第14話「認められざる魔女」④
「……う……っ」
鈍いうめき声を上げて身を傾いだのはファーラだ。両腕で腹を抑えるような姿勢になった。
「ファーラちゃん!? どうしたの?」
ブリジットが慌ててその背中を支える。全身に力が込められているのが触れた掌から伝わってきた。
「……おなか、痛いです……っ。ルネッタお前……何盛りやがったですか……っ!」
脂汗を浮かべてじろりと睨みつけるファーラに、ルネッタは慌てて立ち上がる。
「あっ、あたしじゃないわよ! キャシーが間違えたんでしょ! 下剤よこれ!」
下剤、という単語に、ファーラの状態の理由が一同にはすぐに理解出来た。
そして状況が判明した途端、キャシーは口元を両手で隠しておろおろしだす。
「え? え~? わ、私あったもの使っただけだよぉ。……あ、でも入れたの私だもんね……ごめんねファーラちゃん。おトイレ行こう。歩けるかな? 魔道具で運ぶ?」
優しく声をかけると、ファーラは腹を抱えたまま「ちょっと無理です……」と力なく答えた。それならば、とキャシーはすぐさま暖炉の上に置いていた杖を取りに行く。
「何でそんなものここに?」
「うっ。この間模様替えしようかなって思って持ってきた後、やっぱりやめてそのまま置きっぱなしにしちゃってました……」
レナの冷静な指摘に、キャシーは杖を握りしめながらばつが悪そうな顔をした。ため息を吐き、レナは「運んであげて」と置きっぱなしにしたことを不問にする。
「うん、行くねファーラちゃん」
言下、キャシーが杖を振ると、ふわりとファーラの体が浮きあがった。
重量を操作する魔道具だろうか、と予想しながら、ブリジットはファーラの様子を観察する。特に辛がる様子がひどくなる様子はなかったので、ほっとした。
「ブリジットちゃんも辛いよね? 一緒に行こう。大丈夫よ、うちルネッタが魔女になってから一気に弟子が減っちゃって今は私たちだけだけど、前はたくさんいたからおトイレもいっぱいあるから」
促され、ブリジットは慌てて両手を上げて首を振る。
「あ、いえ、私は大丈夫です。その、全然痛みがなくて――」
「ブリジット・ベルは大丈夫でしょ。エテの花の花粉吸ってるから。あの花粉、薬の吸収を阻害するのよ。調整すれば薬が効く順番を調整出来るけど、そのまま吸ったんだったら、下剤の効果も丸ごと打ち消しされてるわ」
ルネッタが口早に説明した理由に、ブリジットは少し前にルネッタに「薬を飲んでいるか」と聞かれた理由をようやく理解した。
それなら、とキャシーはファーラを急いで運ぼうとする。
「ちょ……と、まって、くださ……」
息も絶え絶えに進行を止めると、ファーラは魔道具であるポシェットを漁り、柄の長い大きなハンマーを取り出した。魔道具・解呪の魔鎚だ。
力なく差し出された相手はブリジット。ブリジットはすぐにそれを受け取る。
「……きをつけて……くださ……」
「うん、うん。大丈夫だよファーラちゃん。もう行って。キャシーさんお願いします」
分かった、と頷き、キャシーは今度こそ部屋を出て行った。
一瞬静まり返る応接室。立ち上がったままだったルネッタは「仕方ないわね」と歩き出す。
「いくらデリカシーゼロの頭でっかちとはいえ、姉弟子の不始末くらいつけてあげないとね。症状を緩和させる薬持ってくるわ」
ルネッタの調薬の腕前は、仲が悪いファーラが喧嘩中にも認めるほどらしい。その腕前で作られた薬を貰えるならばファーラもすぐに元気になるだろう。
ほっとした様子でブリジットが「お願いします」と言いかける中、レナが冷たい声でそれを止めた。
「私が行くわ。この状況であなたが用意した薬をファーラが飲むとも思えないし。飲みすぎて同じ症状になった人に出した薬でいいでしょ?」
「は? 何でよ。あたしじゃなくてキャシーが間違えただけじゃない」
じろりと睨み上げてくるルネッタを、レナは冷めた目で睨み返す。
「どうだか。イタズラする時限度がないじゃない。そもそも、何で下剤がキッチンにあるの? 管理しているのあなたよね?」
「こ、今回は何もしてないわよ! それに管理はしてるけど、あんた達だっていくらでも取り出せるじゃない! 今だって!」
「私たちが盛って何の得があるの? ニーロ様――達が嫌いなのは、あなただけでしょ」
違うってば! と怒鳴ったのを契機に、ルネッタの涙目とレナの冷たい視線が火花を散らした。
その火花を、ブリジットが差し込んだ手が止める。
「すみませんレナさん、いったんそこは置いておいてもらって、まずはファーラちゃんにお薬届けてあげてもらえますか?」
ニコリと笑いかけて見せると、レナは息を吐き「そうね」と返し視線の険を収めた。
「ブリジットも行きましょう。ルネッタと二人は嫌でしょ?」
誘いかけに、ルネッタは両拳を握りしめて何事か叫ぼうとする。しかしそれは止められた。ブリジットが肩を抱いて頭を寄せてきたので、驚いて止まってしまったのだ。
「大丈夫です。二人でお留守番していますね」
演じているようには見えない笑顔。レナは少し躊躇したが、最終的には納得して部屋を出て行く。
また静かになった部屋で、ルネッタがブリジットの体を強く押して離れた。
「――どういうつもりよ……! 何? 二人になったから遠慮なく文句言うつもり? でもあたしは本当に」
「あ、はい。わざとではないだろうなぁとは思ってます」




