ふしぎなひと
「…いらっしゃいませ」
「ん?」
カフェの入口は片開きの扉、扉のガラス越しに話しかけている女性がいた。店の中に入り扉を閉めると、その女性がここの店員だと分かった。
黒のスカートに白の服、店長らしき男性と同じ柄の緑色のエプロンを被っている。黒に近い茶色の髪を1つ結びにしてポニーテールにしている。
「…ご自由にお座り下さい」
魔王を見つめているジトっとした目は、どこを見ているのか分からない。焦点は合っているはずなのに、見られている感覚がしない。
「…」
この女性はとにかくデカイ、何センチだ?すぐ隣の扉と同じくらいはある。魔王との身長差は30、いや40はありそうだ。
「高いですね…」
「…?」
首を傾け目の前のチビッ子の為に、膝に両手を置き腰を落とした。目の位置が同じになると停止し、空気椅子のような体勢になった。
「身長、高いですね…」
「…そうかな」
一切表情を変えずに問いに答える。キツイ姿勢なはずなのに、顔色を変えず、体も一切揺れることが無い。
ソッと視線を女性の足元に移した。ヒールや厚底は履いていない、黒色の動きやすい靴を着用していた。結んだ紐を靴の中に入れ、転びにくいよう対策をしている。
「ちょっと立ってみて」
「…?」
姿勢を正し、見下すように見つめる。
「ん…!手を伸ばしても…んぁ。届かない…!」
両手を限界まで伸ばしても届かない。つま先で立っても届きはしない。
「……ふふ…届かないね」
顔は笑っていない、口角も一切動いていない。言葉だけで笑っていると思わせてくる。口調も声色も一切変わらず、この女性には本当に感情があるのか、そんな疑問を持った。
「…ほら…好きな所に座りな」
女性は右手を軽く振った。
「貴方の名前はなんというのだ?」
突然の質問。客と店員の関係である以上答える義理はない。
「…亜美、…立本 亜美」
「私は魔王!よろしく!」
「…よろしくね」
変な子を目の前にしても驚く様子は無く、通常運転で対応した。
カウンターに近い席に座る。3人や4人で使う用のテーブルと椅子、1人で店に入ったのだから相席なんている訳もなく
「…ん」
亜美が当然かのように対面に座った。そしてテーブル端に置いてあるメニュー表を取り出し、対面に座る女の子に渡した。
「ふむ…」
トマト3つ、メロンソーダ(赤色ストロー付き)、チョコ(大きめ)、黒毛和牛定食、甘甘甘珈琲
「どれにしようか…」
「…おすすめは…甘甘甘甘甘甘甘甘水」
亜美はメニュー表の端を指差した。筆記体で書かれた大人気商品という文字の下に、コップに入った水のイラストが書かれている。
「じゃあこれで」
「…少し待っててね」
立ち上がりカウンターに向かった。店長から商品を受け取りすぐに戻ってきた
「…どうぞ」
ジョッキなみなみに入った水を机に置かれる。亜美は流れでまた対面に座った。
「感謝する」
ジョッキに入った水を飲んだ。ゴクゴクと飲んでからジョッキを下ろしたが、初めと殆ど変わっていない。大量に飲んだはずなのに見た目が一切変わらず、もう一口もう一口と小さい口で喉に通していくが、明らかに減らなすぎている。
「…美味しい?」
「うん……まぁ?」
「…ふふ…良かった」
また笑っていない。礼儀正しく対面の椅子に座り、真顔で見つめられている。ジョッキに口をつけ、上目遣いにちょろちょろと亜美をみる。
「…どうかしたの?」
咄嗟に目を逸らす。特に何があって見つめていた訳ではない、不純な考えもなく、ただ暇だから眺めていただけに過ぎない。でも、何故か目を逸らしてしまった
「なんでも無いです」
「…そう」
長い沈黙、その間も亜美は目を離してはくれなかった。
「そろそろ…お邪魔するぞ」
返事を待たずに立ち上がった。無言の圧が背中に刺さる…。退出する為に入口の扉の前へ歩く。すると背後から肩を掴まれ止められた。
「ん…?」
「…お金払ってないよ」




