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思い出とキルア・ジャズリーの独白




さっきルイとジンと歩いてきた道をキルアの後を追いかけ走っていく。


「キルア…っはやっ!」


長い手足を存分に使ってスピードを上げるキルア。まだ泣いているのか後を追う私に偶に涙がかかってくる。どこに行くつもりなんだろう。


「あ?!おいコラミリア!」

「ジン!ルイ!ごめんもうちょっと待ってて!」


途中椅子に座ってるルイとジンを見つけたけどそれどころじゃない!泣いてるしほっておけないし…!


さっきと同じように薄暗い廊下を走ってたどり着いたのはさっきのキルアのアトリエだった。走る勢いのまま思い切りドアを開けあの絵の前に立った。


「キ…キルア…っ、ど、どうしたの急に…っ」

「……。」


ガチャン


肩で息をする彼は急に近くの大きい缶をとり、中身を絵にぶちまけてしまった。


「キルア?!な、なにして…?!……あっ!」


中身は、青い絵の具。灰色だった絵に、あの日の景色が戻っていった。完全には塗れてないけど、キルアの思い出に色が戻ってきたんだ!


「………俺、父さんはとっくにあの日のこと忘れてると思ってたんだ」

「…うん」

「違ったんだ。忘れてたのは、俺の方だった」

「でも、思い出せたね」

「……ありがとう」



「…ミリア、お前連れがいたんだろ?」

「ああ!忘れてた!そう、一緒に来てる人いたんだけど待たせちゃった。行かなきゃ」

「…また、会おう」

「うん、すぐ会うよ!お父さんともしっかり話しをしなね」

「ああ」

「約束だからね」

「…わかったよ」

「じゃあまた!手紙書くからね!」


リリーのことを聞こうと思ってたけど、今日はやめとこうかな。お父さんとしっかり話して、理解し合えたらいいな。っと!ルイとジンのこと忘れてた!やばい、怒ってるかな…?!でもさ、ちゃんとキルアと接触できたんだし!うんうん。座っている二人に駆け寄る、


「ごめん!色々あって遅くなっちゃった!」

「ほんと…どれだけ待ったと思ってんだ…?」

「ミリア、帰ったら罰ゲームで皿洗い当番と洗濯当番ね」

「なんでよぉ!キルアと友達になったんだよ?!ちゃんと接触したの!」

「ああ、お前が追いかけてた男、キルア・ジャズリーだったのか?」

「そう!リリーについて聞こうと思ったんだけど、ちょっと今日は止めておいた。その代わり、手紙は私の名前で書けば通れるよ!」

「まあ目的は果たせたし、罰ゲームはなしでいいか…」

「やったー!ありがとルイ!」








俺は父さんという画家が苦手だった。その血を引きながら才能がない自分が嫌いだった。父さんは遠い存在で、大人になれば嫌でもわかった。俺は父さんに叶わないと。


父さんを真似て好きで始めてた絵も年を重ねるごとに嫌いになっていった。どう頑張っても父さんに追いつけない。その焦りがさらに絵に出てしまって、余計に自分を苦しめていた。


忙しい父さんと小さい頃一度だけ出かけた海辺。いつもは絵ばかり描いている父さんが急に連れて行ってくれた。父さんと出かけることが初めての俺は海でひとしきり遊んだ。父さんは全然喋らなかったけど楽しかった。優しい顔をして俺を見ていてくれたから。遊んだ後は、テトラポットの近くに2人で座って海を見た。その時に父さんは言った、『お前は、お前の好きなことをやれ』と。父の絵を見てきた俺は迷いがなかった。絵がやりたかった。でもあの時悲しそうな顔をしたのは、画家の辛さを知っていたからなのか?


父さんとの差が身に染みてわかってからは、父さんから逃げてきた。話しかけられたくないとでもいうように家を出て行き、この建物に勝手にアトリエを借りた。父さんとの距離を感じたくないから自分から離れてしまった。…父さんに、なにもいわず。


でも今、俺は父さんと話したいんだ。父さんが伝えたかったことも聞きたい、俺も伝えなくちゃいけないことがある。控え室まで歩いて行き、立ち止まる。


「……っ、」


緊張、しているのか?俺は。手が震えてるじゃないか情けない。ミリアと、約束したんだ。心を決めて、ドアを開けようとすると、ドアが勝手に開いた。それは、扉の向こうの父さんがドアを開けたからだった。


「っ?!…なんだ、キルア、どうした」

「…っ、と、父さん…っ」


動悸がする。話さなければ。俺が、伝えたいことことを。でも、言葉が出てこない!


