目的
「あ、兄ってロンお兄様のことですか?」
「そうだ、話してたろ?リリー・カインロスについて」
「…は、話してましたけど、聞いてたんですか?」
「ああ、聞いてた。あいつがリリー・カインロスについてコソコソ嗅ぎ回ってたのは知ってたしな。それにあの女に惚れてる男は全員リークしてる。最も、今じゃ惚れてたって表現が正しいだろうがな」
「…ロンお兄様は、リリーがなにか精神系の魔法を使えるんじゃないかって言ってました。確証はないですけど。なんか、顔が思い出せないらしいんです」
「顔が思い出せないィ?あんなにあの女に夢中だった奴らが?」
「はい、だからおかしいなって言ってました。もしかしたら精神を操る魔法で無理矢理惚れさせていたのでは、と」
「ミリア、あのときそんなことを話していたのか?」
「うん、お兄様の方から。私も元々おかしいなって思ってたから」
「なるほど…確かにそう考えても合点はいくな」
ふむ、と考え込むルイ。
「でもそれじゃ色々矛盾がでてくるだろ。精神系の魔法なんて、黒魔法のひとつだぞ。それがなんで急に庶民が使えるようになるんだ?」
ジンの言う通りだ。この世界では生まれたときに魔法が使えるか使えないかが決まるらしい。前例にもないし、全く魔法の気配が無かったのに急に使えるのはおかしい。そう、私のように神様が手を貸したりしない限り。
前々から少し思っていた疑惑が広がる。
リリーも、どこか別の世界の魂が入った別人、だったりする?私のような。そしてあの神様が魔法の力を与えて、魔法を使った?有り得ない話ではない。だって現に今私が体験していることなのだから。あのまどろむ気分のとき、一回だけ話せたのは覚えてる。もう一度、どうにか話せれば…。
「ミリア、どうした?考え込んで」
「えぁ?!なんでもないよ!」
「他はなにか言ってねえのか?兄貴は」
「向こうもこれ以上はよくわからないって言ってからね…他のリリーに惚れてたひとも顔が思い出せなくなってるみたいだけど、本当なのかな?」
「…人づてに聞いても完全に信用はできねえな。ルイ」
「うん、話を聞いてみよう。フードの奴の正体も掴めるかもしれないし」
「全員のところに行くの?」
「ああ。ゴンゾー、級持ち潰しは別の奴らに頼ませてくれ。俺らは三人に話を聞いてくる」
「………。」
「ゴンゾー?」
「あ?!ああ、わかった、お前らは話を聞いてこい」
ボーッとしてたのか、ハッとした表情をして応えたゴンゾーさん。っていうか、三人の家に行くのって私もなのかな…?
「ね、ねえ、ルイ。三人の家に行くのって私も?」
「え?ああ、ミリアには着いてきて欲しいけど無理にとは言わないよ」
え〜。どうしよう。だって私ことミミリアは三人にすこぶる嫌われてたんだよ?まあ正体がバレないって可能性もあるけど、もしバレてもなにも言われないかなぁ。無駄に言われる悪口は言われるだけ疲れるんだよなぁ。傷つきはしないけど。
でも、三人は今リリーへの気持ちが無くなってきてるんだよね?それなら会っても無駄に睨まれたりしないかな?ミミリアって気づかない可能性の方が大きい気がしてきた。無駄に敵が多いのも嫌だし、いっそミリアとして協力を仰いでおくのもアリかもしれない。
「おい、ミリア、行くのか?行かねえのか?」
「うーん、行こうかな…」
「よし、とりあえず今日は帰るか。日程についてはまた連絡するわゴンゾー」
「おう、っていうか、お前ら泊まってけよぉ!久しぶりなんだから、一緒に川の字で寝ようぜ?!」
「うるせえ!お前自分の寝相わかって言ってんのか?!」
「本当だよ。ゴンゾーと隣で寝て安眠できた日はないね。ミリア、帰ろう」
「帰りません」
「え?」
「あ?」
「だろう?!ミリアもこう言ってるんだ!今日のところはもう暗いし、泊まってけよ!」
「ミリア、この家ベッドないから布団で寝るんだよ?」
「布団の方が好みです。それに…」
鋭い眼光でギンっとゴンゾーさんを睨むと、いきなり睨まれたゴンゾーさんはビクッとしながら言った。
「な、なんだ?ミリア」
「ゴンゾーさん、」
私は当初の目的を果たさなくてはいけない。
ごくりと唾を飲み喉仏を上下させるゴンゾーさん、泊まることに顔を青ざめさせるルイ、状況が飲み込めず目を丸くするだけのジン、静かな時間が流れた。
私がここに来た理由はリリー・カインロスの話をするためではない。
「温泉に、入れてください!」
そう!温泉に浸かりに来たのだ!




