遥斗くんと遊戯
「え、そこ、イケる?」
積み上がった木のブロックのうちのひとつを、慎重に抜いていく。
「うわ、揺れてる揺れてるっ!」
遥斗くんがハラハラした顔でタワーを見守っている。
「絶対、イケるはず」
リスクはあるけど、ココなら倒れないという自信がある。
わたしは華麗な指さばきで、完全に、ブロックを抜け切った。
「......慈さん、ジェンガのプロだね」
「へへん」
日曜日の午後。暇していたところへ、小柳家の次男坊・遥斗くんが色々な種類のゲームを持ってわたしの部屋を訪ねてきた(なんたってお隣さん同士だ)。
今度は遥斗くんのばんだ。遥斗くんはタワーの上階のほうに狙いを定めている。そしてタワーに手をのばしながら口を開いた。
「ねえ、聞いてもいい?昨日の青葉くんの様子。まだ落ちこんでた?」
「そうだね、落ちこんでた……そういえばコレ、預かったんだ」
わたしは床のうえにそびえ立つタワーが倒れないようにゆっくり立ち上がり、机の引出しから、ダイヤモンドの指輪を取り出した。
「え、この指輪を、慈さんが?」
「うん。それで、まだ、諦めたくないって」
「それはつまり清可さんをってこと?」
「そうだと思う」
「ギャハハッ!あんなフラれ方して!?」
遥斗くんはブロックを引き抜くのを放棄して爆笑している。
遥斗くんに青葉くんとの話をするのだけでも少し罪悪感があるのに──。
「これ見るとつらいこと思い出しちゃうんだって。でも清可さんのこと諦めたくないから、いつか渡せる日が来るまで預かってほしいっていう意味じゃないかな?」
「えー、じゃあなんで僕じゃなくて慈さんに持たせるのぉ?実の弟なのに!」
「そういう反応するからでしょ」
遥斗くんは床に突っ伏してまだクツクツと笑っている。けれどしばらくして顔をあげた。
「でも、そうこなくちゃね!さすが青葉くん、清可さんへの気持ちは誰にも負けない!」
「......遥斗くん、自分の恋はどうなの?好きな人とかいないの?てか、いまいくつだっけ」
「高校二年生、フレッシュな16歳ですっ!」
そう言ってウインクしながらピースする遥斗くん。
「......僕はね、ひとの恋愛を観察するのが好きなの〜。とくに青葉くんはね、ちょうおもしろいから。僕のことはどうでもいいじゃない」
はぐらかされた。
「じゃあ慈さんはどうなの?好きなひといるの?......僕、あなたみたいなひとの恋、興味あるな」
わたしの答えを待つ遥斗くんの目がキラキラ輝きだした。
うーん、なんて答えよう......
「遥斗さん!どこですかー!」
そのとき、廊下から声が聞こえた。あれ、この声はーー。
「は〜い!慈さんの部屋ですよー!」
遥斗くんが大声で答えると、足音がドアに近づいてきた。けれど、足音はドアの前で止まる。
「......入っていいですよ?」
「し、失礼します...」
部屋に入ってきたのは、スーツ姿の美樹だった。......どうしてここにいるんだろう。
「遥斗さん、今日はスケートのお稽古、休むんですか?」
「あ、ヤバ!忘れてたーーっ!」
「柿田さんが探してましたよ、もうすぐお稽古の時間だって」
「はいっ!いますぐ準備しますっ!」
遥斗くんが勢いよく立ち上がったとたん、振動でタワーがグラッと崩れ落ちた。
「慈さんごめんね〜!また僕の相手して!......あ、てかよかったら一緒に来る?僕、フィギュアスケートやってるんだけどさ、滑ってるとこ見にきてくれない?」
今日は予定もなくて暇だし、フィギュアをテレビで見るのも好きだしーー。
「行ってみようかな」
「わーい!じゃあちょっと待ってて〜準備してくる!」
遥斗くんはバタバタと部屋を出ていった。
残されたのはわたしと美樹。
「......慈、なにしてたの?」
「見ての通り、ジェンガ」
「遥斗さんと二人で?」
「うん」
「ふーん......」
なんだろう、この空気は。
「美樹はどうしてここに?」
「俺、よくこの家に来るんだ。書類とか取りに行かされたり、夕飯一緒にどうだって誘われたり。今日も誘われて。小柳社長ももう帰宅してるよ」
「そうなんだ。......じゃあ、わたしもこれ片付けて行かなきゃ」
床に散らばるブロックを集める。
美樹も手伝ってくれる。
「ありがと、美樹」
二人でブロックをボックスにしまっていると、美樹が口を開いた。
「......ねえ、聞いてもいい?遥斗さんと仲いいの?」
「うん、まあ一緒に住んでるからね」
「......。」
なぜか沈黙。
全部片付け終わり、遥斗くんがジェンガと一緒に持ってきた他のボードゲームなども彼の部屋に運ぼうとすると。
「俺が持ってくよ」
「ご、ごめんね」
有無を言わせない感じで持っていかれた。
「......ねえ、今度は俺も混ぜて」
「え?」
「遥斗さんと遊ぶとき、できたら俺も呼んでよ」
「え、でも美樹忙しいし、その......」
「前よりもっとここに来るようになると思うから。だから、俺も呼んでね」
「う、うん......」
押し切られてしまった。
まあいいか、ゲームは大勢でやるほうが楽しいし。




