第3章 : 食卓にいない者たち
その朝、ギルドの本部は静かだった。
受付嬢のジュニパーは、いつもの手際のよさで羊皮紙と登録結晶を確認していた。彼女は一行が近づいてきても顔を上げなかったが、誰が来たのかはすでに分かっていた。
「A+クラスの任務?」
前置きもなく尋ねる。
エイナルが頷いた。
ミサオが一歩前へ出る。
「昇格を続けたい」
ジュニパーは二枚ほど書類を滑らせ、印章を確認すると、そのうちの一枚を指差した。
「北西のイスカヴィークで、現在進行中の任務がある。レシィが確認されている。村からは行方不明者と、森のマナの異常が報告されている。まだ誰も引き受けようとしていない」
ミサオは迷わなかった。
「受けるわ」
ジュニパーは契約を登録した。
結晶が一瞬だけ光り、羊皮紙に一行の印が刻まれる。
「幸運を」
声の調子は変わらなかった。
ミサオは全員が必要なものを持っていることを確認していた。
これまでの任務よりも道のりは長く、天候も不安定だった。食料、武器、印章、さらには方位を示す護符まで確認した。
何一つ、偶然には任せなかった。
旅の始まりは静かだった。
景色は少しずつ変わっていった。
植物は減り、風は強くなり、マナが次第に濃く、そして古くなっていくような感覚が絶えずまとわりついた。
夕暮れになる頃、二人は宿場にたどり着いた。
古びてはいたが、まだ使える場所だった。
エイナルが夕食を作ると申し出た。
誰も異論を唱えなかった。
彼は宿場の火と格闘していた。
焚き火は濃く厄介な煙を吐き出し、目に涙が浮かぶ。サツマイモを手早く切っていくものの、指は古い木のようにこわばっていた。
前腕で額の煤を拭うと、気づかないまま黒い跡が残った。
豚の脂と蜂蜜の香りがその場いっぱいに広がる。
凍てついた荒野の真ん中で、「家」という言葉を乱暴に叫ぶような匂いだった。
「このシチュー、アオイに教えてもらったんだ」
エイナルはカドロスの前に皿を置きながら言った。
「今の僕を見たら、サツマイモの大きさを揃えて切ってないって、後頭部を叩かれるだろうな。あいつはそういうところが真っ直ぐなんだ。でも、僕が黙っていたいときと、背中を押してほしいときを分かってくれるのは、あいつだけなんだ」
スープをよそいながら、短い笑い声が喉から漏れた。
「ニジはいつも皿を半分残してた。ずっと喋ってたからな。ありえないような恋愛話をいくつも作って、夕食が冷めても気づかないんだ。大げさな奴だけど、僕に誰もいなかったとき、最初にそばにいてくれた馬鹿だよ」
最後に、蜂蜜で煮たリンゴがまだ湯気を立てたまま運ばれてきた。
甘い蒸気に視界が一瞬曇る。
そのほんの小さな仕草だけで、身体はもう自分が危険の中にはいないことを思い出した。
「モモはこれが大好きなんだ。一人っ子だから、家で足りない騒がしさを僕たちで補おうとするんだよ。あいつが飛び跳ねて、あの間抜けなくらい嬉しそうに尻尾を振ってると……」
少年は熾火へ向かって微笑んだ。
「近くにいたら、悲しくなんてなれないよ。なろうとしてもね」
ミサオは何も言わず、彼をじっと見つめた。
やがて近づき、その肩に手を置く。
そして、数秒間そのままにしていた。
何気ない仕草ではなかった。
エイナルは、冷え切った空気の中に温もりを感じた。
まるで一瞬だけ、旅の重さが軽くなったかのようだった。
「あなたは、あの子たちを連れているのね」
ミサオは静かに言った。
その穏やかな声には、必要とあれば致命的な鋭さへと変わる、あの揺るぎない強さがあった。
ゾルベルは頷いた。
まるで、言葉にされなかったものまで理解しているかのように。
カドロスはシチューを口に運び、微笑んだ。
若い料理人は彼らとともに腰を下ろした。
もう友人たちについて語ることはなかった。
それでも火は燃え続けていた。
そして一皿一皿の味は、ただの温もり以上の何かを支えているようだった。
一行は、さらに一日かけて北西へ向かった。
景色は次第に険しくなっていった。
そこは雪の砂漠だった。
風が凍った粒を巻き上げ、針のように肌を打ちつけてくる。
