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ラッキー助平は許しません



「…っていうかまだ歩きますか?」

「あ?もうへばったのか?」


いや馬鹿にしたようにしてますけどどんくらい歩いたかわかってます?!かれこれ日は傾いて次が出始めているのに!


「そりゃへばります!どんだけ歩いたと思ってるんですか!」

「まあざっと3時間くらいかな?」


なんであなたたちはそんなにピンピンしてるんですか?っていうか私自身の体力はあったとしても、ミミリアの身体じゃあダメだ。当たり前の話だけど。だって細くて筋肉で引き締まってるとは言っても御令嬢。最低限の運動しかしてこなかっただろう。それこそヨガとかランニングとか。移動だって馬車を使って自分の足は使わない。今は私の部活で鍛えた根性で歩いているような状態だ。


「…ミミリアの身体では限界です。休憩にしたいです…」

「でも夜になると森だからなにがでるかわからないよ?」


ヒエエ!それは怖い!この世界、狼なんてものもいるかもしれないし…!


「…頑張ります」


嗚呼、貴族令嬢の暮らしとかしてみたかったなぁ。っていうか私がもっと早くミミリアになってたら恋に盲目になって人生詰むこともなかったのに。家族にも迷惑かけたなぁ。私にとっては他人なんだからぶっちゃけてどうでもいい気はするけど、やはりミミリアの人生に1番関わってる人たちだから何故か申し訳なさは残る。ロンお兄様は元気かな?まあ最後はリリー・カインロスに『お兄様に手を出すな!』って怒ってたらその現場を見られて『なんで君はいつもそう自分勝手なんだい?』って言われてそこから口もきいてくれなくなったけどね。家族に突然‘君’なんて言われたらそりゃショックだよ。まあ言われた通りミミリアは自分勝手だったんだけどね。なにせお兄様大好きっ子だったから。お兄様の方はいつも距離を置きながら接していたみたいだけどね。…ミミリアはそんなことつゆ知らず、言っちゃえばブラコンだったわけだ。


そういえば今ルーヴェルトン家はどうなっているのだろう?地位的には王家に最も近いノーブロリア一等級だったけど、今はどうなったのかな…?さすがに長女が反逆とまでは言わないけどそれくらいの扱いを受けたんだから今までの様にはいかないだろう。ローバル階級にまで下がってたりする?そうだとしたら申し訳ないな。ま、私は勘当された身。ルーヴェルトンという名を名乗ることすら許されないのだ。関係ないと言ってしまえばそれまで。


…あ、でもミミリア馬車から落とされて石に頭を打ったのよね?殺されたってこと?嫉妬くらいで殺されるなんてたまったもんじゃない!っていうか婚約者ってミミリアだったんだよね?かわいそすぎる…。ま、ルーヴェルトン家がどんな状態であれ私のこと殺そうとしたんだよね!それならいいやしーらないっと。


「ミリア、もうすぐ森を抜けるよ」

「え、本当?!よかった、すでに足が棒みたいだもん…」

「細すぎんだよ、今日からはちゃんと食って筋肉つけとけよ?戦うことだって多くなるんだから」


え…ちょっとジンさん…少しドキッてしちゃったよ!『細すぎるから心配だな、ちゃんとご飯食べてる?』とか、言われたいセリフトップ5に入ってくる言葉じゃない?!前の世界じゃ肩幅の広いガッチリ体型だったから言われたことなかったもん。ニマニマしちゃう。ミミリアの身体万歳!


