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腹痛には勝てない





『ビア・ジャズリー展 半生の鏡』




チケットに書かれている題名はそれ。彼のお父さんはビアさん、というのか。結構たくさんの人がいて、開く時間丁度に来たら少し並ばないと入れなかった。


「意外に人気なんだ…」

「意外にって!国がお抱えにしたがるくらいの画家だって言ったろ!それに今日は初日だからな。ビア・ジャズリー本人がいるらしい」

「それはちょっと見てみたい!」


本人がいるから混んでるのか〜。あれかな、新発売のCDの宣伝にアーティスト本人が売り場に来てる感じかな?違うか。


「あ、やっと入れる」


ようやく入ってさっそく入り口にあったのは私の身長の2倍くらいある巨大な絵。青と白が主に使われているその絵は、青い海と空を美しく、力強く表現しているようだった。厚塗りが得意なのかな?ビアさんは。美術なんてさっぱりだけど、綺麗か綺麗じゃないかくらいはわかるもんね!


「『今も』…?」


題名は『今も』?なんかしっくりこないなぁ。普通に海とか空とかいう名前ならわかりやすいのに。芸術家はひねりを加えたがるのかな?これだから芸術というものはバクハツだ!


奥に進んでいくといくつも絵が並ぶ。繊細な絵を大胆な厚塗りで表現する数々の絵は、とてもとても綺麗だった。


…と作品に感動する中で襲ってきたのは!


「え…痛い…!」

「はあ?」

「どこが痛いの?」

「す、すいませんトイレ行ってきます!ここいてください!」


んだよ、腹くだしただけかというジンさんの呟きを無視し、走ってトイレを探す。走ると言っても前のめりになりながらだから遅いけど。どこ?!あるドアをしらみつぶしに開けていく。うわあん、なんで係りの人もいないのよ!


こっち?

違う、こっちか?!

違う!痛いよぉ!


「ど、どこぉ…!」


夢中になって走ってるうちに周りにだれもいなくなってた。あれ、もしかして関係者専用とかいうところに紛れちゃったのかな…。


薄暗い廊下の奥にあったのは


「ドア?」


…ええい、とりあえず開けてみよう!この部屋にトイレがあるかもしれないし!


バンッ!


「失礼します!」


ドアを開け入ると人の気配はなかった。部屋を見た感じトイレではないけど…ここは、アトリエ?絵の具の独特な匂いにたくさんの紙。部屋も綺麗とは言えないけれど…。部屋を見ながら奥に進むと、


「!」


奥に進むと見つけてしまった。そこにあったのは巨大な絵。見た瞬間鳥肌が立ってしまった。だってその絵の景色は、入り口で見たあの絵にとても似ていたから。そして何故か、涙が出た。


「…あれ…、なんで…」


止まらない。涙が止まらない。自分でもわからない。なぜこの絵は青で描かれていないのだろう。とても似ているのに、なぜ灰色で統一されているのだろう。どうしてこの絵はこんなに、



「哀しそう、なの…?」



「だれ」

「うわぁおおおうっ!」


やばい、びっくりして変な声でた!だれもいないと思っていた部屋で突然聞こえた声にびっくりしたと同時に体制を崩し、そのまま近くのバケツに引っかかり転んでしまった。


「ふぎゃ!」

「…!」


痛い!鼻から転んだせいで鼻がツーンとする。涙が出てくる。なんて無様なんだぁ!声の主が駆け寄って起き上がらせてくれた。あ、ありがとう…。


「……大丈夫…?」

「ら、らいじょうぶ…れす…」


鼻を抑えながら顔を上げるとそこにいたのはーーーこ、この人は!


「キルア・ジャズリー!」

「……お前、だれ?」


灰色がかった髪の毛に無気力そうな眼!全てのパーツが整っていて、その憂いた顔には思わずため息を吐いてしまう!これぞ作品!これぞ完成された美術品!(以上ミミリア取り巻きの言葉)


そのお綺麗な顔の眉間に皺を寄せて私のことを見ている。完全に怪しまれているな。この人は確か無口で有名だった人だよね。


それにしてもなんたる偶然!この部屋はキルア・ジャズリーのアトリエだったのか!さっそくお目当の人に会えてしまった。


「…お前、俺と、会ったことあるか?」

「い、いや、有名なお父さんの子供だから知っていただけです!」


思わず記憶にある顔だから名前を叫んじゃったけどそうだ、初対面という設定なんだった。と、それを言うと口をキュッと結んで辛そうな顔をしてしまった。あれ…?


「…そうか」

「は、はい!えっと、キルアさんはここで何を…?」

「………。」


あれ、無視ですかーい!


「お前」

「え?」

「何故泣いていた?」


な、泣いてたことバレてる。けど何故って聞かれると私が一番困る。絵の上手さとかも本当にすごかったのもあるけど、すごく哀しさが伝わってきたと思ったら自然に涙が溢れてた。


「何故っていうか…これ、どうして青色じゃないのかなって」


そう、私の感じた哀しさはこの色から。絵自体は海と空を感じさせるものなのに、灰色に統一されているそれは、なんとももの哀しさに包まれていた。


「……何故、青色なんだ。何を知ってる?」

「な、何をっていうか、この絵には青が合うのになって思っただけ」

「………この景色は、青だった。俺の中ではもう灰色になってしまったけど。それは父さんも同じ…」


…無口って嘘かな?すごくよく喋ってるけど…?


「俺には、才能がないから…」

「才能ないの?!こんなすごい絵を描けて?」

「……父さんに、届かない。楽しく描けてた頃には、戻れない」



「青で描きたかった、遠い遠い父さんとの過去の思い出…。それはもう、色褪せてしまった」


…もしかして、有名なお父さんにコンプレックスを感じてるってこれのことかな…?彼にとってこの絵が何を指すのか。


「…色が感じられない」

「ス、ストップ!キチンと順序を追って話そう。ここで会ったからにはなにか縁があるってことだよ。私、貴方の話ちゃんと聞きたい」


だから…。


「だから、その前にトイレ貸して!」


あーん、シリアスな雰囲気ぶち壊してごめんねキルア・ジャズリー!でも腹痛がすぐそこまできているの。私はもう限界よ、ジョセフィーヌ。


面食らったような顔をしてすぐに戻った。あまり、表情が顔に表れない人なのね。感情の起伏が無いって訳じゃないみたい。


「トイレなら、奥」

「ありがとう!」


はぁ〜〜これで一安心一安心。






「あいつ遅くねえか?」

「まあ、お腹押さえてたからね」

「こりゃあ大きいのだな」

「こんな神聖な場所で下品なこと言うな、ジン」

「下品なのはあいつだろ?」

「………(否めないな)」





ミリアは決して腹痛で泣いていたわけじゃありませんよ!

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