ブリジットが視線を上げて目が合うと、小さく、しかし柔らかく微笑んだ。
「……あ、もしかして、そのタイミングでお師匠様が?」
微笑みの意味を察して問えば、レナは笑みを深め、ソーサーに置いていたカップをもう一度手に取る。
「そう。でもその時は直接は会っていないそうよ。事前に話が通されて、師匠が引き取るって名乗りを上げていたから、そのまま直接ここに通されたんですって」
その説明に、ブリジットは生命の魔女の空間でグレースの弟子であるサラ達と喧嘩をしていた時のことを思い出した。
あの時ニーロに助けられていながらそれを知らなかったサラ達に、ファーラはこう言っていた。
『お父さんは、基本的に助ける際自分の空間に相手を入れません。自分の空間に入れるのは事前に気付けず咄嗟に助けた時ばかりです。それ以外は、空間の魔法を使って助けた相手を、そのまま受け入れ先の魔女様の元に送ります』
逃げるように町を出たが、ルネッタとその祖父はその時追い詰められていたわけではない。つまり、事前に魔女たちに話を通す時間があった、ということだ。
なるほど、と納得してから、ブリジットは次の疑問を口にする。
「ミレーヌ様は、何故ルネッタ様をお引き取りに? やはり魔力が多かったからですか?」
問いかけに、レナはふるりと首を振った。




