優しい二つの世界
「ルイ!ジン!帰ったよ!」
「お前どこ行ってたんだぁ?」
「ロンお兄様に会ってきたの。それでね、なんと朗報だよ!打開策見つけてきちゃった」
「ミリア、もしかして…」
「そう!そのもしかして!ロンお兄様の名義で三家に手紙出してくれるって!」
「これで一先ず安心だな。手立てが見つかったわけだし」
「うん、でも了解の返事が来るかはまだわからないからね。なにせ他人に心を開かないことで有名な三人だったから」
「あ、そうか。ミリアの前の…ミミリアは同じ学園だったんだもんな」
「そう、まあ直接の関わりはごく少ないとしても情報としてはあるよ」
一人目、レッグス・モートン。
赤い瞳をもった目つきの悪さ、そして身体のデカさから怖がって近寄らない人が多い。彼自身もその赤い瞳がコンプレックスで、心を閉ざしがちな人。でも本当は動物とか小さい子が好きな純粋な心の持ち主らしい。
二人目、キルア・ジャズリー。
無口で無愛想な男。絵を描くことが大好きだが、有名な画家のお父さんを持ってることがコンプレックスで人に絵を見せようとはしない。
三人目、アクサス・モルガイト。
マーツォリア家の表の右腕、モルガイト家の息子。王家の子であるカイルと幼馴染。カイルとはライバルとして何かと戦ってきたいい戦友だったけど一歩及ばないことから“当て馬”なんて呼ばれたりすることもあって、気に病んでた。
「と、ミミリアが持ってた情報はこのくらい。取り巻きの子たちから聞いた噂だからなにが真実かっていうのはわからないけどね」
「一人はジャズリー画伯の息子だったのかよ…」
「知ってるの?」
「有名な画家だぜ。それはマーツォリアがお抱え画家にならないかって頼むくらい。でもジャズリー画伯は自由に描けなくなることに反感を持ってるからなりたがらねえらしい」
「そ、そんなにすごい人なの?!」
「確かに息子さんの評判は聞かないよね、出ててもいいのに」
「ああ、でもあれだけすげえ親を持っちまったら自分の無力さにコンプレックスをもってもおかしくねえよ」
「私、絵の良さとかなにもわからないから…」
「だろうな!見た目通りだ」
「ジン、喧嘩売ってんの?」
「まあまあ二人とも。芸術への心は芸術で育てるべし。なんとタイムリーなことにここにチケットがあります」
チケット?突然なんのチケット?ルイに近づいて見てみると…。
「え、ジャズリー展?!」
それって、キルア・ジャズリーのお父さんの絵画展ってことよね?!なんというタイミング!ちょうどやるのね!そのチケットを持ってるのね!
「ルイそれどうしたの?!めっちゃ偶然!」
「偶然なわけないだろ?僕だってどうやって三人と連絡を取ろうか悩んでたんだ」
「それで手に入れたのね…!」
「どーせ、裏ルートだろ」
「よくわかってるじゃんジン」
でもこれがあるなら手紙の返事を待たなくても、キルア・ジャズリーに会えるかもしれない!まあお父さんの絵画展にいるかはわからないけど…、どちらにせよ行ってみる価値はある!
「よし、これに行こう!」
「おいミリア、ルーヴェルトン家から手紙送ってもらったんじゃねえのか?」
「でも絵も見れるなら行った方がいいじゃん!」
「はぁ〜。わぁったよ。明日な」
ジンさんは、俺はもう寝るぞ〜っと言って寝室に行ってしまった。部屋にはルイさんと二人。
ルイさんと二人なんて久しぶりだな。ルイさんってよく見ても見なくてもイケメンだから、結構オーラにやられちゃうんだよね。
「ねぇ、ミリア」
「なに?」
「ミリアは、その、帰りたい、とか思わないの?」
帰りたい?もしかして私の元いた日本?
「僕らこんなこと手伝わせちゃって、帰る手助けとかなにもしてないけど…なにかあったら言っていいんだからね」
「ルイ…」
帰りたいと思ったことは何回もある。日本だったら安全だな、とか。殺されることなんてないし、ましてや誰かを傷つけることもない。プリクラとか撮って部活して勉強して…そんな生活ができた。日本にいたときは、部活めんどくさいとか勉強したくないとか思ってたけど、そんな当たり前の生活がないと考えるとそれもまた寂しいんだなって気づいた。けど…。
『この世界を救って欲しい』
一度だけ夢に見た神様。自分の好きな世界を、託してくれた。自然に受け入れられた。神様がなんでか、懐かしく感じたから。
「帰りたいって思わないこともないよ。だけど…私にはこの世界でやらなくちゃいけないことができたんだ」
「やらなくちゃいけないこと?」
「そう。それにさ、ルイとかジンとかだけじゃなくてたくさんの友達もできた」
ルイとジンの他にもロンお兄様をはじめ、ミジュア、エルミーさん、ゴンゾーさん、メリさんもね!
「私、それがとても嬉しい。過ごした時間は短いけど、この世界もすごく大事な世界なの」
だから、守りたいんだ。
「…そう」
呟いたルイさんはとても優しい顔をしていた。
(本物、だ)
「変な話してごめんね。じゃあ僕も寝るよ」
「あっ!いえいえ。おやすみなさい、ルイ」
「おやすみなさい、ミリア」
私も寝床に入る。目を瞑ると浮かんでくるのはお母さん、お兄ちゃん、死んじゃったお父さんの顔。それと同じくらい浮かぶのがルイやジン…、みんなの顔。どっちかなんて選べない。だって私は、どちらの世界の優しさも知っているんだから。
「…絶対に、救ってみせるよ」
ー
「…ミリア、ありがとう」
「神様?何故泣いているんですか?」
「下界が雨になってしまいますよ」
(君みたいな子を、待っていたんだよ)
「神様?」
「なんでもないよ。さぁ仕事に戻ろう!」




