第5章 : 汚染された核 (1)
風景が開け、岩肌には、燃え上がる傷口のように明滅する光の亀裂が広がっていた。まるで、それらが呼吸しているかのようだった。
そこでは、構造体たちが待ち構えていた。
それらは道から現れたのではない。まるでテネブリオそのものから湧き出してくるかのようだった。暗い地面が、じっとしていることに飽き、自ら立ち上がることを決めたかのように。
その身体は背が高く、角張っていた。何百万もの共鳴粒子が落ち着きなく流れながら結合し、形を成していた。ひとたび組み上がると、それらは固体へと変わり、鋳造されたばかりの彫像のように、確定した形へと固定された。
腕は、まともな比例からすればあまりにも長かった。その先には、道具のように細長く、関節の備わった手があった。
顔はない。あるのは滑らかな仮面だけで、その表面では、ときおり淡い光が震えた。借り物の脈動。見えない人形遣いが、より大きな核の意志を金属の削り屑へ投影した、その痕跡だった。
歩くたび、身体の内側でテネブリオが軋んだ。無数の針が互いに擦れ合う、海のような音だった。
「機械ではないわ」
ゾヤはアルカナ・ログを調整しながら、ささやいた。
「従順なものたちが集積した存在よ」
アレクサンドラは疑わしげに構造体を観察した。
「じっとしていることを忘れた彫像、というわけね」
みおは構造体に意識を集中させ、テネブリオの指輪に、自分の身体の反応を調整させた。
周囲の振動が、全体を覆う唸りから少しずつ区別できるようになった。
彼女に見えていたのは、隠された網ではない。金属の削り屑の動きに生じる違いだった。
どの構造体も同じ脈動に反応していた。だが、そのうちの一体だけは、ほかの個体に自分のリズムを押しつけているように思えた。
みおは、そのひときわ大きな身体を見据えた。
装甲板の下で、何かが不規則に脈打っていた。
「感じる……」
彼女はつぶやいた。
「あそこに、みんなをひとつにつなぎ止めている何かがある」
アレクサンドラとみおは、斜面を下りていった。
金属の唸りが空気を震わせていた。
最初の構造体たちが起動すると、アレクサンドラが発砲した。
弾丸は金属の胴体を貫いた。だが、飛び散った破片は即座に渦を巻き、構造を再び組み上げた。
その銃声が合図となった。
五体の殻が一斉に立ち上がった。まるでひとつの思考を共有しているかのように、動きが連携していた。
みおは知覚を研ぎ澄ませた。
紫色の瞳の中で円環が回転する。彼女には、構造体たちの動きが同じ脈動へと収束していく様子が見えた。
ほかの個体よりも大きな一体が、その連携を支えていた。
<均衡を与えることはできない。でも、あなたが誰なのかを思い出させることはできる。呼吸して。もう一度、見て>
«ありがとう、ミサオ»
その声が、みおの集中を取り戻させた。
彼女は脈動をたどり、ついに、それぞれの構造体をひとつにつなぎ止めている箇所を見極めた。
「アレクサンドラ、関節を狙って。接続を断ち切って!」
アレクサンドラはその指示に従った。
銃弾が命中するたびに構造体のひとつが不安定になり、破片は再び集まることなく地面に落ちた。
指揮役の個体は即座に反応した。残った構造体たちを動かし続けるため、自らの脈動の一部をそちらへ振り向けなければならなくなったのだ。
そのためらいが、動きを鈍らせた。
みおは前進した。
ウルフベルフトが空気を切り裂き、刃の軌跡を描いた。金属の削り屑が這い寄ることさえ許さず、四肢を切断していく。
一太刀ごとに、乾いた閃光が走った。
腐食が生まれようとする、その瞬間を否定するかのように。
斬り、かわし、切り刻みながら、みおは核へと至る道を切り開いた。
ついに露出した中枢へたどり着くと、みおは剣を落とした。
彼女のワイバーンの腕が緊張し、指が開いた。形を変えながら、硬質な鉤爪へと変形していく。
みおは深く息を吸い込んだ。
そして構造体の内部へ手を突き入れ、核を一気に引き抜いた。
獲物を捕らえる鷲のように。
その身体が崩れ落ち、金属の削り屑は持ち主を失った塵のように散らばった。
みおの手には、まだ異常な振動を刻み続ける核が残されていた。
テネブリオの指輪が肌に温かな脈動を伝えた。みおは、その反応が広がる前に腕を引いた。
「見た目より重いわね」
彼女はつぶやき、核をアレクサンドラに手渡した。
「ただの金属じゃない。何かが閉じ込められている」
無機質な鼓動が切り離されると、亀裂の中は静まり返った。
大地そのものが、ようやく息を吐いたかのようだった。