「おいなにニマニマしてんだ?気持ち悪りぃ」


笑い方に関しては言われる筋合いありません。

っていうかジンさんこういうの言えるタイプなのね…てっきり恥ずかしがって何も言えないウブなシャイボーイかとおもってた。


「ふ、ジンがミリアは細いからって心配してるね」

「はあ?!心配じゃねえ、足手まといになるなって言ってんだ!」


うんうん、わかってるのよジン・カイドウモン。私はあなたの優しさをしかと受け取りましたからね。


「ありがとうございますね、ジンさん!」

「お前のためじゃねえ!」


顔赤くして言っても説得力ないですからね。それにしてもジンさんは典型的なツンデレくんタイプだな。


そんなこんなで森を抜けると日は落ちてすっかり夜だった。王都に入って少し裏路地を抜けたところになにやらポツンと洋館が建っていた。


「あれが用意してもらってる別邸だよ。あそこには好きなときに出入りできる。場所は特定されないし、襲われる心配もない様に国が保護してくれてる場所だよ」

「え、それならずっとあそこにいたらいいじゃないですか」

「いや〜なんというかあそこは敷居が高くてね。妙に緊張してしまうというか…」


安全な場所ならいいじゃないか、と思っていたが中に入るとルイさんの言っていた意味がよくわかった。広い、広すぎる。そして豪華絢爛すぎる。すごくボリューミーなシャンデリアに、高そうなふわふわの赤い絨毯。大理石でできた机に白の革のソファ。飾られてる壺になんの意味があるのかはわからないが2千円くらいの品だとしても周りの高価そうなものにつられてとても高価なものに見えてしまう。あと廊下に飾られてる絵はなに?意味あるの?!目が合ってるみたいで怖い…。


「凄すぎて言葉も出ませんね」

「でしょ?王家の人の感覚ってちょっとわかんないよね。ここにいるだけで背筋がピシッてなってしまうんだ」

「それはわかるかも…」

「とにかく今日は疲れただろうし寝な。ベッドルームはあっちにあるから」

「あ、えっとお風呂は…?」


正直汗をかいてしまったから今すぐにでもはいりたい。だけどミリアの記憶を辿る限りお風呂という習慣はないように思えた。シャワーはあるっぽいけど、私は日本人。いつだって湯船に浸かりたいのだ!


「シャワーならあっちにあるよ」

「シャワーだけじゃなくて、お風呂です!」

「…?なにが違うの?」

「お風呂は、なんていうか身体を温めるために浸かるお湯が入ってるものです!」

「うーん、そういうのは設置してなかったかな。なにせ僕らもあまりこっちにはこないから」

「そ、そうですか…」


がーん。そんな効果音が鳴り響いてるような落ち込んだ私の顔を見てルイさんは慌てて言ってきた。


「そ、そういえば王都の真ん中の方に共同風呂みたいなもので、そーいうのがあるって聞いたような聞いてないような」

「本当ですか?!」


それは謂わばTHE 銭湯☆ってやつでは?!


「ただ、シャワーのない庶民の人たちが通うものだから身分のある者はあまり行かない所だけど」

「ぜひ行きたいです!だって私今貴族でもなんでもないんですから!」

「そ、そう?なら今度行ってみな」


これは楽しみだ。お湯に浸かってあったまることの極楽さを今の貴族は知らないのだな?可哀想に!人生の半分は損してるわ!オーッホッホッホッ!高笑いが止まらない!


「ではとにかく疲れたのでシャワー浴びて寝ます」

「うん、いってらっしゃい」


鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる。今日だけで色んなことがあったなぁ。いやほんとに。受け入れられてる私もすごいわ。いつ帰れるのかな、元の世界に。私探されたりしてるのかな?でも魂だけがこっちにきちゃってるなら身体はそのままなのかな?うーん。


ガチャッ


色々悶々と考えていると場面にそぐわぬ音がした。え?ガチャッ?


そこにあるのは上機嫌で身体を洗う私と腰にタオルを巻いた半裸のジンさん。


「え?ぁあまだ入ってたのか、悪りぃ」


ガチャッ


再び閉まる扉。


…。


………。




「キャーーーーーーーっ!」


その夜悲鳴がこだました。






ルイ「どうだった?」

ジン「なにが」

ルイ「は・だ・か」

ジン「バッ…!なんも見てねえ!湯気もあったし泡だらけだったし!」

ルイ「ふぅん、泡だらけだったんだぁ」

ジン「なんも見てねえ!俺は無実だぁ!」


ジンは意外に紳士。なのかな?

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