第14話「認められざる魔女」⑤
あっさり認められ、ルネッタはぽかんとして目と口を大きく開く。
そんな彼女に微笑みかけ、ブリジットはソファに腰かけた。見上げて手で向かいのソファを示すと、はっとしたルネッタは警戒しながらそこに座る。
「こんなこと言うと失礼かもしれないんですが」
そう前置いて、ブリジットは彼女を見かけた時からずっと思っていたことを口にした。
「私の故郷の町に、ルネッタ様にそっくりな性格の男の子がいるんです」
その少年は生意気で、自信家で、人を見下すような発言が多く、よく人を怒らせていたものだ。
「その子は自分のイタズラで何かやった時は、『やーいひっかかったー!』って大笑いするか、『えー? 知らなーい』ってニヤニヤする子でした」
失礼な、と言いたかったルネッタだが、その反応は身に覚えがあるのでぐっと言葉を飲み込む。
「でも、本当に何もやってない時は『俺じゃない!』って何度も叫ぶ子でした。その姿とルネッタ様が被ってしまって……なので、例えばさっきのキャシーさんみたいに置き忘れがあった、とかは分かりませんが、少なくとも、わざとではないだろうな、と」
思いました、とブリジットが笑えば、ルネッタは目を潤ませて唇をぎゅっと引き結んだ。泣くのを何とか堪えようとしている様を、ブリジットは静かに見守る。
本当は声をかけてやりたかったが、件の少年はこういう時何か言われると泣いてしまい、今度はそれが恥ずかしくて癇癪を起していた。
ルネッタがそこまで同じかは分からないが、可能性があることは避けた方がいいだろう、とブリジットは判断する。
ややあって涙が収まったのか、ルネッタは深い呼吸をしてから、ジト目でブリジットを見やった。
「……それ弟か何か?」
気恥ずかしくなったのか、それとも本題から少し離れたくなったのか、ルネッタは話題を少し逸らす。
「いいえ。私の故郷の町では『子を守る良き大人たれ』という、か――昔からの慣習がありまして、その下地作りとして、年上の子たちは年下の子たちの面倒を見るようになっていたんです。その子も、面倒を見ていた町の子でした」
ふぅん、と返し、ルネッタは視線を下げた。
沈黙が落ちる。だが、ルネッタの表情が先程よりもだいぶ落ち着いているのが目に見えたので、ブリジットには重い沈黙ではなかった。
ややあって、ルネッタがぽつりと呟く。
「……あたし、本当にやってないわ。……でも」
言いづらそうに、ルネッタは指先をいじくった。視線はまだ下がったままだ。
「一昨日、調合室が他の薬で埋まってたの。でも、便秘になる人多いみたいで、下剤の依頼ってよく来るのよ。それで、簡単な調合だから、キッチンで下剤の調合しちゃてたの……ちゃんと片付けたつもりだったけど、量が多かったから、もしかしてひと瓶残して行っちゃったのかもしれない……」
可能性に思い至り、ルネッタの声はどんどん小さくなっていく。そして最後には、聞き取るのが難しいくらい小さな声で「どうしよ」と言ったのが聞こえてきた。
そんな様子を見て、ブリジットはつい懐かしさを覚えてしまう。
件のルネッタによく似た性格の少年も、時々こんな姿を見せていた。普段は悪ガキで、ブリジットも最初の頃は扱いが難しいと思っていた。
しかし、彼の根本は違ったのだ。
彼の両親はちゃんといたが、いつも忙しくてあまり彼に構えていなかったし、構っても厳しい物言いが多く傍目に見て心配になるほどだった。
そんな彼がブリジットをはじめとした年上たちに懐くようになったのは、彼に優しく接するようにしてからだ。
相手が怒らない、優しく頭を撫でてくれる、抱きしめてくれる。そう分かってから、彼は大人しい所や素直なところをブリジットたちに見せてくれるようになった。
そう、彼は、寂しかっただけだ。
なら、彼にそっくりなルネッタも同じではないか。そう思ったから、ブリジットは彼女に優しい態度を取ることに努めている。
そして狙い通り、ルネッタは他の面々に対するよりブリジットに素直な反応を見せてくれていた。こうなれば、先んじてあまりいい評判を聞かなかった幼い魔女も可愛いものだ、とブリジットは少しばかり気が緩む。
「そうですね……もしそうだったら」
ブリジットは立ち上がると、机に手をつき、ルネッタの手を優しく握りしめた。
「ファーラちゃんに不注意を謝って、今後管理のチェックをどうしていくかレナさんたちと決めてはいかがでしょう? ファーラちゃんに謝る時はお付き合いしますので」
ね? と笑いかければ、一度目を上げたルネッタはまた頭を下げて、「ん」と小さく返事をする。
力が緩んだ手を少しの間握ったままでいると、ルネッタが伺うように視線を上げてきた。