帰路には、戦闘中のような切迫感はなかった。
金属の内臓は合成モジュールの中に封じられ、運ばれていた。それでも、みおは自分のノードの一部が、あの病んだ中心にまだつながれたままだと感じていた。
あの残骸を持たずに歩くことは、自由を意味しなかった。
それは、消え去ることのない悲劇に縛られているということだった。
街に戻ると、アレクサンドラは何かを説明しようとするかのように、しばらく足を止めた。
「誰もが共鳴ノードを必要としているわけではないの。仕事の都合で必要とする人もいれば、持たずに暮らしている人もいる」
彼女は、ベンチに座っている制服姿の少女を指さした。
そして、アレクサンドラは落ち着いた口調で説明を続けた。
「彼女にはノードがない。ノードを持つ者同士なら、うなじに感じる微かな振動で互いを見分けられるの。目で見るというより、感じ取る脈動ね。いずれ、あなたにもわかるようになるわ」
そのとき、ひとりの若い女性が姿を現した。
その瞳の色は、光に触れたばかりの藤の花が放つ、繊細な輝きを思わせた。
灰色がかった髪が、温かなカフェラテの泡を思わせる柔らかな色合いのコートの上に流れ落ちていた。
彼女は一瞬、不安げに立ち止まった。
あまりにも新しい街で、古い合図を探し直しているかのように、心配そうな眼差しで通りを見渡した。
まだ音にはなっていない。それでも記憶の中で響いている名前に導かれ、進んでいく者のような、穏やかな動きだった。
やがて彼女は、足早に、それでいて慎重な歩調で進み始めた。
運命というものは、走って追いつくのではなく、耐え続けることでたどり着くものだと知っているかのように。
ゾヤの家に着くと、休止状態にある装置たちの静けさが、室内の空気を満たしていた。
科学者はアルカナ・ログを展開した。
線は混沌と絡み合い、その中心では歪みが脈打っていた。
「テネブリオの指輪は解決策ではなかった。腐食を伝導させる役割を果たしたにすぎないわ」
ゾヤはモニターから目を離さず、断言した。
「でも、あなたのノードは、私には識別できない振動を示している。信号が異常なほど澄んでいるのよ、みお」
アレクサンドラは一歩後ずさった。
テネブリオがガラスに向かって打ちつけるのをやめ、エルフであるみおの存在に反応して波打つ様子を見つめていた。
「だからこそ、これまで誰もこの核を見つけられなかったのかもしれないわね」
ゾヤは続けた。
「ここにいる私たちは、誰もが同じ雑音、同じノイズの一部を共有している。でも、あなたの信号は違う反応を示しているように見える。歪みに呑み込まれずに網状構造へ入れるかどうかはわからない。それでも、これが私たちに残された最善の可能性よ」
「それって、つまり……?」
アレクサンドラは眉をひそめて尋ねた。
「周波数の網状構造に入り、それを安定させられる人がいるとすれば、それは彼女だということよ」
一瞬、沈黙が広がった。
みおは理解した。
ミサオと一緒なら、この新たな試練で状況を変えられるかもしれない。
ゾヤは頷き、完全に仕事の顔へと切り替わった。
「さて、みお。これから共鳴ネットワークに接続するわ」
ゾヤは言った。
「あなたのノードがネットワークとやり取りできるように、パルスケーブルと接続点が必要になる。アルカナ・ログをインターフェースとして使い、接続中のあなたの反応を記録するわ」
ゾヤはケーブルを一本ずつ接続し、装置を起動する前に、すべての接続を確認した。
合成モジュールはテーブルの上で振動し、腐食した核を隔離していた。その脈動は、アルカナ・ログに記録され続けていた。
四つの接続点が、接触と同時に光を放った。
表示が安定すると、ゾヤは頷いた。
「準備完了。接続を開始するわ」
最初の脈動が、みおの身体を駆け抜けた。
物理世界が消えた。
重さも、空気も、肌の感覚もなかった。
完全な虚無が彼女を内側へと引き込み、自分自身という存在さえ剥ぎ取っていった。
そして突然、その虚無は引き裂かれた。
光の道筋が、無限に広がる動脈のように伸びていった。
それらは脈打ち、交差し、生きた星座のように絡み合っていた。
進みながら、みおはほかのノードの閃光を感じ取った。ネットワークの中で活動を続ける存在たちの残響だった。
ネットワークは脈打っていた。
呼吸する光の線。互いに絡み合う残響。
みおは宙に浮かんだまま進んだ。
彼女を支えているのは、内側からミサオが安定させている同調だけだった。
みおは、腐食した核へと続く道をたどった。