「父さん!」

「キルア」






「やっと、俺の絵を見てくれたな」


あの頃よりも少し皺の増えた顔で微笑む顔で言ったその一言で、俺の心は決壊した。父さんは、全部わかってたんだ、俺が出て行った理由も。不器用なりに、俺を助けようとしていたんだ。俺と同じように、小さい頃から画家として生きてきた人間として。画家の、厳しさを知る者として。そして俺はそんな父さんの優しさも知らないふりをして、逃げてきたんだ。


「…父さん!ごめん!俺は…父さんをすごく…っ、尊敬してるんだ!」

「……ああ」

「俺は、絵が好きだ」

「今まで以上に厳しくなるぞ」

「わかってる。ちゃんと、向き合うよ」


そう言うと父さんは前とは違い、嬉しそうに目を細めた。


「…では、行ってくる」

「…ああ、ありがとう、父さん」


父さんが出て行った部屋で俺はしばらく動けなかった。今までのわだかまりが、絡まっていた糸がするすると解けたように心が穏やかだった。


「ミリアの、おかげだな」


今日突然出会った少女。綺麗な顔をしていたのに、髪をポニーテールに一括りしサロペットを着ていた姿はボーイッシュだった。貴族ではないだろう。庶民か…?庶民と聞いて浮かぶのは金色の髪に紫の瞳をもってるあの女の人だ。俺はその人に恋をしていた…と思う。人に絵を見せることがなにより嫌いだった俺は学園の使われなくなった旧校舎で一人で絵を描くのを日課にしていた。そこに現れたのがリリー・カインロスだった。そして俺の絵を見てこう言ったのだ。


『貴方の絵はとても魅力的なのね…あたし、貴方の絵をこれからもずっと近くで見ていたいわ』


そう言って微笑む美しい彼女に目を奪われた。紫の目には吸い込まれるような不思議な魅力があった。そして俺は、嬉しかったのだ。父さんではない俺の絵を見たいと言ってくれたことが。それからは彼女に夢中だった。絵を描くことしか知らない俺は、彼女に想いを馳せて絵を描いた。それをプレゼントしていた。リリーはとても、喜んでくれた。あまり喋らない俺でも、静かに寄り添ってくれた。


彼女は、結局王子と結ばれてしまった。悲しかった。嫉妬に狂いそうだった。王子を殺してしまおうかとさえも思った。自分の中にこんな激しい感情があっただろうか?驚いてる俺に彼女は言った。「落ち着いて、キルア」リリー、君がそういうなら落ち着こう。ああ、不思議だ、さっきまでの激しい感情が嘘のように消えてしまった。リリーは本当にすごい。「好きになってくれてありがとう」なんて、リリーは優しいな。


そういえば一人、リリーと俺の仲を裂こうとしたのかルーヴェルトン家の長女が絡んできたっけ。リリーの焼いてくれたクッキーを、ゴミ箱に捨てたんだアイツ。思わずキレてしまって、


「人の優しさを踏みにじるなんて最低だな」


と一言言ったらどこかに逃げてしまったが。その時は怒りで包まれたが、リリーは笑ってた。あたしのためにありがとうなんて、優しいんだ。



学園を卒業してリリーと会わなくなってからはしばらく悲しかった。会いたかった。しかし、時間が経つにつれその思いも消えていってしまった。これは俺が前に進めているということだろうか?恋というものをしてこなかったからわからない。でも今は、リリーの顔は靄がかかったかのように思い出せなくなってきている。彼女のために、どんな絵を描いたのかもおぼろげだ。


次に俺を褒めてくれたのは先ほどの少女、ミリアだった。彼女は泣いてくれた。俺の絵を見て。彼女の瞳は真っ直ぐ俺を見て嘘はなかった。ここまで心を動かされたことはなかった。ミリアのおかげで逃げていた父さんとも話ができた。感謝してもしきれない。偶然に会ったミリア、初対面の俺にまっすぐ向き合ってくれたミリア。もっと、彼女のことを知りたいと思った。


「また、会いたい」





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