新作発表パーティー(慈視点)
『The Warriors』は、プレイヤー同士の連携も可能な、ストーリー性の高い新感覚RPGゲーム、らしい。巨大スクリーンに映写されているゲームのCMには、バラエティ番組でよく見かける女性タレントが起用されている。
「ねえ慈、このガトーショコラ、めちゃくちゃ美味しいよ。慈も食べてみなよ」
淡いピンク色のミニワンピに身を包み、わたしの隣でちいさなケーキを頬張っているのは、学生時代からの友人である梨子だ。
思いっきりパーティをエンジョイしている梨子と違い、某有名ホテルの大広間を貸し切ったこの空間で、わたしは完全に浮いている気がして落ち着かない心持ちでいた。パーティ用のドレスなんて持っていないから、正月の福袋に入っていた全く自分の好みではない黒のレースワンピースを身につけているのは大丈夫なのだろうか?ステージ付近のテーブルを囲んでいる無闇にオーラを放っている女性たちはテレビで見たことがある気がするし、カメラマンや記者といった出で立ちの報道関係者が多数うろうろしているのも気になる。
「そういえばさ、Third Crystalのライブ、わたしたちも見れるのかな?センターの女の子が結構可愛くて、最近気になってるんだよね〜!」
ホテルの外では、この新作発表パーティにパフォーマンスをするというアイドルグループの出待ち男子が押し寄せていたのを思い出す。サード何とかというアイドルはこのゲームのテーマソングを担当している、らしい。
「見れるんじゃない?気になるなら行ってきなよ。こことはまた別の会場でやるって小柳さん言ってたよ。わたしは遠慮しとくけど」
「そうなんだー、じゃあ一人で行ってこよ!てか、このタルトまじでおいしい。これもういっこ食べてからね」
そう言ってまたひとつ焼き菓子に手を伸ばす。
「あ、慈、ここにいた」
名前を呼ばれたほうを見ると、全身ネイビーのスーツを着こなす美樹だった。
「美樹、おつかれ」
「おつかれ〜。......わあ、女の子らしくて可愛いね、慈。いつもと違う感じだけど、似合うよ」
ど直球な褒め言葉に慣れていないわたしは、ちょっと動揺を隠せない。
「み、みみ、美樹は、ほんとモデルさんみたいだね」
「ほんと?......モデルさんみたいにかっこいいっていう意味?」
「う、うん」
「そっか。照れるな〜」
満足そうな表情を見せる美樹と、多分顔の赤いわたしと、ニヤニヤを隠さない梨子。
わたしにとっていたたまれない雰囲気でいると、美樹は社員の男性たちに声をかけられ、一言断ると行ってしまった。
「美樹くん、王子っぷりは変わらないね〜」
梨子はわたしたちと同じ学校だったので、もちろん美樹のことは知っている。
「......慈にやっと春が訪れそうでわたしは嬉しいよ」
「わたしが美樹とってこと?それはないわ」
わたしは学生時代、美樹に距離を置かれていたし。それまではすごく仲が良くて、わたしにとっては唯一無二の存在だったのに。
わたしは今も避けられていたことを少し根に持っている。
「じゃあそろそろ、わたしThird Crystal のライブ行ってくるね!ヲタク男子の波に混ざって」
「いってらっしゃい。楽しんできてね」
さて。一人になってしまった。
ここの会社の社員でもなんでもないわたしに、周囲に知人などいるはずもなく、わたしは一人で黙々と食べものを消費していく。
だんだんおなかもいっぱいになってきた。
周りには一人でいる人はおらず、みな誰かと談笑していた。何もせず一人でここにいるのはつらい。こんな華やかな場所はわたしには似合わない。
すぐそこの中庭に出よう。
八月の東京は夜でも暑いが、あの雰囲気のなか会場内にいるよりマシだった。中庭をブラブラ歩いていると、不審な人影を茂みの裏に発見した。
スーツに身を包み、上品そうな雰囲気を醸し出してはいるが、しゃがみこんで双眼鏡越しに一点を見つめる様は非常に怪しい。
「...遥斗くん?」
「慈さん!?ちょっと、隠れて隠れて!」
彼は抑えた声でそう言うと、慌ててわたしの腕をひっぱり、茂みの中にわたしを引きずりこんだ。
「ど、どうしたの?」
「しーっ!静かに!」
静かにしていなければならないこともそうだが、茂みの中で非常に密着していなければならないことにも意味はあるのだろうか。
「いま、大事なトコなんだから!」
「......なに見てるの?」
双眼鏡を覗く遥斗くんの視線の先を見ると、二人の男女が立っている。......ん、あれは?
