第11話「圧倒的な力の差」
冷たい風が吹き抜ける塔の入り口で、沈黙が痛いほど張り詰めていた。
泥と血にまみれたレオンとマリアンヌは、目の前に立つリゼットの姿から目を離すことができなかった。
「な、なぜお前が……伝説の魔法使い殿の隣にいるんだ?」
レオンが震える声で絞り出すように問うと、クロードは冷酷な藍色の瞳で彼を見下ろし、鼻で短く笑った。
「彼女は俺の唯一の弟子であり、俺が誰よりも愛おしく思う存在だ。貴様らのような薄汚い虫けらが、気安く話しかけていい相手ではない」
その言葉は、レオンとマリアンヌの耳に信じがたい響きとして届いた。
無能だと見捨てたリゼットが、世界最強の魔法使いの唯一の弟子であり、溺愛されている。
マリアンヌは顔を真っ赤にして、金切り声を上げた。
「嘘よ! そんなの嘘に決まってるわ! お姉様は魔力測定で無反応だったのよ!? 無能で、醜くて、何の役にも立たないゴミじゃない!」
その言葉が響いた瞬間、周囲の空気が急速に冷え込んだ。
クロードの瞳から明確な殺意が放たれ、空中の水分が瞬時に凍り、無数の鋭い氷の刃となってマリアンヌの喉元に突きつけられた。
「ひぃっ……!」
マリアンヌは悲鳴を飲み込み、その場にへたり込んだ。
「彼女の魔力の純度に気づけなかった貴様らの無能さを恥じるんだな。彼女はお前たちの何千倍、何万倍もの圧倒的な魔力を秘めている。それを測ることすらできなかった愚か者どもが」
クロードの冷え切った声に、レオンは絶望的な表情を浮かべた。
自分たちが捨てたものが、どれほど途方もない価値を持っていたのか。
その事実が、今になって彼の心に重くのしかかってきた。
しかし、彼には後悔している余裕はなかった。
遠くの森から、地響きを立てて魔物の大群がこちらへ向かってくる音が聞こえてきたからだ。
「……た、頼む! 過去のことは謝る! リゼット、君からも魔法使い殿に頼んでくれ! このままでは領地が、民が全滅してしまう!」
レオンはプライドを完全に捨て、泥だらけの地面に這いつくばってリゼットの靴にすがりつこうとした。
だが、彼の手がリゼットに触れるよりも早く、クロードが無言で彼を蹴り飛ばした。
「気安く触れるな」
地面を転がったレオンを冷ややかに見下ろした後、クロードはリゼットへと視線を向けた。
「どうする、リゼット。こいつらは放っておいても、俺とお前で魔物は片付けられる。こいつらを助ける義理はないぞ」
リゼットは静かにレオンとマリアンヌを見下ろした。
かつては彼らの言葉一つで傷つき、怯えていた自分が嘘のようだ。
今の彼女の心には、彼らに対する怒りも、悲しみも、もはや微塵も残っていなかった。
あるのはただ、完全に無関心な冷たさだけだった。
「あなたたちを助けるためではありません。私とクロード様の平穏な日常を脅かす魔物を、排除するだけです」
リゼットはそう言い放つと、彼らから完全に背を向けた。
その凛とした背中は、もはや手の届かない遠い世界にいることを残酷なまでに示していた。
レオンとマリアンヌは、自分たちが永遠にリゼットを失い、完全に底辺へと転落したことを悟り、絶望のあまり声も出せずに泣き崩れた。




