独白 ロン・ルーヴェルトン
ロン・ルーヴェルトン視点です。
僕は彼女がとても好きだ。紫色の透き通った美しい瞳に、絹の糸のように細くて柔らかい金の髪の毛、自然なピンクの唇は自然と目線を惹きつける。彼女がふわっと笑うと冗談じゃなく一輪の花が咲いたように心が温まる。
リリーは家で常に気を張っていた僕のオアシスだった。長男として、後継として、ルーヴェルトン家に相応しい振る舞いが求められる僕には心が安らげる場所が無かった。家でも、学園でも完璧が求められる僕は正直ウンザリしながらもすでに諦めていた。これが僕の人生だと。それと反対に、妹のミミリアは随分と我儘に育った。親が後継になり得る僕にばかり構っていたためシッターに任せてばかりで放任していたのが理由のひとつだろう。親に構われない寂しさを埋めるように妹はルーヴェルトン家の権力を使い取り巻きというものをつくっていった。典型的な貴族令嬢に成り果てる妹を僕はいつしか壁を置き、少し冷たい目で見ていた。
学園でリリーと初めて出会ったとき、庶民の出身だという彼女に驚いた。この学園は魔法の使えない貴族が多い。特別科に魔法科があり、魔法が使えるクラスが設置されている。そこに彼女は所属しているそうだ。魔力の多さと成績の良さから特別に授業料免除の特待生で入学したらしい。
出会った時に彼女は僕に言った。
『そんなに笑顔ばかりで疲れない?わたしは庶民だから貴族の難しいしきたりとかわからないの。だから素の貴方とお話ししたいわ』
衝撃的だった。だって僕はいつも“完璧なロン・ルーヴェルトン”が求められていると思ったから。そんなことを言ってくれたのは彼女だけだった。思えば、その瞬間から僕は恋に落ちていたんだろう。リリーと仲良くなるようになってから邪魔になったのは妹だ。事あるごとに僕とリリーの仲を邪魔し、挙句リリーに暴言を吐いた。許せなかった。僕の、僕の大事なリリーになんてことを言うんだ。
周りの人に向けたことのないひどく冷めきった顔で言い放った。
「なんで君はいつもそう自分勝手なんだい?」
癇癪を起こせばなんでも罷り通るなんて思うな。僕のことに口を出すな。僕の前に現れるな。
一瞬酷く傷ついた顔をした妹だったがすぐに気丈な表情に戻り、「御免あそばせ」と言って去って行った。
そのあとリリーが「妹さんなんでしょう?大丈夫?」と聞いてきた。優しいな、リリーは。でもリリーだって少し口元が笑ってるじゃないか。よかった、喜んでくれた。
リリーは結局王子を選んだ。悔しくてたまらなかったがリリーに「気を落ち着けて」と言われ落ち着いた。「気持ちだけでも嬉しかったわ」だなんて、相変わらずリリーは優しい。
カイル王子が妹のミミリアに婚約破棄を言い渡した。彼の一存で、ルーヴェルトン家の存続は極めて厳しいものになった。怒りが収まらない王子はミミリアの家ごと潰そうとしたのである。極めて困る。確かに妹の行いは許されないかもしれないがマーツォリア王国屈指の大貴族。どうか位を下げるだけで気を落ち着けてほしいと首を垂れた。するとリリーが言った。
「悪いことした本人だけが、裁かれるべきよ。ミミリアを勘当してどこかに捨てることで、手を打ってくれない?ロンは大事な友達なの」
その言葉だけで王子は許した。ノーブロリア一等級からローバル一等級へ下がってしまったが文句は言ってられない。リリーは優しい。リリーのお陰でルーヴェルトン家は一応存続ができている。
僕はリリーの幸せを願うよ。たとえ側に居られずとも、君は優しい。僕のことを忘れないでくれるだろう。僕の想いは永遠だ。
そう、思っていた。
ローバル一等級に下がってからのルーヴェルトン家を支えるため毎日一生懸命働いていた。リリーに思いを馳せながら。だけどいつからだろう。思いだす彼女の顔に少しずつ陰りが生じたのは。段々と、彼女の顔がはっきり思い出せなくなっているのだ。それと一緒に、彼女への熱い想いも冷めてきている。あんなに好きだったのに、僕はどこかおかしいのか?
それに…、
それと反比例するように妹のあの時の傷ついた顔がはっきりと頭に浮かぶのだ。簡単に捨てた妹だったのに。
親が消し屋に依頼し、妹は馬車で連れて行かれた。なんの疑問も持たない妹はいつものように大好きなピンクのドレスを着て連れて行かれた。シンデォの森に捨てると言っていたが真実はどうかわからない。殺されているかもしれない、その前に女としての尊厳を奪われたかもしれない、色々な想像が頭を過ってはあの頃は麻痺していた罪悪感という針がちくりちくりと胸を刺していくのだ。
思えば何故、家族を捨ててまでリリーのことを優しいと思っていたのだろうか。あの頃の僕はどうかしてたのか、恋は盲目なのか?
こんな資格は無いだろう、わかっている。でももしもどこかで生きているとしたらどうか無事でいてほしい。




