第1章 : 霧の前の準備 (2)
「味方同士なのだから、冷たい挨拶はやめましょう」
ライエルは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「私はライエル。もし状況が悪くなったら、私が始末するわ。アラリオンが道を切り開き、フェイローラは……私たちが息を切らさずに済むようにしてくれる」
二人は厳粛に頭を下げた。
その後、アラリオンは自分の斧を研ぎ続けた。
一方、フェイローラはアオイの薬を興味深そうに眺めていた。その目には、専門家らしい鋭さがある。
「私たちは英雄の階級に従うわけではないけれど、戦う時は英雄たちに劣らないつもりよ」
その言葉の応酬だけで、彼らが完全な他人同士だという感覚は薄れていった。
ライエルはテーブルに寄りかかり、暗い色の表紙をした手帳を置いた。
必要なものがすべて揃っているか、一つ一つ細かく確認している。
それは誰かに押しつけられた一覧ではない。彼女自身が用意した物資の記録だった。
「こちらの準備も整っているわ」
彼女は手帳を閉じた。
「そうでなくては困るけれど……二度目の機会はないもの」
そして、声を落とした。
「依頼にあるのは、ただの徘徊する魔物ではないわ。三体の天狗よ。一体は赤。そして残る二体は雪の天狗。片方は淡い青の羽、もう片方は濃い青の羽を持っている。まるで異なる二つの冬のようね」
重い沈黙が部屋を包んだ。
エイナルはわずかに笑い、刀を鞘に収めた。
「よし。準備が整ったなら……飯を食って休もう。明日、俺たちは灰の森へ向かう」
その地域の境界へたどり着くまでに、丸一日の行軍を要した。
太陽が丘の向こうへゆっくり沈み始めた頃、一行は道の近くにある開けた場所で足を止めた。
草にはまだ昼間の温もりが残っており、数メートル先では小川が流れている。
そこに小さな野営地を設けた。
エイナルが夕食を作ると申し出た。
手際よく薬草を刻み、肉に味をつけ、モモが生み出した小さな魔法の炎を借りて火を起こす。
几帳面なアオイは食料の準備を手伝い、その横ではニジが、自分がいなくても皆が器用に仕事をこなしていることに不満そうな息を吐いていた。
煮込み料理の香りが野営地いっぱいに広がる。
モモからは満足げな喉鳴りが聞こえ、焚き火から少し離れた場所で革の日記帳に何かを書いていたライエルからは、短い笑い声が漏れた。
全員が腰を下ろし、食事を分け合う。
会話は翌日の予定から、他愛のない思い出話へと移っていった。
夜は急ぐことなく訪れた。
それは、彼らがようやく手にした当然の報酬であるかのように、静かな安らぎで一行を包み込んだ。
翌日、彼らは再び歩き始めた。
森の静けさが破られたのは、道が交わる場所だった。
そこを、半ば空になった荷車を引く商人の一団が進んでいた。
顔には恐怖が刻まれている。
そのうちの一人が一行を見て足を止めた。
彼の視線が武器や、旅で使い込まれた装備を素早く見回す。
その瞬間だけ、顔に浮かんでいた恐怖が敬意へと変わった。
「ああ……冒険者、いや、英雄の方々でしょうか」
男は言った。
「それなら、灰の森へ向かわれるのですね……どうかお気をつけください。あそこでは、どの影にも死が潜んでいます。私たちは命からがら逃げてきたばかりです」
エイナルは手を上げ、さらに先を指差した。
そこには谷の大地が黒く抉れたような場所があった。
まるで巨大な爪で傷つけられたような、クレーターにも似た傷跡だ。
「……あそこで何があった?」
エイナルが眉をひそめる。
商人は、誰かに聞かれることを恐れるように声を落とした。
「黒い外套をまとった若い魔術師の娘です……祈りとは思えない言葉を呟いていました。まるで、何かを数えるように」
男は震える息を吐いた。
「そして最後の言葉を終えた瞬間、空気そのものが燃え上がったんです。凍てついた炎の柱が空へと昇りました」
彼は黒く変わった谷を振り返った。
「谷はあんな有様です。焼けて……ガラスのように固まってしまった。最後に見た時には、あの娘が倒れるところだったと思います」
エイナルは唾を飲み込み、顔を引きつらせた。
「まあ……少なくとも、俺たちの任務には関係ないな」
軽く言おうとしたが、声にはわずかな硬さが混じっていた。
仲間たちも、互いに気まずそうな視線を交わす。
アオイが信じられないとばかりに瞬きをした。
「それ、魔法というより狂気に聞こえるわ」
ニジは肩に担いだ二叉槍の位置を直し、鼻で笑った。
「狂気だろうが何だろうが、この世界で命知らずな真似をしてるのは俺たちだけじゃないってことだな」
七人の影が、共有された沈黙の中で長く伸びていった。
やがてモモが、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「私は会ってみたいけどな。なんだか私の好みっぽいもの」
その一言で、張り詰めていた空気が短い笑いへとほどけた。
それでも、危険の影は消えなかった。
灰の森へ続く道には、なお不穏な気配が漂っている。
商人は疲労と安堵の入り混じった顔で彼らを見つめた。
エイナルはその不安を察すると、力強く頷いた。
「心配するな。南へ向かえば安全な場所まで行ける。ここに残っているものは、俺たちが片づける」
男は感謝を示すように頭を下げ、それから自分の仲間たちのもとへ戻っていった。
エイナルは荒れ果てた土地を最後に一度だけ振り返り、その情報を胸に刻んだ。
そして、揺るぎない声で告げた。
「行くぞ。天狗たちが待っている」




