美女との接触
満員電車は不快だ。この前の『事件』を思い出すから。
それでも電車通勤を再開したのは、毎日わたしを車で送迎してくれていた柿田さんに対して、さすがに申し訳なくなったから。
この前の事件の対策として、わたしは自分の背後に誰も立たせないよう、ドアを背にして立つようにしている。できたら女性専用車両に乗りたいけど、この電車には無かった。
ほぼ満員になった電車に乗るのはやっぱりこわくて、ストレスだ。
ほら、横にいる女の子も、そんな顔してる。てか、すごく美人さんだなあ......。
ーーあれ?この美女、どこかで見たような顔じゃないか?
記憶のなかを探すけれど、思い出せない......。
そうしてまじまじと彼女の顔を見ていると、わたしは違和感を感じはじめた。
彼女の顔と身体が、どこか強張っている。あまりにも無表情、というか、感情を押し殺している感じ。まるでそうしないと自分を保てないような。その感情は、緊張と、恐怖と、羞恥がないまぜになったようなーー。
女のカンが働く。
この前のわたしと、似てる。
彼女の背後には何人か男性がいる。誰だかは分からないけれど、なんとかしなくては。
「大丈夫ですか?気持ちわるいの?」
わたしは車内にいる人たちに聞こえるよう声を張って、そう言った。ーーこれで、うまくいくかな。
「はい、あの、なんか......。は、はい」
わたしをすがるような目で見た彼女は、何か言いかけて、でも言葉が出てこなかったのかひとつだけ頷いた。
「じゃあ、次の駅で一緒に降りましょう」
「......ありがとうございます」
ちいさな声でそう言った彼女の肩を、とても混んでいるから無理やりだが介抱するように抱いた。
「気持ちわるかったら、しゃがんでいいですよ」
難しいかもしれないけれどそう言った。
「だ、大丈夫です」
車内の注目を集められたし、もう『大丈夫』なのかな?
でも、一刻も早くここから出たいだろう。
次の駅に着くのを待っていると、いつもより時間を長く感じた。