静寂はほとんど完全で、硬く凍った霜を踏む靴音だけが、それを断続的に破っていた。
最後の宿場が近づいた頃、一人の土地の住人が見えた。
その土地に今も暮らす数少ない人間の一人だった。
古びた毛皮と獣脂の匂いをまとっている。
彼は彼らを見ると足を止め、長い年月に黒ずんだ木の杖に身体を預けた。
「宿場を探しているなら――」
その声は、粗い砂利のようだった。
「そこで休息以上のものが見つかる。少し前、冒険者の一団が写本を残していった。向こうにそびえる迷宮を理解するために役立つと言っていた」
男は視線を落とした。
まるで、自分のものではない記憶を思い出しているようだった。
「鋼のように青い髪をした魔術師を救出したあとに、それを書いたそうだ。髪は真っ直ぐで、まとめられていた。瞳はあまりにも澄んでいて、吹雪さえ見透かしてしまいそうだった。小柄だったが、驚くほど存在感のある娘だった。声を張り上げなくても、その場を満たしてしまうような人間だ」
風がさらに強く吹き、土地の男は顔を覆った。
「写本は宿場で待っている。本当にあの場所へ入るつもりなら……読んでおいたほうがいい」
風が唸り、彼の言葉を切り裂いた。
男は顔を覆ったまま、雪の白さへと溶けていった。
まるで、その警告を届けるためだけに存在した亡霊のように。
宿場には、男の言葉どおり写本が残されていた。
湿気と雪で染みだらけになった、使い古されたノートだった。
書き込みは急いで記されたものだったが、内容は明瞭だった。
閉じていく通路への警告。
そして、あの場所で響くものを決して信用するなという、繰り返しの忠告。
ミサオは黙ってそれを読んだ。
一行一行を、言葉の重さを測る者の静けさで追っていく。
やがてノートを閉じ、鞄へしまった。
「明日、入るわ」
声を張ることなく、そう言った。
エイナルはいつものように料理を申し出た。
簡素ではあっても温かい夕食を作れるだけの食料は持ってきていた。
再び火が灯る。
その香りが宿場の部屋いっぱいに広がり、木の隙間から入り込む寒さを、ほんの一時だけ追い払った。
彼らは急ぐことなく食べた。
誰もあまり話さなかった。
それぞれが、自分の思いを翌日のためにしまっているようだった。
外では吹雪が激しく打ちつけている。
それでも、部屋の中には別の静けさがあった。
空虚な静けさではない。
待つ者の静けさだった。
食事を終えると、彼らは休む準備を始めた。
物思いに沈んだ目をした弟子は、しばらく火のそばに残った。
熾火が燃え尽き、灰へと変わっていく様子を見つめる。
遠く、風の裂け目の向こうから、イスカヴィークの水の囁きがかすかに届いていた。
絶え間ない嘆きのような音。
空気よりも先に大地を伝わってくるような振動だった。
彼は友人たちのことを考えた。
いつも血の中に刻まれ、共に歩いている不在の者たちを。
そして、霧の淀むあの港の向こうで待っているものを。
夜はゆっくりと過ぎていった。
まるで時間そのものが、彼の覚悟を試そうとしているかのように。
夜が明けると、出発する前にミサオが隊形を決めた。
エイナルが前衛。
一歩先に出て、その間合いを活かして道を切り開き、近づきすぎるものを寄せつけない。
その隣にはカドロス。
短く力強い動きで側面を守る。
揺るがぬ壁のように。
中央を進むのはゾルベル。
周囲に注意を払い、マナの防壁を展開できるよう備えながら、予期せぬ攻撃にも即座に応じられるようにしている。
そして最後尾には、彼女。
静かに歩みながら一つ一つの細部を見逃さず、ただ一つの動きも無駄にしない者の正確さで、いつでも介入できるようにしていた。
隊形は決まった。
約束に導かれるように歩いてきたその若者は、まだ口の中に残るデザートの味と、肩に置かれたミサオの手の感触を思い出していた。
そして理解した。
明日、自分が戦うのは、ただ自分のランクのためではない。
いつかまた、空いた席に不在だった者たちが座る食卓へ戻るため。
レシィは待っている。
けれど、もう彼は一人では歩いていなかった。




