核心
遅くなってしまい申し訳ありません。
再び馬車に乗ってジャズリー家に到着した。以前展示会が行われたところはただキルアのアトリエがあった建物なだけで、いつもはイベントで使われているようだった。キルアはそこで暮らしてきたようだったけど、お父さんと和解したのをきっかけに家に戻ってきたらしい。うん、実に良かった。
「それにしても…」
「これはすごいな…」
「お前ら知らなかったのか?ジャズリー家の屋敷は文化財にも登録されてるんだぞ」
「え、本当に?」
でもたしかにそれも頷ける。なんでも曾祖父が芸術家だったようでその人が生涯をかけて造ったらしい。白を基調とした建物は複雑な模様をしているのにキチンとシンメトリーになっていて、見ているだけで魅了される。ヨーロッパにある世界遺産みたいな、そんな感じ。まあ実際に見たことないけど!
「ここの中に入れるなんてなぁ…!お前ら、早く行くぞ!」
「…なんかジンテンション高い?」
「ジンって意外とこういう文化財とか好きなんだよ。本をよく読むから、その舞台になってたりするんだって」
「へぇ…」
向こうでスキップして中に入ろうとすると止められてた。招待状持ってるの私なのにね。
「おーい!ミリア!早く来い!」
「わかってるって!」
ハイテンションのジンはなんだか癪にさわった。でもそれを態度には出さないの。なんで大人なのミリア!
門に到着して名前を言うと、奥からお爺さんの執事がやってきた。お爺さんなのにビシッとスーツを着て身なりが整っていてかっこいい!
「はい、貴方がミリア様ですね。坊っちゃまの件で大変お世話になったようで…私共もとても感謝しております」
「い、いえそんな!大したことは何もしてません!」
突然頭を深々と下げられてしまい、恐縮だ。私本当に何もしてないのに!でも顔を上げたお爺さんの目はとても優しくて、この人はずっとキルアを心配してたんだろうなって思えた。
「では、坊っちゃまの部屋にご案内致します」
中に入ると赤いカーペットに大きなシャンデリアがあって、廊下の壁には絵が描いてあったり、彫刻が施されていたりでとにかくすごかった。天井にも絵が描いてあって、どこを見ても本当に感動するばかりだった。私でこんな感動してるんなら、ジンはうるさいんじゃないの?って思ってたら、そういえば声がしない。なんでだろう?絶対騒ぎまくってると思ったのに。
そう思ってジンを見ると納得いった。こいつ、静かに泣いてる…。
「ジ、ジン…大丈夫…?」
「……ずっ、こ、この絵は…っ、『ガーベラの唄』って本で…っ!」
「ミリア、ほっときな。いつもこうだから」
「そ、そうなの…」
ジンって本当残念なイケメンなんだな。
「こちらが坊っちゃまの部屋です。キルア坊っちゃま、ミリア様が参られました」
「どうぞ」
大きなドアを開けてもらい中に入ると、キルアが絵を描いている途中の様だった。
「あ、ごめん!もしかして絵、描いてた?」
「いや、いい。そこ座って」
「お初にお目にかかります。ルイ・カイドウモンです」
「っ、ジン…・カイドウモンです…っ」
「ジンまだ泣いてんの?!」
「ミリアには…っ、わかんねえのかよっ!」
「泣き止んでよ恥ずかしい!」
「………キルア・ジャズリー。ソファ2つだから、ミリアは俺の隣に座って」
「あ、うん、わかった」
向かい合わせになっている黒いソファに座る。相変わらずノーブロリア一等級のソファはふわふわである。
「……で、この人たちは?ミリア」
「ほら、手紙で言ったでしょ?私が仲良い人たちだよ」
「ふぅん。ルイ、とジン?」
「ああ、はい。僕がルイ・カイドウモンです」
「ジン・カイドウモンだ」
「俺に何の用?」
「…少し、お話を聞きたくて」
あれ…?なんだか雲行きがあやしいような…。なんか火花散ってる?!なんで?!
「ああああのね!キルア!聞きたいことがあるの。前聞けなかったことなんだけど」
「聞きたいこと?なにかな」
あれ?優しい顔してる。なんでルイとかと話すときはあんなに怖い顔なのに…って!私すっかり忘れてた。キルアって元々人とあんまり喋らないんだった。つまり、人見知りなんだ!緊張しちゃってるからか。私がしっかりほぐしてあげないと!
「あ、その前に。お父さんとはどう?」
「ああ、あれからちゃんと話し合って今じゃ一緒にお茶もするよ。何年もまともに話してなかったから、楽しく過ごせてる。ミリアのおかげだ」
「そんなことないよ!私なんてただ変なおせっかい焼いちゃっただけだし…」
「ううん、ミリアがいなかったら、俺は一生あのアトリエで一人だった。だからミリアには感謝してる」
「そんなことないって!そういえば、ジンはこの建物どんなものか知ってるんだよね!」
よし、これでとりあえずジンと話をさせるぞ!
「あ?ああ、俺の読んだ本にもこの建物が舞台になったのがいっぱいあるからな。特に『ガーベラの唄』って本じゃさっきの廊下のとこでよ、恋人を守るために身を呈して敵を倒した男が死んだシーンで絵の描写があるんだよ。そこにガーベラが咲いてるっていうめちゃくちゃ泣けるやつで…うっ、」
「いや最後まで我慢してよ!男らしくないな!」
「ミリア」
「な、なにキルア」
「聞きたいことってなに?」
「え?」
ス、スルー?!ジンの語り思いっきりスルー?!これは人見知り拗らせてるタイプか…とにかく話題のある話をして自然に馴染んでもらうしかない…!