「青葉くん?」
タキシード姿の青葉くんが、一人の女の子になにやら話しかけているのが遠目からでも分かった。そしてその女の子は、白いレースでできたワンピースを着ていて、顔はよく見えないが...
「相手の女の子、雰囲気だけでも美女だねあれは...」
「あ、分かる!?雰囲気だけで分かっちゃう!?マジでほんとに美人でかわいいんだから!ほらこれ貸したげる!」
遥斗くんは双眼鏡をわたしに押し付けてきた。
さっそく覗いてみる。......うーん、女優やタレントとしてテレビに出れるレベルのカワイさだ。
「あれなら、青葉くんが惚れちゃうの分かるでしょ?男を惑わす中身も魅力的だしさあ。だから青葉くんは清可さんに完全にホネヌキになっちゃってるわけだけど。その恋模様がほんとドキドキさせられるっていうかあ!」
お兄ちゃんのこと、青葉くんて呼ぶんだ。てか、遥斗くんてこんなキャラ...?
「あっ、ごめんね!ついつい興奮しちゃって慈さんの前なのに...」
熱弁していたと思ったら、今度はしおらしく照れた。かわいいな遥斗くん。
「あのね、オレ、ちいさい頃からずっと二人の恋路を見守ってるんだ〜。二人の観察に熱も入るっしょ」
貸して、と言ってまた双眼鏡を構える遥斗くん。
「あ!やばいやばい!青葉くんがアレ渡すよ!ニヤニヤだらしないキモい顔しながら買ってた10万もするダイヤモンドの指輪!まだ付き合ってもないのにイタいよね(失笑)」
わたしも二人のほうを目を細めて見る。青葉くんは、タキシードの胸ポケットから、ちいさなハコを取り出している。そして青葉くんは......。
「うっわー跪いちゃってるよ!慈さん見える!?青葉くん跪いた!」
キザ!キショ!と横で声がしたが、聞こえなかったことにしよう。
そして、青葉くんはハコを開け、指輪を女の子に差し出した。
「あー、なんて言ってるんだろ...。タキシードに盗聴器つけとくんだったなー!」
何やら隣でそら恐ろしいことをおっしゃってらっしゃる。
「それで、清可さんの答えは......!?」
遥斗くんが固唾を飲んで結末を見守っている。わたしもこの状況にはさすがにドキドキする。なんだか恋愛ドラマのハイライトを見てるみたい。
二人で青葉くんと清可さんの行く末を見守っていると......。
青葉くんを見下ろしていた清可さんが、手を出したと思うと、青葉くんの指輪を......。
「あちゃー......。」
青葉くんの指輪を差し出した手を、思い切り振り払った。緑の上に転がる小箱ーー。
「そんな......」
わたしはその光景に、切なさを覚えた。一方通行の想いの辛さは、わたしも知っているつもりだ。
辻原先輩。学生時代のわたしの精神的な支えであり、わたしがひそかに恋していたひと。
いまはあまり思い出したくない思い出を振り払おうと隣を見ると......、遥斗くんは目頭を押さえていた。
「な、泣いてるの遥斗くん...?」
「ちょっと...、しょ、ショックでぇっ...」
わたしは慌てて遥斗くんの背中をさすりなだめる。
「きっ、清可さんも、手を払いのけるなんて、冷たいことしたのは、理由があるはずなんだ...」
「そ、そうだね。きっとそうだよ」
なんなんだこの状況は。
「だからね、オレが慈さんにずっと伝えようか悩んでたのは...。青葉くんは、ほんとに、ほんっとーに、清可さんが好きで、清可さんしか見えてないってこと...。他の女性に、手を出すなんてするわけないんだ...。男はムラッとくるときだってあるけどさあ、清可さんに対する想いはそれさえも乗り越えちゃってるわけでぇっ...」
びっくりした。遥斗くんは、こんなに必死に二人を応援してるのに、わたしに気を遣って、青葉くんが痴漢なんてするようなやつじゃないと言おうか言うまいか悩んでいて...。
遥斗くんは、ちいさい頃から二人を見守っていると言っていた。
一人のひとを好きになると、他は見えなくなるというのも、わたしには分かる。
遥斗くんは泣くのに忙しく、わたしは遥斗くんをなだめるのに忙しかったので、立ち去る清可さんと取り残された青葉くんの一幕は見ることができなかったが、わたしは、青葉くんに対する考えを改めて、反省していた。