「じゃあズバリね。リリー・カインロス、覚えてる?」
「…覚えてるよ」
「じゃあその人のこと、ハッキリ覚えてますか?」
「………。」
「キ、キルア?」
「覚えるところと、覚えてないところがあるよ」
なんでルイと会話をしないの?!ルイもなんか探るような目でキルアのこと見てるし…二人とも人見知りなの?もう大人でしょ?
「え、えっと、じゃあどういうこと覚えてる?」
「名前と、顔。でも、顔があんまり思い出せなくなってきてる」
「キルアも…?なんかリリー気になることとか言ってなかった?」
「気になること…?特に」
「そ、そう…。なんか、黒い、魔法とか言ってなかった?」
「ああ、一度だけ黒い本の場所を聞かれた気がするな」
「本当ですか?」
「俺は今ミリアと話してるんだ」
「…そうですか、すいません」
「チッ」
「ちょっとジン!キルアも、人見知り拗らせすぎ!仲良くして!」
ルイが入ると会話しないしそれを見ていらついたのかジンは舌打ちするし、本当雰囲気が悪い!居心地が悪い!
「キルア、ちゃんとみんなと話して!ジンとルイとも仲良くなれるはずだから」
「……ミリアが言うなら」
「俺は別にいいけどなぁ、仲良くならなくても」
「ジン!本気で怒るよ」
「…へぇへぇ、わかりましたよ」
「氣功拳かましてやろうか?」
「…わりぃ」
「キルアって呼んでもいいですか?」
「…ああ、タメ口で構わない」
「じゃあ遠慮なく。君はリリーに惚れてたんだよね?なんで好きじゃなくなったの?」
「…別に、会わなくなったから」
「そのまま好きじゃなくなった上に顔も思い出せなくなってたりする?」
「なんで知ってるんだ?」
「ルイ、ロンお…様の言うこと本当だったみたいだね」
「そうみたいだ。ますます怪しくなってきたな…」
「おいキルア、ここには黒い魔法に関わるなにかが置いてあったりしねえのか?」
「ないよ。あっても俺はよく知らない」
「…そうか」
「リリーに惚れた時、どんな感じだった?」
「ル、ルイ、そんな深いこと聞いても…」
「別に。絵を褒められてすぐ好きになってた」
「なるほど」
絵を褒められて好きになっちゃうって…純粋すぎない?惚れやすい体質なのかしら。
「変なこと聞くけどさ、変な力を感じたりしなかった?」
「変な力?」
「そう、なにかリリーだけに気持ちが向いてしまうような、精神が操られてしまうような」
「それはよくわからないな。でも確かにあの女の言動には一々心に訴えかけてくるものがあった」
「じゃあやっぱりリリーは魔法か何かを…?」
「確かにリリーは俺の欲しい言葉を的確に言ってきた」
まるで全部知っていたみたいに。
そう続くキルアの言葉を聞いて、鳥肌が立った。キルアも恋をしている間は気づかなかったようだ。でもそんなの、たまたまでしょう?
最近転生モノの小説がたくさんある。私も友達に教えてもらったんだけど、大体乙女ゲームが題材で、その中に転生という形で入り込んでしまう話だ。もちろんどれも作られた話、つまりフィクションだから私も読んで面白いなって思ってた。でも、そういえば私自身にそんな転生みたいなことが起こってる。私は全く乙女ゲームの主人公に転生どころか、悪役になってしまったわけだけど…。最近よく悪役が好かれるなんて話もあるけど、私は全てが終わった後に嫌われたミミリア・ルーヴェルトンになっていた。私の身に起こっていること、魔法、それらを考えてもどこか物語の世界に入り込んでしまったとしても不思議はない。
一つの仮説として浮き上がるのは、
リリー・カインロスが乙女ゲームの主人公であること。そして本人がその乙女ゲームを知っていたこと。そしてーーーカイルを選んだ。
有り得ない話ではない。だって私も魔法が使える。私もリリーも、突然魔法が使えるようになったんだって。それはリリーも私と同じ、転生者だからかもしれない。それに、リリーは一度に五人ものイケメンを手懐けたのだ。最後はカイルを選んだけれど。もしここが何かの乙女ゲームの世界で、それをプレイしたことがある人が転生したら?全てを知っている。ここの人たちがどのようなことで悩み、どのような言葉が欲しいかを。
「…ア、ミリア!おい!」
「えっ!な、なに?!」
「急にボーッとして、どうした?汗もかいてるぞ」
「え、ああ、大丈夫…」
「ミリア、顔色が悪いよ?今日はもう帰る?」
「………うん、ごめん」
「ミリア、またいつでもこい。ミリアならいつでも大歓迎だ」
「おいキルア、俺らも歓迎しろよ」
「お前らは呼ばない」
「んだとぉ?!」
「ジンやめろ。ごめんねキルア、また来るよ。ミリア、立てる?」
「…うん」
ルイに支えられてなんとか立つ。思ったよりも、思い浮かんだ事実は衝撃的だったようだ。この世界が、ゲーム?じゃあみんな、自分の意思で動いてないってこと?そんなわけない。それならミミリア・ルーヴェルトンである私は嫌われてるはず。…もしかして、私の行動も操られているの?台本のあるゲームのように。
その日はどうやって帰ったのか、よく覚えてない。




